公共交通の利用促進に向け、今回データが整備される公共交通機関はモノレールとバス、そして離島をつなぐ航路だ(筆者撮影)

沖縄本島がいま、レンタカー利用拡大の対応に追われている。

沖縄県内のレンタカー台数は2012年3月から2017年3月の5年間で約1万台増えた。そのうちの8割は沖縄本島で営業を行う車両で、約7000台増えている。沖縄の玄関口となる那覇空港の送迎場では、多くの人がレンタカー会社の送迎車を待っている光景が見られる。

いま、沖縄県はこの「レンタカー送迎車待ち」問題解消に取り組んでいる。そこで白羽の矢が立ったのが「公共交通の利用促進」だ。沖縄での取り組みに迫った。

レンタカーを借りるまでに2時間

7月のある平日。昼頃の那覇空港へ行くと、通称「中の島」と呼ばれる送迎場では多くの利用客が各レンタカー会社の送迎車を待っていた。送迎車も続々とやってきてはお客を乗せるが、待っている客は増える一方で、送迎が追いついていない。沖縄県が行った2016年の調査では最も混み合う11時30分〜13時に最大約470人がここで送迎を待っていたという。

この混雑が原因でレンタカーを借りるまでに2時間かかることもあり、初めての観光客は空港ですぐレンタカーが借りられると思ってくる人も多いことから、満足度の低下が心配されている。

また、問題は空港だけにとどまらない。本島内のホテルなど、観光産業の「受け入れ側」でもレンタカー増加による駐車場不足に頭を悩ませる。駐車場拡張を余儀なくされたり、施設から離れたほかの駐車場へ案内したりする必要が生じており、それも課題となっているようだ。

送迎待ちの問題は観光が主力産業となる沖縄では関心も高く、2016年頃から県内のメディアで取り上げられ、県議会でも話題となった。そこで2016年度から、沖縄県はこのレンタカー会社の送迎待ちの解消に取り組むようになった。


那覇空港でのレンタカー営業所への送迎待ちの様子(筆者撮影)

まず2016年度は実態調査を行うことで原因と課題を洗い出し、2017年度にはレンタカーの混雑予報の提供、レンタカーを借りる場所の分散化、リムジンバスを用いたレンタカー送迎客の輸送の実証実験といった取り組みを行った。この取り組みにより、中の島の待機人数は約470人から約300人まで減った。

また、OTSレンタカーでは自社運行と路線バス会社との契約費を比較検討し、今年4月から送迎車を路線バスに切り替え、レンタカー利用者はバス運賃無料という取り組みをはじめた。

観光客に使いづらいバス

だが、このままレンタカーの営業台数が増え続ければ、いずれ限界がくる。「短期的にはインフラ改善で効果はあるかもしれないが、このままレンタカーが増えてしまえば価格競争に陥り、いずれインフラ的にもレンタカー業界的にも限界がきてしまう。そこで、そもそもレンタカーをなぜ使うのかという根本的なところから考えた」。こう語るのは沖縄県文化観光スポーツ部観光振興課観光資源班長の大仲浩二氏だ。


沖縄県庁近くの「パレットくもじ」前の朝の様子。県内各地から発着する多くのバスが行き交う(筆者撮影)

そこで県は観光客の声を集めた。すると、那覇空港の案内所における観光客の問い合わせのおよそ8割は交通機関に関する内容ということがわかった。路線バス関係の問い合わせが最も多く、国内線ターミナルの案内所では全体の4割が路線バスに関する問い合わせだったというから驚きだ。なかでも「観光地へ行ける路線バスがないのか」という問い合わせや「バスの乗り方がわからない」という声が多かったという。

この声を受け、沖縄県では実際に路線バスの情報が調べられるのかGoogleマップで検索し、検証を行った。すると、モノレール(ゆいレール)と空港発着のわずかなバス系統の情報は検索できたが、ほとんどの路線バスの情報はGoogleマップで調べられないことがわかった。たとえば、有名観光地であるひめゆりの塔や斎場御嶽(せーふぁうたき)へは、実際は1日10往復以上あるバスでアクセスできる。しかし、Googleマップ上には路線バスが表示されず、バスでは行けない場所として扱われていたのである。

さらには座間味島をはじめとした離島航路も調べられなかったという。一方で、国内のほかの観光地では離島航路やバスがきちんと検索可能なところもあるとわかってきた。

そこで今年度から2カ年でバス情報、モノレール情報、航路情報、レンタカー情報、観光地情報などを網羅的に整備し、オープンデータとして公開しようという計画が始まった。バスやモノレール、航路の情報はGTFS形式で整備し、Googleマップに反映させることで、経路検索で路線バスなどの交通機関が漏れなく表示されるようにする。そして観光客に公共交通機関の存在を「認知」し、利用してもらおうというのだ。

経路検索サービスはほかにもある。その中でもGoogleマップへの交通情報の掲載に沖縄県がこだわるのは、沖縄県にやってくる外国人観光客の増加にある。彼らは日本国内で開発された経路検索サービスの多くは使えず、世界共通の「Google」を頼るのがほとんどだからだ。

外国人も地元住民も使える案内を

昨年度の統計では沖縄県の年間観光客数約958万人のうち約269万人が外国からの観光客だった。外国人観光客数の伸び率も前年比約26%増と、いま伸びに伸びている。内訳では台湾が年間約81万人と最も多く、続いて年間約54万人で韓国と中国が並ぶ。国際免許に関するジュネーブ条約に参加している韓国・台湾からの観光客は、レンタカーの利用が少なくないという。


沖縄県内ではバスが公共交通の主力だ(筆者撮影)

しかし、日本人が海外に行くときにレンタカーを積極的に借りるだろうか。どうしても現地に行く交通手段がないか、不確実な場合に仕方なく借りることが多いのではないだろうか。これは日本に来る外国人観光客も同じだ。また、最近ではGoogleマップ片手の外国人に店の場所や交通機関の乗り方を聞かれることは珍しくない。

「(ある場所への)行き方を聞かれたとき、使ったことのある見慣れた地図であれば地元の人も案内がしやすい。そして、地元の人の案内で外国人観光客をサポートできればおもてなしにもなるし、観光客の満足度向上につながる」と大仲氏は言う。

そのためには地元の人も同じような地図を、ひいては公共交通を普段から使っていることが重要だ。そこで国内観光客、外国人観光客、そして地元住民が皆使えるGoogleマップで検索しやすくすることが重要になってくるのだ。


夕方、混雑する那覇市内の道路を走るバス(筆者撮影)

一方で、沖縄本島を走る路線バスは地元の人によく使われているかというと、決してそんなことはないのも現状だ。路線バスの旅客輸送分担率は5%未満で、県民一人が1年間でバスを利用する回数は平均19回(2014年調べ)。その一方で自家用車主体の交通となっている那覇市街は交通渋滞に悩む。混雑時の平均速度は15.9km/h(2014年度)で、三大都市圏よりも混み合っている。

そのため、地域ICカード「OKICA」導入や国道58号に10.4km(南行き・朝時間帯規制)のバス専用レーンを設けるなどの施策で路線バスの利用促進をしようとしているが、まだまだ道半ばだ。

そこで観光客の移動支援と県民向けの公共交通利用促進を同時に行おうというのが、今回のバスやモノレール、航路、レンタカーの情報整備というわけだ。「賢く公共交通もレンタカーも利用してほしい」と大仲氏は語る。

観光業者とバス会社には温度差

もちろん、この事業には課題もある。1つは観光事業者とバス事業者の温度差、もう1つは持続的なデータ整備の組織作りだ。


沖縄県庁で行われたデータ整備に関する委員会(筆者撮影)

7月に行われたデータ整備へ向けた委員会では、観光事業者側から「バス会社は前のめりになってほしい。これまでは県民140万人を相手にした商売だったかもしれないが、観光客を入れれば一気に市場は1000万人に広がる」「バス旅はいま観光のトレンドになりつつある、広めていきたい」という積極的な意見が出た一方で、交通事業者側からは「一部の路線だけ恩恵を受けて終わりとならないか心配だ」「バス事業者にはGTFS形式のデータというのがよくわからない」と及び腰になっている部分も見られた。

沖縄に限らず、一体的なデータ整備の取り組みには、交通事業者側の不安がぬぐいきれずにデータ整備の大きなハードルとなるケースが多い。本来はこうしたオープンデータは事業者の生産性向上に役立つものだ(東洋経済オンライン5月20日付記事「『グーグルマップ』に載るとバスは便利になる」)。しかし、データ整備による具体的な恩恵が見えにくいことや、情報を提供することで想定されるクレームに対する不安がどうしても事業者に二の足を踏ませる。

一方で、早くも自主的にGTFS形式のデータを整備した事業者も出てきた。那覇空港と美ら海水族館や本島北部の運天港を結ぶ「やんばる急行バス」ではGTFS形式のバス情報整備を行っており、那覇空港では実際にGoogleマップで調べ、やんばる急行バスを使う観光客も出始めているという。

継続的にデータ整備・更新を行ってくれる事業者選定も課題だ。補助事業としてデータ整備が行われるのは2カ年。しかし、その後もデータ更新を続けていくことが、継続的に公共交通を使ってもらうためにも、最新の観光情報を提供するためにも重要になる。

委員会では、今回公募する事業者には継続的なデータ更新に関するポリシーを聞くことや公募事業者が自主事業として続けていくための財源確保についてさまざまな提案がされたが、決定的な案は出なかった。補助事業終了後のデータ更新は、今後大きな課題となっていくだろう。

観光と交通の悩みは解決できるか

ここまで沖縄本島のレンタカー送迎待ち対策から観光における公共交通利用促進につなげる取り組みを見てきた。ポイントは、交通業界だけの動きにとどまらず、観光業界をつなげ双方の悩みを一石二鳥で解決しようという考え方だ。

一般的に交通事業は、どうしても事業に補助金などがつきにくく、プレイヤーのやる気を喚起しにくい傾向にある。一方、観光業界は収益が上がっている一方で、観光客の移動手段であるレンタカー受け入れに困っている。この2者をつなげることで議論を活性化し、複数の課題を同時に解決していこうという考え方は、まさに観光が大きな産業である沖縄らしい取り組みといえよう。

また、データの利活用や事業の効果測定に関しても、観光という「目的地」側が参加していることでやりやすくなる。たとえば、ホテル側でアンケートを行うことで、かなり有用なデータが収集できる可能性がある。また、整備した頃にハッカソンやアイデアソンを行い、コンテストを行えば、インバウンド増加で盛り上がる観光関係のアプリを開発したい国内の開発者はもちろん、地理的に近い台湾の開発者が多く参加してくることも期待できる。こうした動きがうまく出てくれば交通事業者は自然に参加していくことだろう。

ただ、繰り返しにはなるが、継続的なデータ更新のための仕組み作りがやはり大きな課題だと感じられる。これについては、観光系のNPO組織が引き受け、観光事業者やレンタカー事業者から寄付金として資金を調達する仕組みも考えられる。

自治体がデータ整備を引き受けてしまうと、データ整備や更新が単純な「コスト」となり、また民間の力による有効活用もされにくくなってしまう。そうすると事業としての有用性が疑われ、せっかくのデータ整備も尻すぼみとなってしまう可能性がある。それを避けるためにも民間の力を活かし、補助金に頼らない自然な資金調達体勢をうまく引き出すこともデータ整備・更新の鍵と言えるだろう。

筆者は取材の際、那覇空港の「中の島」がレンタカー事業者の送迎待ちで混雑する横で、名護方面に向かう路線バスが誰も乗せずに発車していくのを見た。数年後には、このバスに多くの観光客が乗る光景が生まれているだろうか。