5月19日に行なわれたセイコー・ゴールデングランプリ大阪。男子100m決勝で桐生祥秀(日本生命)は、2017年世界王者のジャスティン・ガトリン(アメリカ)と互角に戦い、すばらしいレースをした。


ガトリンに競り負けたものの、すばらしい走りを見せた桐生祥秀

「スタートでは、腰が動くタイミングがズレた感じがしたけれど、以前のように焦ることなく中盤から後半にかけては自分が思った感じでできた」と桐生はレースを振り返る。

 桐生は、4月のアジア選手権でも見せていた前半から力みのない走りをすると、50m過ぎでは少しだけガトリンより前に出た。最後は結局、差し返されて2位だったが、10秒00で優勝したガトリンとの差は0秒01。10秒01は、今年の3月にオーストラリアで出した10秒08から大きく躍進するシーズンベストだった。

 5月11日にアメリカで9秒99を出したサニブラウン・ハキーム(フロリダ大)に続き、来年の東京五輪の参加標準記録(10秒05)を突破した。

「スタートした直後は、下を向いていたので周りは見えてなかったのですが、中間からはずっとガトリン選手が横にいるのがわかっていたし、一瞬だけど(自分が)前に出たのもわかりました」

 16年から18年の日本選手権では、期待を集めながらも競り負けて3位、4位、3位という結果で精神面の弱さを指摘されていた桐生。だが、今季はスタートで力まずに加速し、中盤から後半へかけての自分の持ち味を出そうという意識を持ち、初戦のオーストラリアでも4月のアジア選手権でも競り合うレースを制して勝利をもぎ取ってきた。そんな走りを今大会、ガトリンだけではなく、9秒93の記録を持っているキャメロン・バレル(アメリカ)など格上の選手と一緒に走って再現できたことは大きい。

 この日は強い風が吹くだけではなく、風向きがコロコロと変わる悪コンディションだったが、男子100mの時だけはその風が弱まり、追い風1.7mと絶好のコンディションに変わった。

「去年がうまくいかなかった分、(今年は)結果を出したいという気持ちが強いですが、冬のトレーニングはケガもなく過ごせたことで、『あれだけ走り込んできたのだから、中盤からの走りは絶対にうまくやってやろう』というという自信もあった。その点でもガトリン選手に0秒01差の負けというのは悔しいです。

 もしここで、勝てていたら自分でも『ガトリン選手に勝った』と口にできるようになるし、周りにも認めてもらえる。その0秒01差というのは、これまで世界を動かしてきた選手と、そうでない選手との差だとも思うので勝っていたら違ったと思う。だから次のレースでは、こんな差が出ない中盤から後半の走りをしていけたらと思っています」

 桐生は、今まで出してきた10秒01(13年、16年)や9秒98(17年)と、今回の違いについて次のように語った。

「今年は以前記録を出した時のようなダントツなレースではなく、1戦目からずっと競り合うレースをしてきた。今日は勝てなかったけど、自分の走りができたということは、これまでのタイム以上に価値があると思う」

 サニブラウンが9秒台に入り、小池祐貴(住友電工)も10秒04と自己ベストを上げてきた。さらに山縣亮太(セイコー)も調子を上げてくることを考えれば、6月27日からの日本選手権での代表争いはハイレベルなものになる。そんな中で桐生は、今後100分の1秒差を詰めるために必要なことをこう話す。

「4月のアジア選手権でも中盤の加速はもう一段階上がりそうな感じがあったので、走り自体は変えずにもう少し気持ちを上げていけばというのがあります。そこは夏になればもう一段階あがると思うし、そうすると後半の走りもその乗りで行けると思うので……。今日は1本だけのレースでしたが、10秒01で走った1時間後のリレーでもしっかり走れたし、体も元気だったので、狙った大会での予選、準決勝、決勝というラウンドを進める準備も(自分のなかでは)できているのかなと思います」

 かつての桐生は、予選と決勝で別人のような走りをしていたが、今年のアジア選手権では冷静にラウンドを進めながら気持ちを高める走りを見せていた。そのアジア選手権の優勝に加えて、今回はトップ選手との競り合いで手応えを得ることができた。それは確実に桐生の力へと変わるだろう。6月の日本選手権での勝負へ向けて着々と準備は進んでいる。