東芝は本当に復活したのか? 度重なる業績予想の上方修正のわけ
●減収も増益だった東芝
東芝は、2016年度の業績見通しを発表した5月から上期の上方修正で3回、通期の上方修正も1回発表している。不正経理の発覚から落ちた東芝が、急回復したのだろうか。今回の上期業績発表から理由が明らかになった。
○上期業績予想、3度上方修正の結果は……
東芝の2016年度上期(2016年4月〜9月)の連結業績は、売上高が前年同期比4.3%減の2兆5789億円となったものの、営業利益は前年同期の891億円の赤字から967億円の黒字に転換し、税引前利益は60.1%増の675億円、当期純利益は209.2%増の1153億円となった。
期初となる5月12日に発表した2016年度の通期業績見通しは、11月8日に上方修正を発表。その間、同社は、8月12日、9月28日、10月31日と3回に渡って、上期業績見通しを上方修正してきた。
通期見通しは、期初計画に比べて、売上高で3000億円増の5兆4000億円、営業利益は600億円増の1800億円、税引前利益は450億円増の1300億円、当期純利益は450億円増の1450億円を目指す。
今回発表した好調な上期連結業績は、3度にわたる上方修正を裏付けるものになったといっていい。
○大幅な構造改革でPC事業の自力再生
東芝の業績が回復している背景には、いくつかの理由がある。
原子力発電所建設子会社の新規連結化や、HDDの販売台数の増加、PC事業をはじめとする構造改革の成果などのほか、第1四半期に計上した家庭電器事業の売却益など非継続事業の利益も、最終黒字の大幅な増加に貢献している。
とくにPC事業の場合、東芝の不適切な会計処理の舞台となったこと、赤字体質からの脱却が進まないなどの理由もあり、一時は富士通のPC事業およびVAIOとの統合が検討されていた。
しかし、結果として、この統合話がまとまらず、東芝は、自力でのPC事業の再生に取り組み、大規模な構造改革を実行に移してきた。
東芝情報機器への事業移管や、海外のBtoC事業からの撤退、出荷台数の大幅な削減などがそれだ。
●メモリ・HDDの需給環境がうれしい誤算に
その結果、PC事業の売上高は、2016年度上期実績で、前年同期比59%減の996億円と半分以下にまで一気に縮小。営業利益は7億円の赤字となったものの、141億円もの改善を果たした。第1四半期だけをみれば、営業利益は2億円の黒字を達成している。
赤字となった上期実績についても、「前年度の構造改革費用として、37億円を遅れて計上していることを考えると、上期は実質的には黒字だと判断している」(東芝 代表執行役専務の平田政善氏)とし、PC事業の回復ぶりを強調する。
○救いになったのはメモリ・HDDの需給環境
だが、上期の好業績の最大の理由は、メモリやHDDで構成されるストレージ&デバイスソリューションの好調ぶりだ。
同セグメントの売上高は1%減の7997億円と減益になったものの、営業利益は417億円増の783億円と大幅な増益となった。
HDDは、PCおよびゲーム向け需要が引き続き堅調なほか、構造改革効果によって、売上高は14%増の2217億円、営業利益は208億円改善して、138億円の黒字に転換した。デバイス他の領域においても、売上高は6%減の1735億円と事業撤退の影響があったものの、システムLSIの事業構造改革の効果により、489億円改善し、144億円の黒字を計上した。
さらに、メモリは、円高の影響もあり、売上高は前年同期比5%減の4045億円、営業利益は280億円減の501億円の減収減益となったが、旺盛な中国スマホメーカーへのメモリ供給の増加や、SSDの需要増により、売価は想定よりも高く推移。売上高、営業利益ともに、当初計画よりも上振れたという。
「メモリは、当初想定では、数%程度の営業利益率を想定していたが、旺盛な需要に支えられ、想定を上回る12%の営業利益率を達成。通期でも同様の利益率が見込まれる」とする。
このようにストレージ&デバイスソリューションには明るい材料が揃いはじめており、これが東芝の好業績を牽引している。
○足をひっぱるのはテレビなどの映像事業
一方で、依然として厳しい状況にあるのが、テレビをはじめとする映像事業である。
映像事業の2016年度上期売上高は、前年同期比42%減の279億円、営業利益は110億円改善したものの105億円の赤字となった。
海外向けの事業を、ブランドライセンス化したことで、売上高が縮小。また、過去に発売した製品における品質対応引当や、ライセンス費支払いに関わる係争案件で、合計84億円の費用を計上。これらがマイナス影響となり、大幅な赤字の原因となった。
さらに、2016年度下期には、海外拠点整理関連費用として100億円超を見込んでおり、通期での赤字は避けられない。
●構造改革は道半ば
東芝の平田代表執行役専務は、「映像事業においては、さらなる構造改革を実施する必要がある。いまは決定したものはないが、あらゆることを検討したい」と語る。
映像事業は、最大の商戦期となる年末商戦を迎えていることから、「まずは、年末商戦にしっかりと注力し、その結果、どこまで行けるかを見てから考えたい」と発言。年明けにも映像事業の構造改革が発表されることになりそうだ。
東芝は、今回の上期決算の席上で、新たに600億円の構造改革費用を計上することを発表しており、ここからも大規模な構造改革になることが想定される。
○完全復活とは言えない……予断を許さない状況は続いている
東芝の構造改革は道半ばである。
株主資本比率は、円高により外貨換算調整額がマイナス948億円と悪化したため、2016年3月末に比べて、1.4ポイントの改善の7.5%に留まり、財務体質の改善も課題のままとして残っている。
「財務体質は依然として厳しい状況にある。引き続き重要課題に位置づけている」と、東芝の平田代表執行役専務は語る。
また、子会社である東芝EIコントロールシステムにおいて、約5億2000万円の売上過大計上があったことを発表。「統制機能が生かされた結果」と自己評価してみせるが、今後も、こうした「膿」が出てこないとも限らない。
回復基調に転じているのは確かだが、先行きの不透明感は拭い切れていないのが実態だろう。
「グローバルスタンダードといえる収益性を実現するには、下期にもう一段の改善策が必要。残っている不採算事業を中心にさらなる構造改革を進め、最後の仕上げにつなげたい」と東芝の平田代表執行役専務。
手綱を緩めずに、この勢いを維持した形で改革を遂行できるかが鍵になる。
(大河原克行)