早ければ、来年中にも、内川聖一はNPB史上最高打率の右打者(4000打数以上)に躍り出るはずである。現在の右の最高打率はブーマーの.3175だが、来年内川が552打数180安打、打率.327を打つとこれを抜き、同時に4000打数に到達する。

歴代右打者のベスト10。

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内川が屈指の好打者であることは、これでもわかる。同時に内川聖一は非常に不思議な打者だ。私は勝手に、中距離打者とは?「本塁打数/二塁打数」が1.00以下で、?被三振率(三振数/打数)が.150以下の選手だと思っている。内川は、?は0.48、?は.119。本塁打がこんなに少なくて、打率がこんなに高い右打者は、75年のNPB史上でも皆無だ(近藤唯之みたいだが)。
内川と比較すべき右打者は見当たらないが、左打者ならこういうタイプはたくさんいる。イチロー、若松勉、与那嶺要、篠塚和典。いわば、内川は「左打者のような右打者」なのだ。
よく言われるように、右打者は左打者よりも半歩以上一塁への距離が遠い。内野安打数で右打者は左打者に大きく差をつけられる(今季の内川も内野安打はわずか5本)。だから右打者は(統計的に50%以上安打になる確率がある)外野にいい当たりを飛ばさなければ、安打を稼げない。自然、右のアベレージヒッターは、長距離打者ということになる。しかし、内川だけは大きいのをそれほど飛ばさないにも拘わらず、安打を量産しているのだ。これはおどろくべきことだ。
さらに、内川は三振も少ないが、四球も少ない。早打ちなのだ。これも一般的には打率を上げる上では不利なはずだ。しかし2008年、IsoD(四球率).036という低さで、内川は右打者としての史上最高打率を挙げている。
もう一つ言えば、内川は右投手に強い(今季も.333、左は.350)。対戦数の多い右投手に強いのは、高打率を上げるための必須条件だ。内川は左右の投手を苦にしていない。広角に安打をばらまいていく。強いてあげれば、内川は「右のイチロー」だと言えるのではないか。
彼のキャリアSTATS。

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イチローがNPBからMLBに移籍してすぐに首位打者をとったように、内川もセリーグからパリーグに移籍して、おそらくは対戦する投手のレベルがかなり上がったにもかかわらず首位打者に輝いた。統一球の導入で、打者が軒並み打撃成績を下げる中で、前年よりも大幅に打率を上げている。統一球に負けなかった打者として西武の中村剛也が名高いが、内川も素晴らしいと思う。
今季の内川は、6月から7月にかけて左腿の故障で長期離脱した。故障が多いのが内川の最大の欠点だ。しかし秋山監督は、内川に絶大な信頼を寄せて、スタメンに入れるときはすべて3番に起用した。その信頼関係が、内川の奮起を呼んだのだろう。
パリーグからセリーグに移って活躍した打者は枚挙にいとまがないが、その逆は稀である。内川は、NPBの軸足がセからパへと移りつつある時代を象徴している。
これから全盛期を迎えようとする異能の打者、内川聖一には、左右通じての最高打率であるリーの.320に迫る成績を上げてほしい。