教育再生懇の「ケータイ禁止」 これまでの議論無視した「思いつき」
「学校裏サイト」など小中学生がケータイでアクセスする「有害コンテンツ」が問題化するなか、「子どもにはケータイを持たせるな」という声が大きくなりつつある。特に、政府の教育再生懇談会が「ケータイ禁止提言」を中間報告書に盛り込む方針を決め、禁止への流れが加速する可能性もでてきた。その一方で、専門家からは「これまでは『ケータイを持たせた上でどう使うか』の検討が進んできたはず」と、提言の唐突、拙速さを指摘する声もあがっている。
「ロクなことがない。悪い大人に利用されるだけだ」
内閣府が07年3月に行った調査によると、ケータイやPHS経由でインターネットに接続しているのは、小学生の27.0%、中学生の56.3%、高校生の95.5%。高校生はもちろん、小中学生でも多くがケータイ経由でネット接続を行っていることがわかる。
これにともなって、小中学生がネットを舞台にした犯罪に巻き込まれるという「負の側面」も相次いで明らかになっている。例えば07年11月には、30歳の男が、ケータイ向けSNS「モバゲータウン」で知り合った16歳の女子高生を殺害するという事件が青森県八戸市で発生。08年4月には、自己紹介サイト「前略プロフィール(プロフ)」に悪口を書かれたなどとして、千葉県柏市の17歳の無職少年が14歳の男子中学生を金属バットで数回にわたって殴り、殺人未遂の疑いで逮捕された。この2人に直接の面識はなかった。それ以外にも、「ネットいじめ」の温床となっているとされる、いわゆる「学校裏サイト」が、全国で3万8000件以上確認されており(文科省調べ)、小中学生にとって、「危険地帯」は決して縁遠い存在ではなくなりつつある。
そんな中、「小中学生を守るために、ケータイ所持を禁ずるべき」との声が相次いでいる。
例えば08年5月1日には、中曽根弘文・元文部相など自民党議員有志が「携帯電話から小中学生を守ろう勉強会」を立ち上げ、小中学生のケータイ所持禁止を視野に入れて議論を始めた。
政府の「教育再生会議」の後継として08年3月下旬に立ち上がった「教育再生懇談会」(座長・安西祐一郎慶應義塾長)でも同様の議論が行われている。4月17日の会議の席では、福田首相自身が
「(子どもが携帯電話を持つと)ロクなことがない。悪い大人に利用されるだけだ。人間関係にもマイナスだし、教育上もよくない」
と持論を展開。5月17日に了承された中間報告書案では、「小中学生に携帯電話も持たせない」との提言が盛り込まれることになった。同時に、携帯電話業界に対しては(1)機能を通話と居場所確認に限定した端末の開発を求める(2)フィルタリング(有害サイトへのアクセス制限サービス)を義務づける、ことを求めている。法的強制力はないものの、提言を通して社会へのメッセージを発信する狙いだ。
規制は、表現の自由の面からも問題
もっとも、08年に入って、各携帯電話事業者はフィルタリング導入の動きを強めている。未成年の新規加入者と、成人名義の新規契約で使用者が18歳未満の場合は、保護者の申し出がない場合は、自動的にフィルタリングに加入することになっている。06年12月時点では中学生の2割、小学生の4割強がすでに加入しているが、携帯電話事業者は既存契約者についてもフィルタリング加入を進めていきたい考えだ。
もっとも、フィルタリングが適用された場合、「モバゲー」「魔法のiらんど」などの人気サイトにアクセスできなくなってしまうため、08年4月8日にはフィルタリングの際の安全なサイトを認証する第三者機関「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)」が設立されるなど、業界内での取り組みが進んできたところだ。
専門家からは、このような状況での「ケータイ禁止提言」への異論も噴出している。例えば
「ケータイ世界の子どもたち」(講談社現代新書)などの著書がある、千葉大学教育学部の藤川大祐准教授は、立ち上がったばかりの会議から唐突とも思える提言が出てきたことを「これまでの議論を無視している」と批判。これまでの業界の取り組みを続けることが大事だとの立場だ。
「(有害サイトの)一連の問題は、06年頃から、警察庁、総務省、文科省などの機関で対策が検討されてきました。そこでは『ケータイを持たせない』ではなく『持っていることを前提に、どのように対応するか』という方針で進めてきました。これに従って、業界の自主的な取り組みが行われてきたところです。今回の提言はこれらの議論を全く無視したもので、『思いつき』だと指摘されても仕方ありません」
さらに、藤川氏は「一律の規制は、表現の自由の面から問題」とも指摘する。
「ケータイ小説のような、『ケータイでしか書けない』種類の表現手法も確立しつつあり、その作品の質はともかく、一定の支持を集めています。ケータイを使用禁止にするということは、子どもたちから、このような表現手法を奪ってしまうことになり、表現の自由の観点からも問題です。それ以外にも、ケータイでは問題のないコミュニケーションも行われているはずで、それを十把一絡げに禁止してしまうのも問題です」
国連の「子どもの権利条約」でも、「意見表明権」という表現の自由に関連する権利が規定されている。表現の自由と青少年の保護とのバランスをめぐって、論議を呼びそうだ。
提言が盛り込まれた中間報告書は、5月末から6月にまとまる予定だ。
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