マイナーチェンジした「オーリス」。内外装についてトヨタは「よりエモーショナルに進化させた」という(2015年4月6日、大音安弘撮影)。

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「欧州で鍛えられたコンパクトハッチバック」であるトヨタ「オーリス」が、マイナーチェンジを実施。欧州車の人気が根強い日本のコンパクトハッチ市場で、欧州仕込みの「オーリス」はどう戦おうとしているのでしょうか。試乗してその力を確かめてきました。

激戦区の欧州で4位

 トヨタが欧州市場を主眼に据え、投入しているCセグメントのハッチバック「オーリス」。その欧州でのライバルはフォルクスワーゲン「ゴルフ」やプジョー「308」など、日本でも人気の高いモデルばかりです。しかし、そうした激戦区ながら欧州における「オーリス」の評価はなかなかのもので、2014年は欧州のCセグメントで売上4位を記録しています。

 そんな「欧州で鍛えられたコンパクトハッチバック」である「オーリス」が2015年4月、マイナーチェンジを実施しました。

 最大のトピックは、「ダウンサイジングターボエンジン」の採用です。最上級グレード「120T」に搭載された1.2L直噴ターボエンジンは、1.2Lという小排気量エンジンにターボチャージャーを装着。1.8Lクラスのパワーと1.5Lクラスの低燃費を狙ったもので、トヨタが開発、投入を進めている高効率・低燃費エンジン群のひとつです。

 ターボエンジンは「高性能モデル向けに高出力化を図ったもの」というイメージがあるかもしれませんが、「オーリス」が搭載するダウンサイジングターボエンジンは「実用性を高めるため」のもの。よって最高出力は116psとごく平均的です。しかしこのエンジンで注目すべきなのは、そこではありません。フラットなトルク特性です。185Nmという1.8Lクラスの最大トルクを、1500rpm〜4000rpmという幅広い回転域で発生。低速から十分な加速性能を得られるようになっているのです。燃費もNAエンジン1.5Lモデルの18.2km/Lに対し19.4km/Lと、大きく上回っています。

 また、トランスミッションにはCVTが設定されています。欧州コンパクトではDCT(デュアルクラッチトランスミッション)との組み合わせがよく見られますが、「オーリス」は新ターボエンジンとのマッチングを検討したところCVTのほうが利点が多かったといい、この点にも注目です。

新「オーリス」試乗、その性格は?

 マイナーチェンジされた「オーリス」の最高グレード「120T」に、試乗することができました。場所はクローズドのミニサーキットですが、最高速は100km/h+α程度。比較的、日常領域に近い状況だといえます。

 発進や中間加速のフィーリングはとてもスムーズ。ストップ&ゴーの多い街中でも同様の印象になるだろうと思います。これはCVT採用による燃費面以外の効果でしょう。

 また低回転から最大トルクを発生させるエンジンはレスポンスが良く、まるでNAエンジンのような感覚でした。出力はそこそこなのでターボらしい強烈な加速は味わえませんが、逆にエンジンパワーを使い切る面白みがあります。幅広いトルクバンドを備えているため、アップダウンのある試乗コースも楽々とクリアできました。

 ただ、気になった点もひとつ。タイトコーナーで回転数を落とし過ぎた際、立ち上がり加速で若干ターボラグを感じる場面がみられました。しかしこれも対策があり、「スポーツモード」を選べば問題ありません。このモードに切り替えたところ、コーナー入口で減速度に応じ最適なギヤへシフトダウンしてくれるだけでなく、旋回中の変速比、エンジン回転数が維持され、ワインディングを気持ち良く走りたいときなど活躍しそうだと感じました。ちなみにこのCVTは「7速マニュアルモード」に加えパドルシフトを備えるので、自身でコントロールする楽しみも味わえます。

 こうした新パワートレインを支える足まわりも「欧州仕込み」を納得する感触で、かなり魅力的でした。方向性でいえばドイツ車のような硬質なスポーティさではなく、フランス車のような柔軟な軽やかさを感じさせるもの。よく動くサスペンションで、クルマの挙動をつかみやすいのが印象的でした。特にリヤサスペンションは、ロール時も粘るように路面を捉えてくれます。

 またステアリングインフォメーションも分かりやすく、操作性、フィーリング共に不満は特にありません。このマイナーチェンジではステアフィールにこだわり、リヤセクションを強化したといいますから、その効果が相乗的に表れているのでしょう。「120T」にスポーツ走行を望むと物足りないところは当然ありますが、「心地よい走りの楽しさ」が存分に詰まっており、日常でも楽しめるカジュアルスポーティな新グレードであることを、ハンドルを握って実感しました。

安全支援は最も効果が高い組み合わせ

 内外装の改良もポイントのひとつ。トヨタのアイコンであるキーンルックデザインのフロントマスクはバンパーなどに手が加えられ、力強さがプラスされた印象です。プロポーションも、全長が55mm延長されたことで変化しています。

 インテリアではグレードごとに差別化が実施され、それぞれのキャラクターがより鮮明になりました。例えばスポーツグレードの「180RS」ではそうしたスポーティさをより強調する専用の内装になっているほか、試乗した最上級グレードの「120T」では、木目調加飾や専用シートカラーの組み合わせで上質さを演出。そのキャビンは華やかでありつつ、ちょっと大人っぽい雰囲気になっており、幅広い層に受け入れられそうな印象でした。

 「カローラ」に次いで、先進の安全運転支援機能「Toyota Safety Sense C」を搭載するのも話題のひとつ。自動ブレーキ機能を備え、衝突危険の警告とドライバーのブレーキアシストを行う「衝突回避支援型プリクラッシュセーフティ(PCS)」、車線逸脱を警告する「レーンディパーチャーアラート(LDA)」、他車や街路灯の存在に応じてハイビームとロービームを切り替え前方視界を確保する「オートマチックハイビーム(AHB)」をパッケージ化したものです。

 トヨタによれば、この組み合わせが死傷事故低減に最も効果が高いといいます。「オーリス」の場合、1.2Lターボと1.8Lには標準装備されますが、1.5Lはオプションです。ただ価格は5万4000円と、少ない負担ですむよう配慮されています。

 また、パッケージに含まれる「PCS」は10km/hから80km/hと広い速度域に対応しているのが特徴で、緊急時に作動する自動ブレーキでは約30km/hの減速が可能。実際にそれを体験しましたが、ブレーキが間に合うタイミングでまず警告され、そのまま減速せずにいると自動ブレーキがしっかりと反応。停車しました。しかし検出対象はあくまでクルマなので、過信は禁物です。

 ダウンサイジングターボと充実の安全性能を備えて、新たに登場した「欧州で鍛えられたコンパクトハッチバック」の「オーリス」。欧州車の人気が根強い日本のコンパクトハッチ市場がどうなるのか、今後の展開が注目されます。