マーリンズ・イチローとマイケル・ヒル強化担当責任者【写真:編集部】

イチローは監督とすでに話をしている」

 メジャー15年目を迎えるイチロー外野手のマーリンズ入団が正式に決まった。第4の外野手としてスタートする可能性が極めて高いだけに、十分な打席数を得られるのかは未知数。メジャー通算3000本安打まで156本、ピート・ローズの持つ歴代最多安打記録(4256本)まで134本と金字塔が迫っていることもあり、その起用法については大きな注目が集まっている。

 イチローの代理人を務めるジョン・ボッグス氏は当初、新たなチームを探す上での条件として「出場機会の確保」を掲げていた。粘り強く待てば、オリオールズのようにレギュラー右翼手を探すチームと契約するチャンスもあったかもしれない。だが、最終的には第4の外野手としてオファーしてきたマーリンズへの入団を決めた。

 なぜなのか。

 マーリンズのマイケル・ヒル強化責任者は、Full-Countの取材に対して「オリオールズが最優先という情報もあったけれど、我々は猛プッシュをした」と満足げに話した上で、興味深い事実を明かしている。

イチローは監督とすでに話をしている。多くの電話会議を開いたんだ。私、監督、ジェニングス(GM)、オーナーのローリア、すべてをテーブルに置いた。彼が決断するために、完璧に納得してもらうためにね」

「我々はイチローと何度も電話で話した。彼からのすべての質問に答えた」

 イチローと契約を結ぶためにマーリンズが見せた誠意。それは、実際にユニホームに袖を通した場合、どのような状況でプレーすることになるかを明確に示しておくこと。強化責任者のヒル氏やジェニングスGMだけでなく、実際に指揮を執るマイク・レドモンド監督からも直接、説明する機会を設けていた。

 メジャーでは、実績のあるベテラン野手に対してはスタメン起用などを前日のうちに告げておく指揮官も多い。だが、昨年まで所属したヤンキースでは、当日に球場入りし、クラブハウスに張り出されているスターティングラインナップの紙を見るまで、イチロー本人も試合に出場するか分からなかった。結果として、自分が本当にチームから必要とされているかを感じられなかったのかもしれない。

「球団のやたらに熱い思いが伝わってきて、この思いに応えたいという気持ちが、昨日、実際に顔を合わせて(球団幹部と)話をして大きく湧いてきました。僕がこの2年間、欲してたものはこれだったんじゃないかなと思います。選手として必要としてもらえること。これが僕にとっては何よりも大切なもので、大きな原動力になるというふうに思います」

 イチロー自身も入団会見で偽らざる気持ちを明かしている。マーリンズは球団幹部だけでなくレドモンド監督も交渉の席につき、どれだけイチローが必要かを訴えた。そして、起用法も含めて丁寧に説明を行うことで、1つ1つ疑問を解消していった。

 ヒル氏は「我々はイチローと何度も電話で話したよ。契約合意に至る前に何度も話している。彼には我々に対して居心地の良さを感じてもらいたかった。そして、彼からのすべての質問に答えたよ。マイアミは日本から遠い。我々の現状に満足してもらいたかった。どれだけ我々がイチローにチームの一員になってもらいたいかを、彼は知ることができたんじゃないかな」と明かす。第4の外野手であっても、打席数は多くなる。「出場機会の確保」を望むイチローが、納得できるような起用法を考えている。そんな説明があったようだ。

イチロー加入で整った戦力「ワールドシリーズを再び制覇する時がやってきた」

 イチローの代理人のボッグス氏もその事実を認めている。

「確かに打席が減るのでは、という懸念はできる。でも、実際のところはマイク・レドモンド監督は彼をできるだけアクティブにし続けるだろうし、彼にアクティブにするとも(直接)説明している。彼らの示した熱意というのは単なる4番目の外野手ではなく、すごく特別な4番目の外野手に示したもの。そして、その外野手は打席数を熱望していることをチームは理解している」

 “第4の外野手”という言葉の響きは、決していいものではない。だが、多くの人が思っているよりも、イチローが実際に打席に立つ回数は多くなりそうだ。もちろん、メジャー最強とも評価される平均年齢24歳の外野トリオの誰かが不振に陥ったり、怪我などのアクシデントに見舞われる可能性もあるだろう。

「我々はイチローマーリンズのユニホームを着てくれるという夢が現実になるなんて思ってもいなかった。彼を加えることで、最も層が厚く、最もクリエイティブで、最も才能に溢れたロースターができると考えた。究極的に嬉しいよ。彼ほどのクオリティの選手が獲得可能で、代理人とはコンタクトを取り続けた。実現できて嬉しい」

 ヒル氏は改めて今回の補強について満足げに語った後で、イチローを加えたチームの目標を明確に掲げた。

「ワールドシリーズを再び制覇する時がやってきたと思っているんだ」

 すべてが順調に行けば、マーリンズイチローにとって理想的な環境となりそうだが、果たしてどうなるだろうか。