マツダが12月14日に発売した新型SUV「CX-8」。発表から発売まで3カ月間の受注は月間販売目標の6倍を超え、好調な滑り出しを見せた(撮影:尾形文繁)

発表から3カ月を経て、12月14日にようやく発売されたマツダの3列シートSUV(スポーツ多目的車)「CX-8」が絶好調だ。発売までの3カ月間で月間販売目標1200台の6カ月分を上回る7362台の予約注文を獲得。ミニバンの新型車開発から撤退し、多人数乗車ができる3列シートSUVへのシフトという大きな賭けが功を奏したといえる(「マツダ『CX-8』が脱ミニバンで目指す新境地」)。

マツダの稼ぎ頭であるSUV「CX-5」の2代目が今年2月に発売された時は、発表から1カ月半で9055台(月販目標2400台)だった。単純な比較はできないが、CX-8はCX-5に引けをとらぬ勢いがある。「一般的に新型車の受注は、発表直後にピークが来てだんだん落ち着くが、CX-8は発表後、週を追うごとに尻上がりに増え続けている」(マツダ広報)という。

実車がない中で販売店は工夫凝らす

しかも、CX-8は予約期間中に店頭にも車そのものがなかった。事前に試乗する機会はもちろん、実物を見ることもせずに、購入を決める――そんなユーザーが相当いたということだ。そんな状況の中で、マツダはどのようにこれだけの受注を獲得したのか。


関東マツダ洗足店(東京都大田区)のショールームに並ぶCX-8(右)。マツダのディーラーの多くが予約期間中にはCX-8の実物がなく、一回り小さいCX-5(左)を活用して受注を獲得したという(記者撮影)

都内の販売店では、まずは排気量2.2リットルのディーゼルエンジンを載せたCX-5に試乗してもらい、「これよりもいいエンジンが載ります」と説明したという。また、CX-8は全長5m近い大きな車のため、取り回しに不安を持つ主婦層も多い。そこで、車幅がCX-5と同じことをアピールしたり、周囲の様子がモニターで確認できるオプション機能の360度ビュー・モニターを勧めたりすることで、「安心して運転してもらえるように配慮した」(販売店営業担当者)という。

ほかにも、全国の10カ所を巡回して実車展示を行った。CX-5のときよりも多くの拠点を回り、ショッピングモールなどでも展示をしたことで、今までのマツダとは接点のなかった層にも訴求することができた。発表から販売まで1カ月ほどが多い中で、3カ月は「異例の長さ」とも呼べるが、その長い期間を逆手に取ったとも言える。

そして今回、特に興味深いのは、購入者に占める30代までの若年層の多さだ。予約客の38%を30代までが占める。今回のCX-8は大きさとともに、今まで以上に落ち着きや高級感のあるパッケージングが特徴。価格は319万6800〜419万0400円(税込み)とマツダ車では高価格帯に属する。

マツダは、年代で購入者のターゲットを絞らないとしつつも、「小学校高学年より上のお子様がいる、落ち着いたファミリー」などを想定していた。国内営業担当の福原和幸常務執行役員も、「イベントを各地でやると、上の年代より、ヤングファミリーの新しい層からの反響が大きい。想定外だ」と驚きを隠せない。

多人数でもかっこいい車に乗りたい層が反応

なぜ想定外の「若返り現象」が起きたのか。まずは、多人数でも「かっこいい車」に乗りたいという需要を取り込めたことにある。マツダは2012年発売のCX-5から、走行性能と環境性能を高めたスカイアクティブ技術と躍動感あふれる「魂動デザイン」を導入して、クルマ作りを全面刷新。マツダが「新世代商品群」と呼ぶ車種は軒並みヒットし、従来は40%台前半だった再購入率が、2016年は50%を超えるところまで上昇した。


マツダのミニバン「プレマシー」。2016年の販売台数は約6000台にとどまった。次期型は開発せず、2018年3月までに生産を終える予定だ(写真:マツダ)

しかし、ファミリー層を主要ターゲットとするミニバンでは顧客への訴求が十分ではなかった。「MPV」「ビアンテ」「プレマシー」の3車種をあわせた2016年の販売台数は9000台余りと苦戦。ミニバンの人気はトヨタ自動車「ヴォクシー」、日産自動車「セレナ」、ホンダ「フリード」などの競合大手に集中し、マツダユーザーの多くが子どもを持つことを機に他社に流出していた。

ファミリー層をどう取り込むか。マツダはミニバンユーザーの不満に、自社の強みであるSUVで応えることに活路を見いだした。ミニバンのいかにも「ファミリー向け」というイメージを嫌がる層は一定数いる。家族の運転手になりたくない。走りもよく、自分も運転していてうれしい車が欲しい――。そんな父親の思いをかなえるような車は今まであまりなかった。


「CX-8」では2列目と3列目に段差をつけることで、余裕のある3列シートを実現した。内装の質感も高めた(撮影:尾形文繁)

そこで、日本車のSUVでは珍しい広めの3列目を開発。内装・外観のデザインや質感にもこだわることで、最大7人の多人数乗りを実現しつつ、スタイリッシュな車に仕上げた。ファミリー層の潜在需要を開拓しようとするマツダのもくろみは当たった。他社からの乗り換えで最も多いのは、ミニバンユーザーだという。千葉マツダの大木康正社長は「CX-8はミニバンに飽きた人たちの受け皿になっているのではないか」と分析する。

マツダからの乗り換えは、すでに生産を終了したミニバン「MPV」からが圧倒的に多い。もともとラグジュアリーな部分に力を入れ、走りにもこだわった車でもあり、多人数でかっこいい車、というコンセプトはCX-8と似たところもあった。最後に発売された2006年から11年が経ち、子どもが成長してスライドドアが不要になり、収入もMPV購入時より増えて価格的にも手が届くようになった、というタイミングで買い替えを決めるそうだ。


マツダのCX-8の内装。本物の木材を使用するなどして、質感にこだわった。接待や法人利用にもふさわしい高級感ある内装に仕上がっている(撮影:尾形文繁)

もちろん、CX-5やセダンの旗艦車種「アテンザ」など新世代商品群からの乗り換えも多い。初代CX-5のユーザーの中には、今年2月に発売された2代目に乗り換えず、CX-8の発売を待っていた人も多いという。そうした人の購入ポイントとなったのは、3列シートもさることながら、CX-5より36センチ長くなった全長を活かした荷室の広さや「プレミアムSUV」とも呼べる高級感だ。

CX-5ではゴルフバッグを4つ乗せるのは難しいが、CX-8なら余裕を持って載せられると、荷物を沢山載せることが多い顧客から歓迎されるそうだ。高級感が求められる接待や法人向けにもCX-8はニーズがあるという。トヨタの高級ミニバン「アルファード」「ヴェルファイア」や、価格帯は異なるがBMW「X5」やボルボ「XC90」など輸入車の3列シートSUVのような使われ方も期待できる。

3列シートSUVは道路の広い米国市場では主流で、マツダではCX-8よりもさらに大きな「CX-9」の販売が好調だ。日系メーカーではトヨタが「ハイランダー」、日産が「パスファインダー」などを発売しており、スバルも「アセント」を2018年に投入する。

国内の3列シートSUV市場は発展途上


マツダが北米で販売する3列シートSUV「CX-9」は好調だ。日本でも3列SシートSUV市場が拡大するか、CX-8の販売動向に注目が集まる(写真:マツダ)

しかし、3列シートSUVは国内では需要がまだ少なく、2016年の販売台数がわずか3万8000台だ。車種もトヨタの「ランドクルーザープラド」や日産「エクストレイル」などに限られ、71万1000台のミニバンに、19倍もの差をつけられている。

とはいえ、昨今のSUVブームで、ミニバンからSUVへの移行は着実に進む。CX-8だけでは台数を引っ張れないが、2018年以降はホンダが「CR-V」をハイブリッド車(HV)で国内に再投入するなど、日系他社も活発に動き、「3列シートSUVの市場が盛り上がることが期待できる」(マツダ広報)という。

マツダが新しいディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」でディーゼル需要を盛り立てたときのように、3列シートSUVというジャンルでも、新たなトレンドを作り出せるか。ボーナス商戦や初売りが終わった後もその勢いを持続できるかどうかに、真の実力が表れそうだ。