福島第1原発を視察後、周辺地域を「死の街」と表現したことなどが発端となって経済産業大臣を辞任した鉢呂吉雄氏。テレビなどの報道よると、鉢呂氏は"オフレコ"の場で記者らに対し「放射能をうつしてやるぞ」といった発言をしたとされるが、鉢呂氏本人は辞任会見で「記憶にない」と語っている。ニコニコ生放送では2011年9月13日、特別番組「鉢呂大臣辞任は記者クラブの『言葉狩り』なのか?」を放送し、一連の報道の裏側で何が起きていたのかを検証した。

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http://live.nicovideo.jp/watch/lv63596409?po=newslivedoor&ref=news#00:03

 以下、番組の内容を全文書き起こすかたちで紹介する。

■「暴言記者」と「記者クラブメディア」2つの問題

ニコニコニュース編集長・亀松太郎(以下、亀松): 皆さん、こんばんは。ニコニコニュース編集長の亀松太郎です。今晩は『緊急特番!鉢呂前大臣辞任は記者クラブの「言葉狩り」なのか?』と題して放送をお送りいたします。先日、不適切な言動をしたということで、鉢呂前経産大臣が辞任に追い込まれました。今回は、その辞任の是非というよりは、その辞任に至るまでのマスコミの報道に焦点を当てて番組をお送りしたいと思います。それによって政治報道の現状と、あるべき姿について考えていきたいと思います。それではさっそくゲストをご紹介します。まずは、私の隣にいる東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋さんです。

東京新聞論説副主幹・長谷川幸洋(以下、長谷川): こんばんは、長谷川です。

亀松: 続きまして、元・NHKの記者で、現在はみんなの党の衆議院議員・柿沢未途さん。

みんなの党・柿沢未途衆議院議員(元・NHK記者)(以下、柿沢): こんばんは、よろしくお願いします。

亀松: そしてお隣が、元・上毛新聞の記者で、現在は民主党の衆議院議員・宮崎岳志さんです。

民主党・宮崎岳志松議員(元・上毛新聞記者)(以下、宮崎): 宮崎です、こんばんは。

亀松: 今いろいろ(ニコニコ生放送の画面に)コメントが書き込まれておりますが、ニコニコ生放送ですので、コメントを今モニターで観られるようになっております。こちらも随時観て、反応できれば反応して、反応できなければ反応しないというかたちで進めていきたいと思います。

スタジオ: (笑いが起こる)。

長谷川: 当たり前だ。

亀松: では、今回ユーザーの皆さんからメールというかたちで、ご意見ご質問も募集しております。いま映っている番組ページの下の投稿フォームから送ることができますので、そちらからドシドシお寄せください。いくつかは紹介させていただきます。では、まず今回の鉢呂吉雄さんの辞任なのですが、これは皆さんも、もうご存知だと思いますけれども、いわゆる「死の街」という発言、それから「放射能をうつしてやるぞ」というような主旨の発言があったということで、批判を浴びて辞任に追い込まれたのですが、その辞任の会見が9月10日土曜日の夜に開かれました。こちらニコニコ生放送でも生中継をしたんですけれども、まずその様子を一度振り返ってみたいと思います。2分ほどのVTRになります。皆さん、まずご覧ください。

(以下、辞任会見のVTRが流れる)

鉢呂吉雄元経済産業大臣(以下、鉢呂): 遅い時間にお集まりいただきまして、大変ありがとうございます。本日、野田総理大臣にお会いをし、私経産大臣を辞任いたしたいという申し出をさせていただき、総理のほうから受理をしていただいたところでございます。私の一連の発言で、国民の皆さん、そして取り分け福島県民の皆様に、多大の不信の念を抱かせ、大変心からお詫びを申し上げるところでございました。大変どうもすみませんでした。

暴言記者: あなたね、国務大臣をお辞めになられるんでしょ。その理由ぐらいちゃんと説明しなさい。

鉢呂: 私も、非公式の記者の皆さんとの懇談ということでございまして、その一つ一つに定かな記憶というものもありませんので・・・。

暴言記者: 定かな記憶がないことで辞めるんですか。定かなことだから辞めるんでしょ。きちんと説明ぐらいしなさい、最後ぐらい。

鉢呂: そういう風に私は、「国民の皆さん、福島県民の皆さんに不信の念を抱かせた」と、こういう風に考えておるところでございます。

暴言記者: 何を言って不信の念を抱かせたか説明しろと言ってんだよ。

鉢呂: ですから、今お話した通りでございます。

暴言記者: 何を言ったかが・・・。

フリージャーナリスト・田中龍作(以下、田中): そんなヤクザ言葉あなたやめなさいよ。記者でしょ。品位を持って質問してくださいよ。

鉢呂: 大変すみません。私なりに精一杯話しているつもりで、ご理解をいただきたいと思います。

別の記者(以下、記者A): 国会の審議・・・。

鉢呂: はい、どうぞ。

記者A: 改めて、やっぱりちょっと理解・・・。

田中: (暴言記者に)恥ずかしいよ。君はどこの記者だ。

鉢呂: ひとつひとつの記憶が定かでないと言っちゃ、やっぱり責任を持たなきゃなりません。まあ2日前のことですが、先ほども言いましたが、たぶん5分か10分の立っての非公式の記者懇談。私もいろいろ経験していますから、その経験が仇になったかたちかと思いますが・・・。

(VTRはここまで)

亀松: いまご覧いただいたのが、9月10日の鉢呂さん辞任会見。編集をかけて、ポイントとなるところを今、再度流してみました。僕はこれ135回くらい観たんですけれども、何回観てもちょっと笑ってしまうという。特に最後の田中さんの一言でおもわず吹き出してしまう。田中さんというのは、最後にいさめた記者ですね。というところなのですが、皆さんまず率直なご感想を。この今のVTRを観られてどうですか、長谷川さん。

長谷川: 当時大臣、今は代議士ですけど、鉢呂さんが言っているように「何と言ったか記憶がない」という点ですね。あとに僕、触れますけども、これが1つのポイント1点。それからもう1つは、いま流れていましたけど、「暴言記者」という、これはサイドストーリーだけども、これも1つ記者クラブメディアの問題というのが出たなと思います。その2つですかね。

亀松: なるほど。ちなみに暴言記者、最後田中さんは「どこの社だ」と言っていますけど、あれはどこの社なんでしょうか。

長谷川: もう今(ニコニコ生放送の画面に)いろいろ出ているじゃないですか。いろいろ出ているけども、ある社です。記者クラブの人です。

亀松: 記者クラブの方なんですね。なるほど、わかりました。ここでは、あまりそこは追究しないまま前に進みたいと思います。

■「いびつな正義感」で歪んだ職業意識

亀松: 柿沢さんはいかがですか。

柿沢: いや、私この会見を観たのは、これが初めてなんです。

亀松: ええー!

柿沢: ニュージーランドに行っていまして、私が書いたツイッターをいろいろと(ツイッターをまとめるサイト)「トゥギャッター」とかでやっていただいたんですけれども、あれだってニュージーランドの空港から打って出ましたので、辞任会見は観ていないんですが、あの「説明しろって言ってんだよ」っていうのは、本当にすごいですね。大臣に対するものの言い方としては、ちょっと考えられないと思いますが・・・それだけ何と言うかイライラしていたんでしょうね。

亀松: 柿沢さんも最初は、NHKの記者としてお仕事を始められたわけですけども、さっきの会見ってよくテレビドラマなんかでああいう激しく追及する記者って出てきますが、実際の会見でもよくいるんですか、ああいう人は。

柿沢: 私はもう、駆け出しで4年で記者を辞めていますけれども、最初の長野放送局にいた頃は、やっぱり事件に関連して県警がまともに答えないというのは結構あるパターンで。その時には、やっぱりかなり詰めるような場面はあったと思います。そういう意味では、ちょっといびつな正義感に発して「自分は正しいことをやっているんだ」と思うからこそ、ああいう風に声を荒げることができる。こういうちょっと歪んだ職業意識がああいう言動を引き起こしているという風に、自分の体験からしても思います。

亀松: ちなみに柿沢さんは、そういうことをやったことはあるんですか。

柿沢: それはないとは言えません。

亀松: ないとは言えない。はい、なるほどわかりました。では、もう一方。宮崎さんは元・上毛新聞の記者だった。今は逆に政治家の立場ですけれども、今の会見はどのようにご覧になりましたか。

宮崎: 私が思うのは、先ほどの暴言を吐いた記者という方がいます。なぜ、そこまであそこで詰めなければならなかったのかという話なんです。僕はちょっと理由を推測はしていることがあったんですけど、何となくやっぱりそうなのかなと思うことがあって。1つは結局、「囲み取材」(だということ)。今日は朝日新聞が検証記事を出していますけど、経済部の記者が5〜6人いて、かつそこに政治部が朝日新聞とNHKが加わっていたという書きぶりになっています。実はそこの囲み取材の場に参加していなかった記者があるわけです。それは産経新聞と東京新聞とテレビ東京と時事通信だというのは、その朝日の検証記事に載っているのですが、その他テレビ(局)も何社かそうだろうと。

 結局、鉢呂さんが問題発言をしたという話、放射能の発言ですけども、これを実際には聞いてないわけです。聞いてないけども、よその社が書いたから書かなければならない。ただ、そこにいたのは鉢呂さん本人とSP(要人警護に従事する警察官)とよその会社しかないわけだから、例えば毎日新聞に対して時事通信が「そういう発言あったんですか」と取材をすることになるんだけど、公的にはたぶん答えてくれないのだと思うのです。そうすると、結局あそこで書かないといけないから、なんとなく皆が書いているから事実だという裏付けがあるとして書いたのだと思うのですけど、あそこで鉢呂さんに「私は確かにこう言いました」と言わせない限り、常に自分たちは確証を持たないまま書き続けなければならないという、非常にどつぼにはまっていったわけです。

亀松: なるほど、なるほど。

宮崎: その焦りが、今の(暴言記者の)非常に強い口調になったのではないかという風に、自分の経験も踏まえて、何となくそういう風に感じました。

柿沢: 要するにそれは「特オチ」(どの報道機関も報じていることを、自社だけが報道できない状態)に事実上なっている。それを何としても確認取らなきゃいけないという、そういう焦りがあったということですね。

宮崎: そうですね。だからあそこで鉢呂さんに言わせてしまえば、「確かに鉢呂はああいう発言をしたんだ」という風に今後も書き続けられるけども、あそこで確認しないと、つまりいつまでも「他社が書いているから、うちも書く」みたいなモードから抜け出せなくなっちゃうのですね。

亀松: なるほど、わかりました。いまお話にあったのが、これ僕コピーを持っているんですが、今日の朝日新聞の朝刊に載った検証記事。「メディアタイムズ」という欄に出た「鉢呂氏の放射能発言、経緯は」というので、かなりこれ、良くできた記事かなと僕は思ったのですが。残念ながらネットでは見られないみたいなので、今だったら図書館とかに行って見てほしいんですけど。

 ここの記事によると、今回のこの放射能の「うつしてやるぞ」みたいなことを最初に報じたのがフジテレビではないかと。フジテレビが9日金曜日の午後6時50分頃にニュースで「防災服の袖を取材記者の服に擦り付けて"放射能分けてやるよ"などと話している姿が目撃されている」と伝えたんですね。僕もVTRを見直してみたら、(キャスターの)安藤優子さんがそういうことを伝えていたんですけれども。要は、金曜日の午後7時位の時点でフジテレビがまず最初に伝えて、その後、今度TBSの「NEWS23」で11時半頃、それを追いかけるようなニュースが流れ、さらにNHKも12時頃に今度はネットに掲載したというのが書いてあるのですが。実は時事通信というのは、今僕らがやっている「ニコニコニュース」というところに記事配信をしてもらっているのです。一般紙とかでは唯一、時事通信だけ僕らはもらっているのですが、時事通信のこの記事が配信されたのが、実はその翌日ですね。土曜日のようやく午前10時51分になって時事通信の記事は流されたと。だから、だいぶテレビ各社がもう散々流した後に、午前11時頃になってようやく記事が配信されてきた。しかもこれ、記事を読んでみると"そういう主旨の発言をしていたことが関係者の話でわかった"と。やっぱりその伝聞調の記事になっていて、時事通信の記者さんはその場にいなかったので、なかなか追いかけたくても追っかけられなかったのかというのは、ある意味推測はできるなと。

宮崎: そうですね。

■「実は、さっきまで鉢呂さんにインタビューしたんです」

亀松: 最初から結構突っ込んだ話になってしまったのですが、本当は最初ユーザーの皆さんにアンケートをやりたいと思っておりまして、今から(画面に)アンケートが出ますので、これを見てお答えください。質問は「鉢呂前経産相は辞任すべきだったと思う」。辞任すべきだったと思う人は「はい」1番を押してください。それからそうではないと思う人は「いいえ」を押してください。わからないひとは「分からない」3番をお願いします。アンケート結果が出るまで、少しお話なんですが・・・皆さんはどうですか。

長谷川: 宮崎さんが仰ったことがかなり核心なんですよ。このアンケートに答える前に、この議論をちゃんと聞いてほしいのだけれど。

亀松: なるほど。はい、わかりました。

長谷川: このコメントの中にも散々出てくる。つまりフジ(テレビ)は、「伝聞で流したの? 伝聞でいいのか?」という話が(画面にコメントで)バーッと流れていますよね。宮崎さんが仰ったことを核心だと僕が言う意味は、まだ真相がわからないんです。第一報はフジなんです。フジは「伝聞」なんです。伝聞にも関わらずフジは書いたから、それなりに根拠があったと思うのだけど、それはまた後でしゃべりたい。だからまず、このアンケートを答える前提として、真実は何だったのかと。何を言ったのか。ここをはっきりさせないと議論が始まらないんです。そう思って、今日僕は、実はさっきまで鉢呂さんにインタビューをしたんです。

宮崎: 本当ですか!

全員: おおー。

長谷川: 鉢呂さんは全部、記者(のインタビュー)を断っていたんだけど。私のインタビューも初め、お昼の段階では秘書の方がお断りになったんです。ところがそれから数時間経って、ご本人が「受けます」ということで、私は4時半から鉢呂さんの議員会館の事務所へ行ってインタビューしてきました。それでいろいろ聞きました。わかったことがかなりあるんです。まず、鉢呂さんが最初から仰っているように、例の「放射能をうつしてやるぞ」、それから「(放射能を)分けてやろうか」いろいろ言われましたね。あの各社の報道は全部てんでバラバラじゃないですか。全部違うんですよ。

亀松: フリップを用意していますので、一応それも。

長谷川: じゃ、それをまず紹介してくれますか。

亀松: はい。ではフリップを映してください。大丈夫ですか。これ今実際にはこういう感じで出ています。

長谷川: つまり毎日(新聞)は「(放射能)つけたぞ」。読売(新聞)は「ほら、放射能」。朝日(新聞)は「(放射能)つけちゃうぞ」。産経(新聞)は「(放射能を)うつしてやる」。日経(日本経済新聞)は「放射能(を)つけてやろうか」。全部違うでしょ発言が。普通こういうことはないんですよ。だって囲み(取材)だから。テープも録っているはずなのです。ところが鉢呂さんご本人に聞いたら、「ああいう発言をした記憶がない」と。

亀松: ええ!

長谷川: 終始一貫、彼は会見の時からそう言っているんです。いまだにないと。取材した記者が「録音を録っているんじゃないですか」と。普通こうやってマイクを出すから。「録音どうですか」と言ったら「録音はなかった」と。彼が認めているのは「僕は"ほら"と言った」(かも知れない)と。だから読売(新聞)の「ほら、放射能」に近いのだけど、"ほら"の次の、"ほら"までは言ったかも知れないけど、"放射能"という言葉を出したかどうかはわからない」と。それから毎日が最初に報じたように「防護服を擦り付けた」(について)、「あれはない」と。ああいうことはしていない。まあ、記者に一歩近付いたぐらいのことはあったかも知れないけど、それはないと。「これの言葉は全然私は覚えていない」と言うんですね。だから、むしろ鉢呂さんの仰っていることが真実であるとすると、この話は前提からひっくり返るのでありまして、いまだに真相がはっきりしていないということがまずポイントの第1なんです。

亀松: なるほど。

長谷川: いま起きてしまっている事態、つまり辞任に至る事態は、いま亀松さんが仰ったように、フジテレビの(夕方)6時50分・・・朝日新聞によれば。これ朝日新聞もこの(記事)中に誤報があるんです。この誤報については後からご説明しますけども。フジテレビが(夕方)6時50分で書いたのは、今ご紹介あったように伝聞なんです。「その5人の中にはいませんでした」と鉢呂さんは仰っています。なぜならフジテレビの記者さんは女性記者なんです。固有名詞も鉢呂さんご存知。私には固有名詞を教えてくれました。「あの記者がいたなら私はわかる、女性だから」。(非公式の懇談会にその記者は)いなかった。・・・ということは、フジは伝聞で第一報を流したんです。皆さん、記者経験があるからおわかりになると思うけど、「伝聞で活字あるいはテレビに流す」(ということを)普通しますか?

宮崎: あり得ないですね。

長谷川: あり得ないでしょう。僕もようやりません。それは記者仲間から例えそういう情報があったとしても、伝聞でやって、万が一間違ったら責任は私が被るじゃないですか。やる場合でも鉢呂さんご本人に確認しますよね。

宮崎: そうですね。

長谷川: 確認しますよね。僕はその点を今日、鉢呂さんに聞くのを忘れてしまったのだけど、鉢呂さんとのやり取りをフジは確認してこないのです。

亀松: なるほど。

長谷川: 確認してきたら、「そんなことを言った覚えはない」と言うに決まっているだろうから。そうしたら、今みたいな展開にはならないわけだから。要するに「伝聞のまま流した」これがポイントの1つですよ。ではフジは、伝聞にも関わらずなんで自信を持ってこれが本当の話だと思って流したのか。ここなんですね。まず突き止めるべきはそこです。そうじゃないと議論の前提が崩れちゃう。

亀松: なるほど、わかりました。このアンケートの前提も崩れたんですが・・・まあまあまあ。これは逆に、何と言うか「面白い」という言い方も変なのですが、今の長谷川さんのお話の前に、まずどうなのかというのを一回、長谷川さんのお話の前の結果をまず見てみたいと思うんです。もう1回やって比較したらいいかな。

 今「辞任すべき」が13.8%、「そうではない」が68.3%、「分からない」が17.9%。こういうタイトルの番組なので、かなり鉢呂さんに――何て言うんですか、ある意味、同調的な人は多いと思うのですが。1回これを消して、同じ質問をもう1回アンケートできますか? ・・・では、いま長谷川さんの衝撃的なお話がありましたが、これを受けてもう一度アンケートしたいと思います。クリック自体はすぐできますので、あと5秒ぐらいで結果に入りたいと思います。

 ・・・はい、結果お願いします。ちょっと増えましたね。さっき「いいえ、辞任すべきではなかった」というのが68.3%だったのですが、今回は75.2%という風に上がりました。だから、今の長谷川さんのお話を聞いた結果、7割、8割の人は辞任すべきではなかったのじゃないかということをお答えしたということです。ありがとうございます。何かびっくりしちゃって。

(追記)
番組終了後の2011年9月14日18時ごろ、フジテレビよりニコニコ動画に対し「鉢呂前大臣が議員宿舎に戻った際の取材現場には、フジテレビの記者もいました。伝聞に基づいて報道したわけでもありません」との指摘がありました。

■記者の「メモ合わせ」がなかったため各社の報道内容がブレた

柿沢: 先ほどのフジの、伝聞でそういうことが目撃されているというかたちで報じたというのは、私は政治ジャーナリズムというか、例えば要人の発言報道でよくある、ある種の「メモ合わせ」の文化によるものなんじゃないかと思うんです。大体会見やぶら下がりで要人が発言している。こんなテープレコーダー回して、後で聞いたりするわけですけれども、大体聞き漏らしたり書き漏らしたりすることがある。それを各社が、会見やぶら下がりが終わった後にみんなで集まって「何を言ったか」っていうことを確認し合う、いわゆる「メモ合わせ」の文化というのが、政治報道ではもう本当に基本動作として行われているわけです。恐らくフジの方は現場にいなかったので、「どうなの?」ってたぶん同業他社に聞いたんだろうなと。

亀松: なるほど。「どうだったの」と。

柿沢: そこで大体みんな相場感として「こんな感じだったよね」というのが形成されて、ディティールは違うんだけれども「こんな形の場面があった」という認識が後から共有されると。こういうことだったんじゃないかと思うんですけど。

宮崎: ちょっとそこがわからないのは、実はメモ合わせをちゃんとやっていれば、そこで発言したというセリフは全部同じになるはずなんですよね。

長谷川: その通り、その通り。

宮崎: 実は私も実際に記者の方にちょっと聞いたんですけど、議員宿舎でのぶら下がりは当然撮影が禁止。録音も禁止。目の前でメモを取ることも禁止。基本的にはオフレコなんですね。ただ(ニュースとして)流す場面としては、実際はその発言者の氏名を特定しないで流したりということはありますね。例えば「民主党幹部がこう語った」みたいなかたちであったりとか。あるいはその人の名前を出すけれども「周辺に語った」みたいな。まさに今の伝聞なんですけど。

 つまり「その発言は本当にあったかどうかわからないけど、周りの人はそう言ってるよ」みたいな感じで、本当は自分が聞いているのだけど、そういう風に書くということもあるわけですよね。今回の場合は非常に一種いびつな形で、そのフジの記者が本当にいたのか、いなかったのかはもちろんわからないわけですけれども、伝聞で始まったものが「われわれが聞いた」という話で、まさに「そういう発言があった」というかたちでどーっと(報道されて)いって。最初にフジが何となくぽろっと書いたと。共同通信がそれを受けて配信をする。さらにそれに各新聞メディアが乗っかっていくという形で、どんどん拡大していったなという感じですね。

柿沢: いや僕が言いたかったのは、どちらかというと現場に居合わせて、実際に自分が目撃していなくても、他社から「こういう場面があったよ」と聞けば報じることができてしまうという、こういう文化が政治部なり要人の発言報道では結構横行しているのじゃないか、と。こういうことです。

長谷川: まず、今回は僕はメモ合わせはなかった(と思う)。なぜなら、メモ合わせという文化は政治部記者の文化だから。これは鉢呂さんに確認しましたけど、今回政治部記者は2人。経済部記者が5人(鉢呂氏の)前を囲み、その後ろのほうに政治部記者さんが2人いたんです。だからこの発言を聞いているのは、経済部記者さんなのです。経済部記者はどちらかというとメモ合わせをする習慣があまりない、これが1点。それからもう一つメモ合わせをするということは、報道するためにするわけ。今回は報道する気はなかったんです、8日の夜だから。なぜならば、この話が出たのは10日でしょう。1日"抱いて"いるんですよね。ということは8日夜で初めて聞いた、その瞬間は各社とも経済部記者ではあるけれど、これは載せるつもりがなかった。ところが、1回スルーしておきながら翌9日になって書き始めるわけ。それはなぜか。これが謎の2番目なんです。僕は今回の事件はものすごく謎が多いと思っていますけれども、謎の2番目は9日に何があったか。それは例の「死の街」発言があったんです。「死の街」発言がぽーんと出た。それで「ああ、そう言えば」と。「昨日こういう話があったよね」ということを(ぶら下がり取材に)出ている人は気がつくでしょう、出ている人は。フジは出てないんですよ。ここが問題なんです。ではフジはどうしてその話を聞いたんですか、と。ここですね。僕はまだわかりません。これが背景のひとつです。

 それからもうひとつ、議論を先に進めるためにもうひとつ大事なことを言っておきますと、今回いろいろ僕もすごく謎が多い事件だと思って一部、例えば(自民党の)河野太郎さんなんか、もうブログで書いていますけど。要するに経済産業省の幹部人事、これを入れ替えるという節もあったようだみたいなことを河野太郎さんが書いているわけ。はっきり言うと、「経産省を敵に回して"刺された"んじゃないの?」という推測ですよ。河野太郎さんのブログその他で僕も取材上聞いていますけれども、そういう話があるので鉢呂さんにずばり聞きました。「鉢呂さん、刺されたんじゃないの? はめられたんじゃないの?」と。「幹部人事を考えていたんですか?」と。そうしたら、「そういうことは誰にも言ったことがありません」。まずこの話がひとつね。

 もうひとつは角度を変えて、さっきも流れていますけど「"脱原発"を言っていたから、刺されたんじゃないの?」っていう風に出てますね。僕もそれをすぐ思って。ほら、(ニコニコ生放送のコメントに)もう出ているじゃない、「虎の尾を踏んだ」と。ああいう風に思っている人がいっぱいいるわけ。それで「鉢呂さん、脱原発とエネルギー政策のところは、どうするつもりだったんですか?」と聞いたわけ。そうしたら、これは本当に驚いたんだけど、事実はご存知だと思うけど、政府には「総合資源エネルギー調査会」というのがあるんです。これは経産省設置法で定められた、法的根拠のある正式な調査会です。ここでエネルギーの基本政策を決める。今の民主党の仕組みは、その上に大臣クラスの「エネルギー・環境会議」というのがあって、ここで大方針を決めるということになっている。その前段階で、経産省は「総合資源エネルギー調査会」で脱原発をやるのか、やらないのかって議論をする。こういう政府の審議会、調査会というのは委員の構成がいつも問題になっていまして。鉢呂さんが今日私に教えてくれたのは「長谷川さん、15人の委員が実はもう、私が来る前に決まっていたのです。15人。15人中の3人は反原発、原発批判派だったのです」と。イコール残り12人は原発の賛成派だったんです。「そこで、私はこれでは客観的な議論はできないと思って、原発批判派と賛成派が半分半分になるように、つまり賛成派12人で反対派が3人だから、あと9人必要。9人から10人必要。この9人から10人を私はもう全部リストアップして、『これでいけ』ということを役所に指示して・・・」。

宮崎: 指示したのですか。

長谷川: 「指示して発表寸前だったのです」と。発表寸前だったんです。そこでこれが起きているんです。だから私がその事実だけで言えることは、役所から見たら「この大臣は本気で"反原発"だ」と。「われわれの審議会である総合資源エネルギー調査会の議論を反対派と賛成派の半々にするつもりだ」と。「これでは賛成派の議論はまとまらない」ということですから、当然経産省・資源エネルギー庁としては「鉢呂を叩けるものなら叩きたい」という動機があった。これだけは明らかですね。

宮崎: ふーん。

長谷川: ここは僕、明らかだと思います。それ以上のことはわかりませんけど。

亀松: なるほど。

(追記)
番組終了後の2011年9月14日18時ごろ、フジテレビよりニコニコ動画に対し「鉢呂前大臣が議員宿舎に戻った際の取材現場には、フジテレビの記者もいました。伝聞に基づいて報道したわけでもありません」との指摘がありました。

■「鉢呂さんが霞が関から嫌われていたというのは間違いない」

宮崎: 僕は、その背景に陰謀があったかなかったかということはまったく正直分かりませんけれども、少なくとも鉢呂さんが、いわゆる霞が関から嫌われていたというか煙たがられていた人であるということは、これは間違いないと思うんです。僕は現役の官僚から「何であんな奴、大臣にするんですか?」という話を聞いて。「嫌われ者ですよ」と言うから、「いや嫌われ者といっても、世の中嫌われ者はいっぱいいるわけで、それは好きな人ばかりじゃないでしょ」という話をしたら、「いや、永田町と霞が関から嫌われてます」と、こういう答えだったんです。

長谷川: それは前者は知らないけど、後者は正しいだろうな。

宮崎: そうなんでしょうね、今の話を聞くと。で、「え?」って。というのは、鉢呂さんってこれまでそんなに霞が関と絡みが多かった人とも思えないので、「なんで嫌われてるんだろうなあ」と。基本的に党務が多かったわけだし、政策関係ももちろん農政はやってたでしょうけど、その他のことをそんなにやっていたという印象はないので、「何でだろうな」という風に思ったのは事実です。

長谷川: まだわからないことが多すぎるけれども、少なくとも鉢呂さんは将来のエネルギー政策について、原発の賛成派と反対派を拮抗する勢力で、政府の調査会で議論をさせようと。それまでは賛成派一色でさせるつもりだったんだけど、それをひっくり返そうとしたと。これは確かです。今日ご本人から聞いて。明日実は「現代ビジネス」というところに僕のコラムがあるので、詳しくは全部そこに書きましたから。明日の7時から・・・。

亀松: (内容を)相当しゃべっちゃったような気がするんですけど。

長谷川: いいんです、いいんです。そんなのいいんだけど、まあそういうことなんです。

亀松: 直接はもちろん鉢呂さんに(話を)聞けてないんですけど、僕の知り合いの新聞記者でかつて経産省の担当をしていたという、エネルギー関係を担当していた人が知り合いにいて。ちょっと聞いてみたら、今回に関して官僚が嵌めたかどうかというそこまではわからないけれども、ただ問題が起きた時に(鉢呂氏を)守ろうということはまったくなかった、ということは言えるという風には聞きました。やはり経産省の官僚から見て、鉢呂さんというのは少なくともメリットがある大臣ではないと。ですから、その人は現役ではないけど、鉢呂さんが何とか残れるように守ろうとした形跡はまったくないというようなことを、今の経産省を取材してる記者に聞いたところ、「そういう情報が得られた」と。

柿沢: そういう点で言うともう1点不可解なことがあると思うんです。私、本当はツイッターで書こうかなと思ったんですけど、大臣とか要人の失言というのは、野党の国会の追及によって辞任に追い込まれるかのように言う人が多いけれど、実は野党が外側からいくら追及しても辞めるまでは至らないんです。例えば(民主党の)中井洽さん、(通称)中井ハマグリさんが国家公安委員長をやっていた時にいろいろ写真週刊誌に書かれて、結局は辞めなかった。

 だけど今回、鉢呂さんの場合は「死の街」発言が出た時点で「これは不適切な発言で問題だ」ということを与党の幹部が言い出したわけです。大体内部で「これはもうもたないから辞めさせなきゃいけない」ということを幹部が言い出したことによって、辞任に追い込まれるパターンなんです。そういう意味で、河野太郎さんのブログにも書いてあるけれども、今回は与党の中で、早い段階から後ろから鉄砲を撃つような発言があった。これはおそらく、例えばテレビに出て前原(誠司)政調会長がこう言ったとか、そういうことを指しているのだと思うんですけれども。まさに与党側から鉢呂さんをかばうような発言がほとんど聞かれなかったということは、やはり私は非常に不可解だなという風に思うんです。

長谷川: むしろ刺す発言のほうが多かったですよね。

宮崎: 中井さんの時期とは環境が多少違っていて。つまり中井さんの時はまだ(国会が)ねじれていませんから、参院で問責(決議)が通る可能性はないわけですよね。今回はやはり問責が通る可能性があったというのは事実だとは思うんです。ただいかんせん、ちょっと早いなという気は僕は与党にいて、私も含めて「死の街」発言はともかく、放射能発言のほうは事実だとすれば相当の問題だと思いましたけれども。しかし非公式な発言であるから、これはかばわなきゃいけないなという思いはあったし、われわれ若手というか一期生の議員の間では結構そういう流れがあったのは事実ですよね。

・「放射能うつす」発言報道の裏側で何があったのか 検証番組全文書き起こし(後編)
http://news.nicovideo.jp/watch/nw115063

(追記)
番組終了後の2011年9月14日18時ごろ、フジテレビよりニコニコ動画に対し「鉢呂前大臣が議員宿舎に戻った際の取材現場には、フジテレビの記者もいました。伝聞に基づいて報道したわけでもありません」との指摘がありました。

◇関連サイト
・[ニコニコ生放送]「鉢呂大臣辞任は記者クラブの『言葉狩り』なのか?」を視聴する - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv63596409?po=newslivedoor&ref=news#00:03

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