いかに世代交代を進めるか――。

 それは現在の日本代表に突きつけられた、重要課題となっている。

 今月1日にスタートしたW杯アジア最終予選。日本は最初の2試合を1勝1敗で終えた。星のうえでは五分だが、試合内容も含めて考えると、状況はかなり危うい。

 キャプテンのMF長谷部誠は致命的なミスを連発し、チームの柱であるMF本田圭佑は動きが重く、いとも簡単にボールを失った。要するに、これまで長らく日本代表を支えてきた主力に衰えが目立つのである。

 もちろん、長谷部、本田ら30歳前後の選手たちが持つ、豊富な国際経験は貴重だ。彼らをチームの中心に据えたままでも、アジア最終予選を突破し、W杯に出場することは可能かもしれない。

 しかし、今のままのメンバーで戦い続けて、2年後の本大会までにどれだけの上積みが期待できるのだろうか。ロシアでグループリーグ突破、あるいはベスト8進出を期待できるだけのチームになるのだろうか。残念ながら、どうにも期待感は高まらない。

 そこには、やはり若手の成長が必要だ。チームに伸びしろをもたらしてくれる存在が不可欠なのである。

 幸いにして、ここまでの最終予選2試合ではリオ五輪世代のふたり、23歳のMF大島僚太と21歳のFW浅野拓磨が先発メンバーに起用された。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督も、さすがにこのままでいいと考えているはずはなく、若手の起用を積極的に進めようという意図がうかがえた。目先の勝負だけでなく、2年後、さらには6年後まで見通したとき、それは好ましい傾向である。

 とはいえ、気になるのは、UAE戦でA代表デビューとなった大島の評価である。

 確かに、大島は1失点目の発端となるパスミスを犯し、2失点目につながるPKを与えた。敗戦の原因に直接関与したという意味では、デビュー戦の印象は最悪なものだったかもしれない。

 しかも、そんな印象にダメを押すかのように、ハリルホジッチ監督は大島について「もう少し期待していた」と語り、「攻撃のスピードアップ」と「前へのパス」を具体的な問題点として指摘した。

 だが、大島がプレーした70分あまりを総じて評価するなら、決して悪い出来ではなかった。

 大島は精神的重圧のかかる最終予選という大舞台にいきなり立たされても、緊張する様子も見せず、いつものように淡々とボールを受け、落ち着いてパスをさばいていた。

 指揮官が指摘するように、あっさりとバックパスしてしまう場面が何度かあった(そのつど、ベンチ前では指揮官が両手を広げて不満を表に出していた)のは事実だが、だからといって、そればかりに終始していたわけではない。効果的な縦パスも少なくなかった。

 また、守備での貢献度も思いのほか高かった。素早い攻撃から守備への切り替えにより、中盤でカウンターの芽を摘むこともできており、体は小さくとも当たり負けしない強さも見せていた。

 リオ五輪でのプレーぶりを見てもわかるように、大島には味方も敵も、ピッチ上のすべての選手の立ち位置が把握できているかのごとく、的確にスペースを突いてパスを出せるセンスがある。これは、誰にでも真似のできるものではなく、おそらく天賦の才だ。Jリーグでプレーする国内組はもちろん、海外組を含めても、代えの利かない才能である。これを日本代表で生かさない手はない。

 最終予選後、最初のリーグ戦となったJ1セカンドステージ第11節。年間勝ち点で首位を走る川崎フロンターレは、同最下位のアビスパ福岡を3−1で下した。

 5人のDFと4人のMFで守備を固める福岡に対し、川崎は持ち味であるショートパスを徹底的につないで圧倒した。そのパスワークのなかで、大島が重要な役割を果たしていたことは言うまでもない。

 川崎のキャプテンであり、日本代表の先輩でもあるMF中村憲剛は、「僚太はあまりにも取り巻く世界が変わり過ぎて、それを整理するのが大変なんだと思う」と気遣いつつ、「代表のプレッシャーにもさらされているなかで、あのタフさはたいしたもの」と、堂々とプレーし続ける頼もしい後輩を称える。

 そして、大島が代表で指摘された課題――攻撃のスピードアップと前へのパスが期待外れだった――についても、こんなアドバイスを送る。

「要は、イメージの共有だと思う。前の選手が(パスを)欲しいタイミングで僚太が出せていないこともあるだろうし、逆に僚太が出したいタイミングで前の選手が顔を出してくれないこともあるだろうし。でも、僚太に言っているのは、『それでもアンテナを張ってろよ』ということ」

 中村の助言とは、つまり「まだイメージが共有できなくても、周りの選手の動きを見逃すな」ということだ。

 縦に速い攻撃を求める日本代表に比べれば、川崎はじっくりと手数をかけてでも、相手ディフェンスを崩し切ろうとする傾向はある。しかし、「だから大島はボールの動かし方が遅い」という見方はフェアでない。縦に入れられるときは入れる、という判断が最優先であることに、代表も川崎もない。

 大島が日本代表でプレーしたのは、わずかに1試合。周囲との呼吸が合ってくれば、UAE戦以上の働きができるはずだ。それどころか、数試合重ねれば、周りの選手が大島に一目置き、そのアイデアに合わせようとさえするかもしれない。

 まさかとは思うが、これだけの才能をたった1試合で見切ってしまっては、もったいない。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki