加入から活躍見せるデニング、その異例の経歴とは

 敗戦濃厚だったヤクルトを救ったのは、わずか年俸360万円の新外国人だった。

 5月27日の日本ハム戦(神宮)。1点ビハインドの9回2死二塁で打席に入ったのは、加入してまだ2試合目のミッチ・デニング外野手。1ボールからの2球目、増井の高めへの直球を右前へ運ぶ同点適時打をマーク。引き分けに持ち込む活躍を見せた助っ人は「最後の最後でチームを救う活躍ができて満足している。特別な1日になった」と興奮を隠さなかった。

 同29日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)では初アーチを放つなど、スタメンに定着しつつある。救世主になる可能性を秘めるデニングとは、どのような人物なのか―。

 オーストラリア・ニューサウスウェールズ州出身。タグラーレイクス高校から、2005年にボストン・レッドソックスと契約した。その後は同チーム傘下のマイナーやオーストラリア・リーグなどでプレー。09年と13年にはオーストラリア代表としてWBCにも出場した。

打撃は指揮官も評価「慣れていけば、相手投手の対策もできる」、一方で守備と走塁は…

 日本にやってきたのは、13年6月。オーストラリア・リーグのシドニーから、独立リーグのルートインBCリーグ新潟に加入した。シーズン途中からの参戦だったが、巧みなバットコントロールを武器に同年に3割7分をマークし、首位打者を獲得。翌年も打率3割2分1厘、12本塁打、68打点を記録した。

 ヤクルトと今シーズン終了までの契約を結んだのは5月25日。会見では「長い間待ち望んでいたNPBでのプレーの機会を頂いて、うれしい。このような日が訪れて感謝しています」と喜びを語った。

 年俸360万円プラス出来高という「格安ぶり」ばかりが注目されるが、打撃での評価は高い。真中監督は「まだ判断を下すのは難しいけど、クセのないきれいなスイングをしている。意外とバッターボックスでも落ち着いているし、選球眼もいいと思う。もっと慣れていけば、相手投手の対策もできると思う」と今後も継続して起用していく意向だ。

 だが、守備と走塁に関しては合格点は与えられないようだ。「肩自体は悪くないけど、守備は高校生レベル。走塁もそうだけど、これから色々勉強してもらわないといけない」と苦言を呈す。ボールの落下点に入るのが遅かったり、走塁の状況判断の悪さなど課題はある。

独立リーグでは月収15万円、「日本で長くやるためにはどのようにすればいいのか学びたい」

 それでも、日本人のような勤勉さを持つ助っ人なら改善できるはずだ。1軍に合流後、指揮官にこうお願いしたという。

「1年でも長くNPBでやりたい。そのために、日本ではどの場面ではどのように打つのかとか、日本で長くやるためにはどのようにすればいいのか学びたい」

 それだけ、NPBでのプレーを熱望していた。

 BCリーグ時代は月収15万円程度。家賃4万円の1Kに住んでいた。近所の定食屋でワンコインの500円で食べられる「日替わり定食」が大好きだったという苦労人。だが「日本のプロ野球でプレーしたい」という思いから、帰国はせずに、決して恵まれた環境ではないBCリーグで3年目を迎えていた。

「BCのときと違って、神宮は声援が大きくて、打席に向かっていく途中に『やってやろう』という気持ちになるんだ」

 ハングリー精神を持つこの男、ひょっとして掘り出し物になるかもしれない。