杉野希妃(2014年12月撮影)
 - Dominique Charriau / Getty Images

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 世界の映画祭で、作品ごとに高い評価を受けてきた杉野希妃が、製作兼出演した新作『3泊4日、5時の鐘』について語った。

 本作は、老舗旅館、茅ヶ崎館の長女の理沙(堀夏子)の結婚パーティーに招待された元同僚の花梨(小篠恵奈)と真紀(杉野)が、茅ヶ崎館でアルバイトをする大学生・知春(中崎敏)や彼のゼミ合宿の引率で来ていた教授の近藤(二階堂智)との交流を通して、さまざまな感情をぶつけ合いながら、人の交流の大切さを学んでいくというもの。映画『欲動』で助監督を務めた三澤拓哉の監督デビュー作。

 巨匠小津安二郎監督が脚本執筆していた旅館、茅ヶ崎館を舞台にしている「以前、敬愛する小津監督の円覚寺のお墓に何度かお参りさせていただきました。小津作品は市井の人々の日常が描かれ、一見身近な存在ですが、侵してはならない聖域のような雰囲気があります。さらに抑制された中に豊かさと美しさが立ち現れ、日本人の心が凝縮され、そういった心をわたしたちは決して忘れてはならないと思います。個人的には若尾文子さんと二代目中村鴈治郎さんの演技が格別に光った『浮草』が好きです」

 三澤監督とのタッグについては「三澤監督は、わたしの会社、和エンタテインメントにインターンとして入り、わたしが手掛けた作品を通してアシスタントプロデューサーから始め、前作の『欲動』では助監督を務めました。とても誠実で真面目でバランス感覚に優れ、一度大学を出て日本映画大学に入ったせいか、学生とは思えない仕事ぶりで、映画の知識も半端なく、アシスタントというよりも、頼りがいのある同志という感覚です」と語った。

 杉野はここ2、3年で女優兼製作だけでなく、監督業にも乗り出している。「さまざまな方の意見にもっと耳を傾け、自分の軸を固めつつ、他者の意見をどんどん取り込むことで、軸をゆがませないまま変形していく楽しさを知りました。製作のときはできる限り作品をコントロールしなければいけないという責任が伴いますが、監督になってからは全て自分でコントロールしようと思わないようになりました」と変化があったという。

 ロッテルダム国際映画祭で審査員を任された際に交通事故に遭ったが、その後の状況について「ロッテルダム映画祭に到着した日の夜、『3泊4日、5時の鐘』の舞台あいさつを終えて、三澤監督とホテルに戻る途中に、ホテルの前で大型タクシーにひかれました。監督は数か所骨にヒビが入って脳震とう、わたしは5か所骨折して、3か月半ほど入院、これまでに計7回手術を受け、オランダの病院では1年近くは歩けないと言われましたが、広島大学病院の優秀な先生方のおかげで回復が早く、だいぶ歩けるようにもなりました」と説明し、今月中旬からの撮影が回復への励みになっていることも明かした。

 映画は、あまりクローズアップを多用せずに、日本独特の風情を描写しながら人間模様を描いた秀作。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)

映画『3泊4日、5時の鐘』は9月19日より新宿・K's cinemaほか全国公開