■過去に発覚した八百長事件の数々

Jリーグ八百長の影が忍び寄っている。

そんなことを書いたら「何を言っているんだ」と言われそうだが、当事者たちは「八百長」を、起こりかねない現実的な危機として認識している。日本サッカー協会の田嶋幸三副会長は「世界中にある賭博会社220の内、実に170社が何らかの形でJリーグを賭けの対象にしている」と指摘。中国や韓国で実際に逮捕者が出た例にも触れつつ、「対岸の火事と思っていてはいけない」と明言する。

「日本人は大丈夫」。そんな根拠のない話をする人も少なくないが、日本のスポーツ界で過去発覚したモノに限定しても、野球の黒い霧事件、競馬の山岡事件、近年の大相撲をめぐる疑惑など数多くの事例がある。「サッカーは大丈夫」「サッカー選手でそんなことをする人はいない」とするのは、少々楽観的に過ぎるというものだろう。

日本も参加しているFIFAの八百長発見システム(掛け率の不自然な変化などから“疑惑”を指摘するシステム)に引っ掛かったJリーグの試合はいまのところないそうだが、それは逆に言えば、「公正なリーグ」と見なされて、より一層賭けの対象となっていくということでもある。その流れが続いたときに、今後もそうした話が出てこずに済むかと言えば、これは何とも言い難い。

■日本サッカー協会が打つ、大々的な施策

こうした背景を考慮し、日本サッカー協会は八百長対策として、インテグリティ競技会及び同プロジェクトの設立を10月10日に決定した(インテグリティとは「道義心に支えられた秩序がある」といったニュアンスの言葉)。

協議会の目的はサッカー界と、その外側の連携を図る組織である。参加するのは警察庁、警視庁、文部科学省、日本オリンピック委員会、スポーツ振興センター(totoを所管)の各代表者と、サッカー界のJリーグ、各Jクラブ、JFL、日本プロサッカー選手協会、JFA審判委員会、技術委員会の各代表者となる。狙いはコネクション、連絡網の構築。必要であれば、法整備も働きかけていくという。

また同時に設立されるインテグリティプロジェクトは、その実行部隊。選手契約書、行動規範、誓約書といった文書や規則の整備や、選手・審判に対する予防的な啓発活動を行う。また調査や通報を受ける窓口となり、賭博市場の監視組織にもなるという。またインターポール(国際刑事警察機構)やFIFAとも連携していく。

そして、いざ事件が起きた、あるいは事件が疑われた際の対応部隊ともなる。メンバーはJクラブ、Jリーグ、JFL、日本プロサッカー選手協会、JFA審判委員会および技術委員会の代表者で構成されるが、このメンバーの詳細については来月の理事会(11月)にて正式決定する予定だ。

大相撲の騒動を見ても明らかなように、あるいはイタリア・セリエAのあまりにも極端な凋落で一目瞭然なように、八百長は起きてしまえば、日本サッカー界全体を崩壊させかねない究極レベルのリスクファクターと言える。

Jクラブの急速な拡大は、広く地域社会にサッカーが浸透する原動力となった一方で、困窮するJリーガーの増大という問題も引き起こしている。八百長行為に手を染めるような輩はいないと信じたいところではあるが、人は弱いものだ。こうした八百長対策の大々的な実施は、悪事に走るのを思いとどまらせる「抑止効果」も期待できる。打つべき手は、残らず打っておくべきだろう。

起こってからでは、遅いのだから。

■著者プロフィール
川端暁彦
1979年8月7日生まれ、大分県出身。元「エル・ゴラッソ」編集長。現在はフリーとして活動。