ロシアW杯で"中国台頭、日本消滅"の現実
■W杯の主要スポンサーに日本企業は1社もない
サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会で、決勝トーナメント進出を決めた日本代表の快進撃に列島が沸き立っている。ただし日本で注目されるのは、圧倒的に日本代表の試合だ。
海外では自国の代表チームがたとえ出場していなくても、試合を熱心に観て、熱狂する人が大勢いる。国際サッカー連盟(FIFA)の発表によれば、前回2014年ブラジル大会では世界で約32億人が試合を観たという。今大会ではさらに視聴者は増え、34億人に達するとみられている。世界人口は約75億人だから、その半数近い人がW杯を楽しんでいることになる。
これだけの人が観るイベントは他にはない。その影響力や価値を背景にFIFAは200億ドル(2兆円)を超える収入を得ているとみられている。
その推定収入の7割近くを占めるのがテレビ放映権料だ。たとえば日本。NHKと民間放送局が共同制作する機構ジャパン・コンソーシアム(JC)が大手広告代理店の電通を通して放送権を購入している。今大会の料金は、推定で約600億円だ。
また、アメリカの独占放送権を取得した大手テレビ局FOXが支払った額は、今大会と次回のカタール大会の2大会分で11億ドル(約1200億円)と報じられている。各国の人口によっても設定される放映権料は変わるようだが、200を超える国と地域の放送局が、これに準ずる放映権料を払うのだから、莫大な額になる。
▼FIFAの推定収入2兆円の3割がスポンサー料
そしてFIFAの収入の残り3割、約6000億円は主にスポンサー料だ。FIFAのスポンサー契約は現在、3つのカテゴリーに分けられている。
最上位に位置するのは「FIFAパートナー」。継続的なスポンサーでFIFAのすべての試合やイベントにおける広告や周辺ビジネスの権利が与えられ、ロゴも2大会分使用できる。このスポンサー料は1社につき年間1億8000万ドル(約200億円)といわれている。
2番目のカテゴリーは、ひとつの大会ごとに契約する「ワールドカップスポンサー」で対象の大会に関連する権利と4年間のロゴ使用が認められる。このスポンサー料は1大会につき推定で約75億円から110億円。
3番目のカテゴリーが「ワールドカップスポンサー」の権利を欧州やアジアなど地域限定にした「リージョナルサポーター」でスポンサー料は2000万ドル(約22億円)だ。
これらに現地ロシアでの入場料収入やW杯関連グッズなどの売上を加えるとFIFAの収入は2兆円を超えるという仕組みだ。
ちなみに、出場32カ国のサッカー協会には手厚い分配金が支給される。グループリーグで敗退したとしても800万ドル(約9億円・以下日本円換算)、ベスト16で13億円、ベスト8で18億円、4位24億円、3位26億円、準優勝31億円、優勝すれば42億円だ。
また、参加する選手が所属するクラブへの分配金として約230億円、大会で選手が負傷した場合、所属クラブの損失を補てんする費用として約150億円が計上されている。いずれも驚くような金額だが、2兆円超の収入があるから賄えるのだ。
■W杯ロシア大会のスポンサーに中国企業が続々名乗り
このFIFAの収入(W杯の運営)を支えているのは、前述した通り試合の中継を行う各国の放送局とスポンサーとなる企業だ。放送局の多くは放映権料の高騰に悩んでいるが、視聴者の大多数が中継を望んでいるし、高視聴率=広告収入も見込めることから撤退することはできない。
日本では第1戦の視聴率(ビデオリサーチ・関東地区)が平均で48.7%、瞬間最高が55.4%、第2戦は0時開始という深夜帯だったにもかかわらず平均で30.9%、瞬間最高で37.1%という驚異的な数字になった。日本代表が快進撃を見せなければ、とてもこの数字は望めなかったわけで、JCに参加した放送局は胸をなで下ろしていることだろう。
一方、スポンサーに名乗りを上げた企業は今大会から様変わりした。特徴的なのは、代表チームが出場していないにもかかわらず、中国の企業が多数名を連ねていることだ。
以下が、今大会の3カテゴリーのスポンサーだ。
コカ・コーラ、アディダス、VISA、現代自動車グループ、カタール航空、ガスプロム、大連万達グループ
●ワールドカップスポンサー
バドワイザー、マクドナルド、海信(ハイセンス)、蒙牛乳業、Vivo
●リージョナルサポーター
(欧州地域)
アルファ銀行、アルロサ、ロステレコム、ロシア鉄道
(アジア地域)
ダイキング、LUCI、ヤディア
(アフリカ地域)
エジプト政府観光局
▼ソニーは前回までオフィシャルスポンサーだったが、現在は撤退
コカ・コーラは1978年から11大会連続でオフィシャルスポンサー(FIFAパートナー)を務めているW杯とは切っても切れない企業。アディダスは6大会、韓国の現代自動車グループは5大会、VISAは3大会連続でスポンサーとなった。かつては日本の富士フイルム、JVC(日本ビクター)、キヤノン、そして前回までソニーがオフィシャルスポンサーだったが、現在は撤退している。
今大会から最も契約金額が高いFIFAパートナーになったのはカタール航空、大連ガスプロム、大連万達グループ(ワンダ)の3社だ。いずれも日本では聞き慣れない企業だが、どんな企業なのか。
ガスプロムはロシアのエネルギー会社で、ホスト国の企業としての務めを果たした形だ。また、カタール航空は次の開催国カタールの企業だ。
注目は大連万達グループだ。不動産業で急成長を遂げた中国企業で、映画産業、商業、金融、ITなどにも進出している。そして今、さらなる成長を期し事業のグローバル化を推進している。そのためのアピールと知名度アップにはW杯の最上位スポンサーであるFIFAパートナーになることが必要であり、大きな投資をしたわけだ。
■中国企業がW杯期間中に投じる広告費は約900億円
第2のカテゴリーであるワールドカップスポンサーでも、マクドナルドとバドワイザーと並んで、中国企業3社が名を連ねている。海信は電機メーカー、蒙牛乳業は乳製品メーカー、Vivoはスマートフォンのメーカーだ。
第3カテゴリーのリージョナルサポーターのアジア地域3社は、すべて中国企業だ。帝牌(ダイキング)は服飾メーカー、雅迪(ヤディア)は電動バイクメーカー、LUCIはシステム開発会社。これらはいずれも13億の人口を抱える中国の巨大市場で成功した会社で、その勢いを世界展開につなげようとしている。
調査会社のまとめによると、中国企業がW杯期間中に投じる広告費は8億3500万ドル(約900億円)で、アメリカ企業の2倍、ロシア企業の13倍になるという。
中国のトップ、習近平国家主席の趣味はサッカーで、中国代表の強化にも力を入れているといわれる。中国代表は2002年日韓大会に初出場して以降、アジア予選を勝ちあがることができていないが、それとは対照的に「中国企業」はW杯を席巻するようになっている。
これまで日本の有力企業はサッカーW杯をビジネスの場として活用し、スポンサーとして支えてきた。企業が先行し、それを追いかけるように代表チームが実力をつけた。中国は今、その途上にあるのかもしれない。
(ライター 相沢 光一 写真=iStock.com)