株式評論家 木村佳子氏

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先行きの不透明感が増し、神経質な動きになりそうな日本の株式市場。でもジリ貧相場になったときこそ、優良株の仕込みのチャンス。どかんと急騰は望み薄でも、多彩な優待と高めの配当を楽しめる堅実でお買い得な銘柄を今のうちにチェックしておこう。

■企業から株主への多彩なプレゼント

イオンを創業した岡田家の家訓は「上げに儲けるな、下げに儲けよ」。

「世間が好景気に浮かれているときは慎重に、投機熱が冷めたときこそいい品を安く仕入れて商売を拡大するチャンスだ」という、第一次大戦後の戦後恐慌のとき岡田屋が得た成功体験に根ざした言葉だ。

株式投資についても同じことが言えるが、言うは易し、行うは難し。仕事や家事の片手間に株を売り買いする大多数の個人投資家は、相場の変動を追いきれず、どうしても売買のタイミングを逃しがちになる。

「そういう限定条件があるなかで、平凡な個人投資家が投資の喜びを感じられる一つの方法が、株主優待に着目した投資法です」と言うのは、株式評論家の木村佳子氏だ。

株主優待とは、企業が自社株の保有者に配るプレゼントのようなもの。配当と同様、事業利益の一部を株主に還元するという意味合いに加え、安定株主の確保や企業の知名度アップといったIR(投資家向け広報)的な意味も大きい。

もらえる条件は、企業が指定する権利確定日に、定められた株数以上の株式を保有していること。もらえるものは現物の自社製品のほか、店舗や施設で使える優待券、米や農産物など各地の名産品、クオカードや図書カードなど。ユニークなところでは、家のリフォームやマンションの割引、宝くじといった優待もある。

多くの場合は年に1回だが、会社によっては年2回の優待を出すところも。「最近は安定株主の確保という観点から、長期保有者を優遇するプレミアム優待を出す会社も増えています」(木村氏)。

たとえば、目薬などの市販薬やスキンケア用品で知られるロート製薬。毎年3月末日の株主名簿に記載されていれば、100株(約16万6000円)以上の保有で同社の通販品の割引、500株以上で3000円相当の製品詰め合わせがもらえる。右記に加えて3年以上の長期保有株主に対しては、100株で3000円以上相当、500株で5000円以上相当の同社製品が贈られる。

「美容院などに業務用のシャンプーなどを売っている、コタという会社もいいですね。100株(約11万1000円)で5000円相当のヘアケア商品が年1回もらえるのですが、質が良くて人にすすめたくなります」(木村氏)

欲しい優待品を出す銘柄探しは、YAHOO!ファイナンスをはじめとする株式系ウェブサイトの、優待品のタイプ別に検索できるコーナーが便利だ。もちろん、その企業が投資に値する会社かどうかのチェックも忘れずに行いたい。

「理想を言えば『株価が割安で成長性がある会社』がいいのでしょうが、この成長性の見極めが素人には難しい。将来有望と話題になっている分野、今でいえばポケモンGOに使われている拡張現実(AR)技術に関連するようないわゆる『テーマ銘柄』も、競争に勝って成長し続ける企業はごく一部にすぎません」

そこでおすすめなのが、一般消費者向けではなく企業向けのビジネスに特化した「BtoB銘柄」だと木村氏は言う。長期にわたって株価チャートが安定していて、業績は堅実、技術革新にもきちんと努めている会社。ニッチ分野でシェアトップを確保しているようなら、なおいい。

「たとえば、業務用食品卸の尾家産業、紙を作るときに必要なフィルターの世界で国内シェア1位の日本フイルコン、繊維商社のタキヒヨー、上場企業のIR活動の支援で大手の宝印刷やプロネクサスといった企業ですね」(木村氏)

■円高・株安にも強い投資先とは

経営状態を判断するいい材料の1つは、1株当たり純利益(EPS)の推移だ。「輸出入関連企業では為替の影響を受けやすい数値ですが、長期投資を前提にするなら、まずこの数字の動きをここ何年分かチェックしましょう。EPSが増えそうなときは設備投資をし、減りそうなときはリストラをして、最終的な決算で極端な増減が起きないようにする。そういうことをタイミングよくできる会社は経営が上手で、安心できる投資先といえるでしょう」。

逆に、優待につられて投資してはならない会社もある。「優待は豪華なのに配当がない、あるいは成長性がないのに数字の上では利益が出ている会社は要注意です」と木村氏。

「覆面取材の目的で、成長性があまりない業界なのに業績も利益も右肩上がりの会社にあえて投資したら、その数字が粉飾で、最後は倒産されたことがあります。結局経営陣が、優待をエサに個人投資家に株を売り抜けた形ですね」。

テレビショッピングの会社にやはり覆面取材で投資し、1万円分の優待商品をもらったら、使い勝手がひどく悪かった例も。「案の定業績が上がらず、その後株価は半値に。高額優待に目がくらむと危険な例ですね」と、木村氏は苦笑する。

リオ五輪が終わった後、日本の株価はやや弱含みで推移すると、木村氏は予測する。秋にイタリアで行われる憲法改正の国民投票をはじめ、先行きの不透明感を連想させる政治イベントが世界的に続く結果、リスク回避的な円高トレンドがしばらく続くだろうというのがその理由だ。

「それに備えるには、たとえ円高に振れても業績の変動が少ない、内需型のBtoB銘柄が狙い目だと思います。今のうちに投資する銘柄をいくつか選んでおいて、市場全体が下がったところで安値を拾っていくのがいいでしょう」

では、売るタイミングはどうすればいいのか。「基本的には、優待や配当にとらわれすぎず、買値よりある程度上がればいつでも売っていいと思います」と木村氏。「でも、その企業が好きでずっと応援したいとか、成長性があると考えるなら、そのまま持っていていいと思います。権利確定月の違う銘柄をいくつか保有し、代わる代わる配当や優待がくるようにすれば、ただ持っていても楽しみがありますよね」。

木村氏が最近会ったアマチュア投資家が、こんな話をしていたという。

「僕ら夫婦は年金生活で、あまりぜいたくができない。でも株をやっていると、映画の券やあちこちの割引券、いろんな商品の詰め合わせが優待で送られてきて、それが貴重な文化的イベントになっているんです」

そんな楽しみ方もあるのが、優待に着目した株式投資なのだ。

▼買ってよい優待株の条件

[本業基盤が堅牢である]
ニッチ市場で国内トップなど、事業環境が安定していること。1株当たり純利益(EPS)の安定度にも注目。

[為替の変動に強い業態]
円高の進行があまり業績に直結しない、内需型のBtoB銘柄が、先の見えにくい相場では狙い目

[配当力とプレミアム優待]
きちんと利益を出し、それを株主に分配する姿勢があること。プレミアム優待は長期保有株主重視の証し。

[株価が割安でチャートが平たい]
資産や業績に比べ株価が割安で、過去の値動きも安定している会社は、暴落リスクが少なく長期保有向き。

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木村佳子
株式評論家。1級FP技能士、認定国際テクニカルアナリスト。生活経済、個人の資産運用に強いエコノミストとして、個人投資家向けに資産運用プランや生活経済情報を発信。早稲田大学大学院ファイナンス研究科(専門職MBA)修了。日本IRプランナーズ協会理事長、くらしとしごと生活者フォーラム代表理事。

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■この秋注目の、優待投資好適銘柄リスト

※木村佳子氏の助言をもとに編集部で作成。シードとタナベ経営は東証2部、それ以外の企業は東証1部上場。最低投資単位は優待を得るために最低限必要な保有株数に、2016年8月12日の各銘柄の東証終値をかけたもの。

■銘柄名:尾家産業

コード:7481
業種:卸売業
最低投資単位:93,700円(100株)
優待権利確定月:3月末日
優待内容:100株ならオリジナルカレーセット。1000株以上高級梅干し1kg。5000株以上自社商品セット。長期保有優待あり。
備考:業務用食品問屋大手。年予定配当18円。内需型・輸入型で円高に強い。

■銘柄名:伊藤忠食品

コード:2692
業種:卸売業
最低投資単位:398,500円(100株)
優待権利確定月:3月末日
優待内容:100株以上の保有で、同社オリジナルの選べる名産品ギフト「ちょいすdeチョイス」(3000円相当)。
備考:伊藤忠グループの食品卸大手。年予定配当70円。株価が安定的。

■銘柄名:日本フイルコン

コード:5942
業種:金属製品
最低投資単位:43,700円(100株)
優待権利確定月:11月末日
優待内容:100株なら1000円相当、1000株以上は2000円相当の、同社子会社が輸入・販売する米ワシントン州産ワイン。
備考:製紙用フィルターで国内トップシェア。予定配当12円(5、11月で分配)。

■銘柄名:すかいらーく

コード:3197
業種:小売業
最低投資単位:135,500円(100株)
優待権利確定月:6月末日、12月末日
優待内容:Sガストを除く全店舗で使える優待券。100株所有で年2回各1000円、300株所有で6月に3000円、12月に3500円。
備考:ガスト、バーミヤン、藍屋などを展開する外食大手。年予定配当38円。

■銘柄名:杉本商事

コード:9932
業種:卸売業
最低投資単位:116,800円(100株)
優待権利確定月:3月末日
優待内容:全国の書店で使用できる図書カードがもらえる。100株以上で1000円分、1000株以上で3000円分。
備考:機械・工具商社大手。財務の堅実さに定評。予定配当45円と高い配当利回り。

■銘柄名:宝印刷

コード:7921
業種:その他製品
最低投資単位:141,300円(100株)
優待権利確定月:5月末日
優待内容:100株以上の保有で、1500円コースの選べるギフト。3年以上継続所有すると2000円コースにグレードアップ。
備考:上場企業のIRや会社法関連業務の支援大手。予定配当50円と利回り良好。

■銘柄名:プロネクサス

コード:7893
業種:その他製品
最低投資単位:115,200円(100株)
優待権利確定月:3月末日
優待内容:100株でクオカード500円分。ただし保有年数1年以上で1000円分、3年以上の長期保有で1500円分まで増える。
備考:宝印刷と並ぶIR 支援大手。年予定配当22円。為替に左右されにくい。

■銘柄名:三菱UFJフィナンシャル・グループ

コード:8306
業種:銀行業
最低投資単位:52,900円(100株)
優待権利確定月:9月末日
優待内容:100株からフェイスタオル2枚セットなど。500株以上保有すると、定期預金の金利優遇など金融サービスの優待も。
備考:日本屈指の金融グループ。最低投資単位の金額が小さいため買いやすい。

■銘柄名:オリックス

コード:8591
業種:その他金融業
最低投資単位:145,150円(100株)
優待権利確定月:3月末日、9月末日
優待内容:100株以上保有で、選べる「ふるさと優待」。3年以上の継続保有で内容がグレードアップ。各種特典付き株主カードの発行も。
備考:リースに始まり、銀行、保険、発電などにも事業分野を拡大。昨期増配。

■銘柄名:タキヒヨー

コード:9982
業種:卸売業
最低投資単位:436,000円(1000株)
優待権利確定月:2月末日、8月末日
優待内容:1000株以上保有で、社長こだわりのオリジナルギフトを年に2回。2月の優待では抽選で10人に各50万円分の旅行券。
備考:BtoBの繊維商社大手。デパートから通販まで、年間6000万着以上を納入。

■銘柄名:コタ

コード:4923
業種:化学
最低投資単位:111,000円(100株)
優待権利確定月:3月末日
優待内容:100株以上で5000円相当、500株以上で8000円相当の自社製ヘアケア製品。髪質改善コースと頭皮改善コースを選べる。
備考:業務用ヘアケア製品大手。年予定配当18円。買いタイミング入り。

■銘柄名:ロート製薬

コード:4527
業種:医薬品
最低投資単位:166,200円(100株)
優待権利確定月:3月末日
優待内容:100株以上保有で同社通販割引、500株以上保有で3000円相当以上の自社製品詰め合わせ。長期保有で優待内容アップ。
備考:目薬やコンタクトレンズ関連に定評、スキンケア商品も。年予定配当21円。

■銘柄名:シード

コード:7743
業種:精密機器
最低投資単位:122,200円(100株)
優待権利確定月:3月末日
優待内容:100株以上保有で10,000円相当のコンタクトレンズケアセット、または店舗で使える優待券。別に各地の名産品コースも。
備考:国産コンタクトレンズ大手。東証2部上場。予定配当27.5円。

■銘柄名:ゴルフダイジェスト・オンライン

コード:3319
業種:小売業
最低投資単位:67,000円(100株)
優待権利確定月:6月末日、12月末日
優待内容:自社ショップの商品券とゴルフ場予約券が、100株以上保有で各1000円分、年2回もらえる。
備考:500株以上保有なら各3000円分に内容がアップ。年配当予定6円。

■銘柄名:ルネサンス

コード:2378
業種:サービス業
最低投資単位:124,100円(100株)
優待権利確定月:3月末日、9月末日
優待内容:100株保有で、施設無料券2枚を年2回(年4枚)。以後100株ごとに2枚ずつ、最大10枚まで枚数が増える。
備考:フィットネスクラブ、ゴルフスクールなどを全国展開。年予定配当26円。

■銘柄名:ANAホールディングス

コード:9202
業種:空運業
最低投資単位:277,500円(1000株)
優待権利確定月:3月末日、9月末日
優待内容:1000株以上で1枚、2000株以上で2枚、国内線片道1区間の普通運賃が半額になる「株主優待番号ご案内書」を年2回。
備考:ANAグループ提携ホテルや旅行商品の割引も。年予定配当6円。

■銘柄名:ヤマハ発動機

コード:7272
業種:輸送用機械
最低投資単位:193,500円(100株)
優待権利確定月:6月末日、12月末日
優待内容:保有株式数や保有期間に応じてポイントを獲得。それを各地の名産品やJリーグ観戦チケットなど多彩な特典と引き換える。
備考:3年以上の長期保有株主には1000ポイントプラス。年予定配当60円。

■銘柄名:タナベ経営

コード:9644
業種:サービス業
最低投資単位:104,500円(100株)
優待権利確定月:9月末日
優待内容:100株以上の保有で、革装のオリジナル手帳「ブルーダイアリー」(3000円相当)がもらえる。
備考:コンサルティング大手。株価が安定し、かつ高配当な銘柄。年予定配当39円。

■銘柄名:フコク

コード:5185
業種:ゴム製品
最低投資単位:74,600円(100株)
優待権利確定月:3月末日
優待内容:100株以上の保有で、新潟県の貴重な棚田米こしひかりを2kgもらえる。おこめ券を含め米を優待品にする会社は多い。
備考:自動車用ゴム製品大手。ワイパーブレードラバー生産量世界一。高配当。

■銘柄名:JKホールディングス

コード:9896
業種:卸売業
最低投資単位:47,600円(100株)
優待権利確定月:3月末日
優待内容:100株以上保有でクオカード1000円分。コンビニ等で使えて便利なクオカードも、BtoB企業の株式優待の定番。
備考:住宅関連機材の商社などを傘下に持つ持ち株会社。配当利回りは3%以上。

(川口昌人=文 PIXTA=写真)