長崎県の離島「対馬」に対し、韓国の昌原市議団が訪問して領有権を主張しようとしていたことが分かり、対馬市議会が怒りを露わにしている。しかし、韓国からの観光客に頼っているジレンマもあり、対応に苦慮しているようだ。

「うちは、はっきりとお断りしました。『対馬は韓国の領土』という市議会の方々との面談には、対応しないということです」

観光客に頼るジレンマもあり、対応に苦慮

対馬市議会の事務局長は、取材に対し、韓国・慶尚南道の昌原(チャンウォン)市議会からの懇談申し込みが2013年3月18日にあったことを明らかにしたうえで、こう怒りをぶつけた。

韓国では、以前から対馬の領有権を主張する動きがあり、昌原市議会でも、合併前の議会が05年に「対馬の日」を制定して、その主張を盛り込んでいた。今回の市議ら53人は、そのときのメンバーが中心になっており、対馬市議会は翌19日、議員全員で対応を協議した結果、面談の拒否を決めた。

当初の申し込みでは、領有権主張の話はなく、26、27日に観光で訪れ、対馬の議員とも懇談したいとのことだった。しかし、昌原市議らは韓国国内では、領土問題について意見を戦わせると言っていたという。結局、昌原市議会は22日に訪問自体を止めることを決め、25日になって対馬市議会に連絡があった。

対馬では、韓国人が島内の不動産を次々に購入し、安全保障上の不安も以前から高まっている。また、最近では、市内の観音寺から仏像を盗み出されたうえ、韓国の裁判所が返還差し止めの仮処分を決め、騒ぎが広がったばかりだ。

それでも、韓国からの観光客に頼らざるをえない事情がある。前出の事務局長は、こう漏らす。

「うちは、主産業の農林水産業が衰退したため、観光客はなくてはならないものになったことは否めません。国内から呼ぼうとしても、航空運賃がかさんでしまうので、距離が近い韓国からの観光客は、必然的に多くなってしまうんですよ」

対馬市は、「国の支援があれば」と言うが…

島を訪れる韓国人は、1998年に300人ほどだったのが、韓国資本の進出がクローズアップされた2007年に約6万5000人に膨れ上がった。そして、12年になると、それが約15万人にまでアップしたのだ。これは、島の人口約3万4000人の4倍以上に当たる。

その理由について、対馬市の観光物産推進本部では、海の定期航路が増えたことが大きいとみる。

「韓国の船会社1社だけだったのが、11年10、11月にそれぞれ日本と韓国の船会社が参入し、計3社体制になりました。競争激化を受けて、運賃が安くなり、一気に観光客が増えました。韓国の方々は、日帰りで来て、免税店に寄ることが多いですね」

円安が進めば、さらに来やすくなって、場合によっては、13年は15万人を突破する可能性があるそうだ。

韓国進出への不安から、ネット上では、韓国の定期船を中止し、中学や高校の修学旅行を誘致したりすればよいとの意見が出ている。しかし、観光物産推進本部では、「うちは自然と歴史がセールスポイントですが、同じところは日本全国にたくさんあります。国などの支援があれば助かるのですが…」と言う。

対馬市は、観光や産業などの振興や国境警備の強化などを盛り込んだ「国境離島特別措置法(仮称)」制定を求める要望書を4、5月にも国に出したい意向だ。市議会では、12年末にその制定を求める意見書を可決している。とはいえ、国交省や内閣官房の担当部署に取材しても、法案についてはまだ検討もしていないと、素っ気ない反応だった。