一眼ムービーなんて怖くない! : 第9回 画像の書き出し設定は目的によって使い分ける
動画撮影の仕事では「撮ったデータをそのまま納品、仕上げはプロダクション」というスタイルもあるでしょう。特にCGなどが追加されたり、大きなプロジェクトの場合はなおさらです。ですが、私の場合はできるだけ「自分で仕上げる」スタイルでいたいと思っています。
実際のところ、私も含め、スチルフォトグラファーに直接、動画制作が持ち込まれる場合、ほとんどが低予算。映画やCMのような複雑な編集を要求していないケースが多いのです。その時、「編集をプロダクションに任せて予算オーバーをするよりも、動画を必要な順番に並べ、予算内で気に入ってもらえる状態まで持ち込むこと」は、私たちフォトグラファーにも可能なはずです。撮影した本人が編集を行なうのだから、ややこしい絵コンテや、わざわざプロデューサーを立てる必要もなく、もちろんその作業にふさわしいペイをいただくことが可能です。
クライアントにとっても、撮影サイドにとっても幸せな状態。これが私が動画編集まで請け負う最大の理由です。さらに、最低限の編集作業を覚えておくのは、自分のスキルアップに必ず繋がるという嬉しい「おまけ」まであります。
ただしその場合、フォトグラファーが完成データまで管理するわけですから、編集作業はともかくとして、「どのようなファイル形式で納品するか」「必要な画像解像度は?」「ビットレートはどのくらいがベスト?」「最適なファイルサイズは?」という問題に直面します。そこで、今回は私が考える最適な出力フォーマットに関してお話したいと思います。
ケース1:仕上げはプロダクションに任せるが、仮編集をして納品したい場合
プロダクションが最終的な編集をする場合でも、自分で仕上がりを確認し、不要なカットを外すといった仮編集をして納品することがあります。Final Cut Pro Xを使う最大の魅力の一つは、編集した動画をProRes 422として書き出せる点。ProRes422であれば、ほとんどのプロダクションに喜んで受け取っていただけます。しかも、Final Cut Pro XはバックグラウンドでProRes 422に必要なデータを生成しているため、書き出しはあっという間。ファイルサイズは大きいですが、後行程が非常にスムースです。
Final Cut Pro Xの書き出しをサポートするソフトCompressor4
Final Cut Pro Xからのデータを書き出すには、Compressorを使うのが定番。Final Cut Pro Xを使う場合は必須と言っていい。書き出しのパラメーターを細かく設定し保存しておくと、その設定をFinal Cut Pro Xからも呼び出せるので、クライアントチェック用、納品用などの用途に合わせて作っておく。上の画面は、「フレームサイズ(解像度):50%」「圧縮品質:低」「高速エンコード:1パス」「ファイル形式:QuickTime(.mov)」のクライアントチェック用設定。
また、長時間マシンを占有する長尺ものデータの書き出しには、メインマシンとは別に、Compressorをインストールした書き出し用のマシンがあると効率化が図れる。その際、書き出し用のマシンにFinal Cut Pro Xは必要なく、Compressorだけがあればいい。
ケース2:クライアントやデザイナーに見せる、確認用ラフ編集画像の場合
編集途中の確認用の場合、高速に書き出せて、どんな環境でも確認してもらえることが重要。私は「元のサイズの50%」 「ビットレートは1500bps程度」 「フレームレートは変更なし」「Web経由で確認してもらう必要があるため、ファイルフォーマットはmov形式かmp4形式」で書き出しています。50%で出力する理由は、ファイルサイズを減らすのが目的。640×360程度のサイズであれば、さらに低いビットレートでも劣化がありません。最近は、クライアント担当者も出先でiPadなどで確認するケースが増えているために、ファイル形式も.movか.mp4形式。wmv(Windows Media Video)形式やFLV(Flash Video)形式は、スタンダードでなくなりつつあるように感じます。
納品用動画の設定
たとえば解像度が720pで、全編にわたり動きの少ないインタビューのような映像は、1パスで2000bps程度を指定している。品質も充分で容量も小さく、書き出しも非常に高速。動きがゆっくりなシーンと激しいシーンが混在する映像は、マルチパスを選択するようにしている。書き出しに時間がかかるが、動きが激しいシーンでも画像の乱れが少なく、ファイルサイズも可能な限りコンパクトにできる。フォーマットは.movか.mp4を選択。どちらもH.264という圧縮方式を採用。PCの世界での汎用性は.mp4の方がやや高いようなので、筆者は多くの場合.mp4で書き出している。
ケース3:完全に仕上げた状態で納品する場合
発注元から指定がある場合、その通りにデータを作って納品すればよいのですが、「Webで使いたい」という大まかな注文で、後はこちらが判断しなくてはならないこともあります。その場合は、まず必要な解像度に合わせてサイズを決めた後、そのサイズと映像の動きに合わせてビットレート、フレームレートを設定します。
解像度は、映画館やイベント用巨大スクリーンであれば、4K(長辺で4000ピクセル)なども必要になりますが、テレビ放送であればHD(1280×720=720p :約92万画素)、あるいはフルHD(1920×1080=1080p :約200万画素)以上は要求されません。
さらにWebでの再生なら、HD以上のサイズは不要でしょう。720pあればフルHDサイズの画面で表示しても、それほど劣化は感じられませんし、Webの世界では、それでも大きすぎるくらいです。コンピュータ画面の表示では解像度の規定はないので、自由に設定できますが、縦方向240、360、480、720ピクセルという切りの良いサイズの方が画像劣化を、抑えることができます。個人的には、HDがハンドリングもしやすく、オールマイティなサイズと考えています。
ビットレートとは「1秒間に何ビットの情報を詰め込むか?」という情報量を規定する単位です。単位はbps(bit par second)で表され、動きが速いシーン、あるいは映像の空間周波数が高い場合、ビットレートを高くしないと画像の品質が保たれません。また解像度が大きくなればなるほど、同様に高いビットレートを要求します。
逆に言うと解像度が小さい場合は、ビットレートが低くてもあまり気になりません。ビットレートが高いほど画像は精細になりますが、その分、ファイルサイズは劇的に増加します。JPEGの圧縮率と同様と考えて良いでしょう。
フレームレートは1秒間に再生される画像(フレーム)の数で、単位はfps(flame par second)が使用されます。日本のテレビ放送は29.97fps(プログレッシブスキャンの場合)ですが、Webなどではこのフレームレートも任意に設定できます。フレーム数は多い方が動きが滑らかになりますが、動きを確認しながらできるだけ切り詰めることで、ファイルサイズが軽くてきれいな動画を作成できます。動きの少ないポートレイト風インタビューなら20fpsで書き出して問題ないことも多いです。
ただしフレームレートを変更するとレンダリングに時間がかかります(元の画像から時間的に間引いた画像を新たに生成しなくてはならないためです)。私は特に「どうしても品質を保って、もっとファイルサイズを減らしたい」などの要求がない限りフレームレートは変更しません。
以上、私の場合の納品データの作り方を紹介しましたが、ビットレートに関しては、その映像の内容(動きが激しい映像なのか、ゆっくりとした映像なのか)で、設定を変えています。ビットレートは動画の容量と品質を左右する最大の要と言ってもいい部分なので、次回もう少し詳しく触れたいと思います。