さらに便利なサービスも台頭しつつあります(写真:Neustockimages/iStock)

コンビニエンスストアが成長産業ではなくなる日が近づいている」と言うと、皆さんはどう感じるだろうか?

コンビニがいま直面している状況

「コンビニは各社まだまだ出店を続けているじゃないか」「コンビニがない生活なんて考えられない」という声も聞こえてはきそうだが、ここでは日本の小売業、特にコンビニがいま直面している状況を見てみたい。

拙著『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』でも詳しく解説しているが、国内の大手小売店の対前年同月比の客数の推移を2016年3月から図表にして見てみよう。百貨店を除く小売店については既存店ベース、また百貨店については店舗全体となっている。百貨店は新規出店の頻度が高くないため、既存店舗全体との比較としている。


通常、小売産業を分析するときには、既存店の「客単価」と「客数」を掛け合わせた売上高を分析する。ただ、ここでは、客数のみを抽出している。理由は2つある。

1つには、客数の動きを見ることで、いま各業態や企業がどの程度の集客力を持っているのかを見るためである。もう1つは、客単価(購入点数×購入単価)は「集客した後の結果」であり、インフレなどの外部要因も大きく影響するからだ。

さて、先ほどの図表では、小売店ごとに客数指数が100を超えた月を黄色くハイライト表示した。つまり、「客数が前年同月で上回った月」がハイライト表示されていることになる。コンビニ(CVS)、総合スーパー(GMS)、食品スーパー、100円ショップ、ドラッグストア、百貨店についてそれぞれ分析すると、次のような特徴を見いだすことができる。

・コンビニからの客離れは足元のセブン‐イレブンも例外ではない
・総合スーパーから客離れが起こっている
・総合スーパーやコンビニと比較すると、食品スーパーは比較的安定した集客ができている
・インテリアに強い100円ショップが堅調に集客している
・ドラッグストアの集客が安定している
・百貨店はイベント次第で大きく集客が変わる(変えることができる)

小売業の中でも、店舗数が圧倒的に多いコンビニの不調が気にかかる。2018年3月末時点で、セブン‐イレブンは2万0286店、ファミリーマートが1万7205店(国内計)、ローソンが1万4083店もあり、コンビニの「ビッグ3」の店舗数を合計すると実に5万1574店にもなる。

ここまでの規模になれば、コンビニは誰にとっても身近な小売店といえる存在だ。日本の人口が2017年11月1日現在で1億2671万4000人なので、先ほどのコンビニの「ビッグ3」の店舗数で割ると、人口1万人当たりの店舗数は4.1店舗になる。

これは別の見方でいえば、コンビニ1店舗当たりで2457人をカバーしていることになる。たとえば、ローソンの2018年3月においては、既存店の客数は763人である。2457人をカバーしている前提で、1日の客数が763人もあるというのは、1カ月に何度も利用する顧客が含まれていることを考えても、コンビニのユーザーとの接点の多さを示す数値だ。この「身近なコンビニ」から人が離れているのだとすれば、いったい何が起きているのだろうか?

【2018年8月2日18時30分追記】記事初出時、「1カ月の客数が763人」とありましたが事実と異なるため、上記のように修正しました。

コンビニの「必勝パターン」が崩れた

コンビニのこれまでの必勝パターンは、

(1)集客できる立地に出店し
(2)比較的若い世代のパートやアルバイトといった労働力の調達を行い
(3)店舗拡大を進める

という流れだ。ただ、現状ではそのいずれにも疑問符がつく。

コンビニは、「自宅付近や通勤通学からの帰宅途中の便利な立地にあり、24時間365日開店している」という利便性が消費者の支持を受けてきたといってもいい。そうした利便性があるからこそ、品ぞろえはスーパーなどと比べて劣っていても、また商品は高くても、きちんと売れてきたという背景があるだろう。

ところが、eコマースが発達し、消費者にとって便利なサービスが登場することで、その利便性があらためて比較されることになった。

たとえばアマゾンの「Prime Now」は、同社のプライム会員向けサービスで、注文から1時間以内に商品が届く「1時間以内配送」、および2時間ごとの受け取り枠を指定できる「2時間便」を選ぶことができる。1時間以内の利用には890円の配送料がかかるが、2時間便は無料で、合計金額2500円から利用が可能となる。

また、配送時間については、一部の例外を除いて朝8時から深夜0時まで一定の枠内から選ぶことができ、注文は24時間可能だ。ユーザーがどれほど急いで商品を必要としているかにもよるが、自宅などに配達してもらえるほうが便利と考える人も多いのではないか。

そこまで便利になれば、人がコンビニなどのリアル店舗に足を運ぶ機会も減少し、不採算の店舗も出てくるだろう。出店店舗数が多いことで「ユーザーとの接点」を多く持っていた企業が、その優位性を生かせなくなる環境も考えられる。その際には、不採算店の撤退コストなどのこれまで見えていなかったリスクがちらつくことにもなるだろう。

ビジネスモデルの根幹を揺るがす事態

先ほど、コンビニの集客に変化が訪れている可能性について指摘した。その背景として、ここまで見てきたように、「コンビニよりもさらに便利なサービス」の存在によってコンビニから客数が減少しているのが正しいとすると、状況は想像以上に深刻である。

客数が減少傾向にあるのは、コンビニの店舗数自体が多すぎることも理由の1つだろう。それに加えて、便利なショッピングサービスの増加も大きな要因として考えてみる。コンビニの店舗数自体が短期間に大きく減少する可能性はほとんどないだろうと予測される中で、仮に後者の理由が今後も継続するとすれば、客数が下げ止まるまでにはさらに時間がかかると考えられる。

FC(フランチャイジー)を抱えるコンビニからすれば、FCでの客数減少を客単価の上昇で補うことができなければ、FCの離反も招きかねない。そうなれば、コンビニのビジネスモデルの根幹を揺るがしかねない事態なのである。

その一方で、コンビニ各社は引き続き出店を繰り返している。客数が減少する中での新規出店競争は、コンビニ業界全体に出店余地がなくなったときの傷口を拡げることになる。店舗のリストラとともに、従業員も削減しなければならない状況にも追い込まれるかもしれない。


経済産業省の2014年の商業統計によれば、コンビニエンスストアで終日営業の店舗の従業員数は48万2517人。4年前のデータなので、その後もさらに伸びているだろう。コンビニ自体がオーバーストア(出店過剰)であったり、eコマースにさらに顧客を奪われたりするということで、仮にコンビニ全体で10%程度の店舗が閉店になれば、5万人近い従業員が就業機会を失うことにもなりかねない。

「リアル店舗を持つこと」が競争優位であった環境から、「個人宅に配送する手段を持っていること」で利用者の間での評価が高まる環境になれば、小売業のそれまでの戦略も機能しなくなる。「一等地での出店」や「労働力調達」で競争優位が決定されてきた競争ルールから、今後は「ユーザーとの接点の数とその密度」、また「物流システムの運用における質」を競う環境へと変わってくるだろう。

そうなった場合、コンビニ業界は現在のビジネスモデルの見直しを迫られるだろうし、リアル店舗を縮小せざるをえなくなれば、現在の雇用規模を維持することは難しくなるだろう。