取引先へのあいさつや差し入れなど、手みやげを持参する機会は多いもの。社会人経験も長くなってくれば、定番や有名どころのお菓子は一通りチェックしているのではないでしょうか?

しかし、「確かに定番は外さないけれど面白みに欠ける……」「相手が『おおっ』と喜んでいる手みやげを贈りたいけれど、どうすればいいかわからない」という悩みもチラホラ。

そこで、10万部を突破したレシピ本『魔法のケーキ』(荻田尚子著・主婦と生活社)の担当編集で、スイーツについて語りはじめたら止まらない、自他ともに認める“スイーツおじさん”の小田真一さんに手みやげの選び方を聞きました。

味は“見てくれ”についてくる

--今日は手みやげについていろいろ教えていただけるということで、よろしくお願いします。

社会人経験も10年を過ぎると、手みやげも「はずさない」ものを選ぶことができているとは思うんですが、逆に無難すぎてつまらないなって思うこともよくあるんです。せっかく3000円とか5000円を出して贈るのであれば、相手に喜んでもらいたいし、できれば仕事にもプラスに働くものを贈りたいなって。ちょっと欲張りですけれど。

小田:手みやげというのはまず相手ありきのお話なので、相手のことをきちんと知っておくのは大前提です。私は料理研究家の方とお仕事をすることが多いのですが、たとえば相手がフランス系の料理研究家だったら、あえてフランス菓子は避けて、ウイーンやイタリアのお菓子を持って行くこともあります。

--あえてずらすってことですか?

小田:フランス系の料理研究家さんであれば、かなりの確率でフランス菓子には詳しいでしょう? 知っているものを持って行っても、そこに驚きはありません。相手の好みを踏まえた上で、あえてはずす。それで喜んでいただけたなら、最高に嬉しいですね。

--なるほど。ただ、一般の会社員だったら相手が料理研究家というのはまずないですよね。その場合は?

小田:まず第一には見てくれですね。

--見てくれ! パッケージとか外見ってことですよね?

小田:そうです。パッケージを開けた時の第一印象ってとても大きいと思うのです。外見も味の一部です。それにおいしいものってたいてい美しいんですよね。

--「外見も味の一部」……。名言ですね。

おじさんには「定番」“まわりの女性”に気配りを

--まずは見た目がいいものを選ぶってことですね。

小田:あ、でも食べものに興味がないおじさんには何をやってもたいていは無駄ですよ! おじさんにはド定番のお菓子をあげておくのが無難です。万が一私みたいなスイーツおじさんもいたら……そのときはご愁傷様です(笑)。

--そうなんですね、一生懸命選んでもおじさんにはわからないんですね。ちょっと残念だな。

小田:むしろ気にかけないといけないのは秘書や奥さんといったおじさんのまわりにいる女性たちです。

--まわりの女性、ですか。

小田:彼女たちは舌も目も肥えているので彼女たちの目に気を配ったほうがいいです。

--なるほど。相手がおじさんだからって気を抜けないってことですね。

手渡す時のポイント

--「見てくれ」が大事というお話でしたが「日本初上陸」とか「ここでしか買えない」というトレンドものってありますよね? それはいかがですか?

小田:もちろんいいと思いますよ。あと大事なのは「能書き」です。

--「能書き」ですか?

小田:「ミシェル・クルイゼルのクーベルチュールチョコレートを使っているんですよ」とか「ここのシェフはピエール・エルメ出身なんですよ」とか、簡潔にひと言コメントをつけながら渡すと喜ばれます。自分がよくわかっていないものをプレゼントするのも失礼な話ですしね。

もちろん基本的にはすべて自分が食べたことがあるものを選んでいます。「予約しないと買えないんですよ!」とかは恩着せがましいので避けたほうがよいでしょう。

季節感も意識して

--なるほど! ほかに気にかけたほうがいいポイントはありますか?

小田:季節性を考えて、旬の食材を使ったお菓子があるのならそれが一番です。例えばこのくそ暑い時期にチョコをあげるのは無粋。しっかりとしたお店の、旬のくだものを使ったお菓子なら間違いないのではないでしょうか。

あとは和菓子。特に上生菓子は季節感と物語が感じられるので良いですね。相手が年配の方ならきっと喜んでいただけるのではないでしょうか。

「お金以外のところでいかにコストをかけるか」

--季節性は確かに大事ですね。最後に小田さんが考える「手みやげ」ってどんな存在ですか?

小田:手みやげにはとても多くの情報量が詰まっていると思います。手みやげ一つで「話が合いそう」とか「誠実そう」とか「食べものが好きそう」とかわかるもの。

「あなたのことを大事に思っていますよ。あなたのことを考えてきました」と伝わるのがいい手みやげだと思うんです。「私の手みやげ意識高いでしょ?」ではなくて……。

そのためにはお金以外のところでいかにコストをかけているかが大事になってくる。日ごろのまめな情報収集はもちろんのこと、ちょっと足を伸ばして買いに行ったりとか。

私は、食べ物にはすべてをねじ伏せる力があると思っていて。多少腹が立つことがあっても「あの手みやげ美味しかったよな」とか、「ムカつくけれどあの人食べもののセンスだけはいいんだよな」とか、それで許せてしまうことって、少なくないと思うんですよね。

手みやげにいかに「for you」、「only for you」を込めるかがカギだと思います。

--手みやげって奥が深いんですね。

次回は小田さんオススメの手みやげを聞きます。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)