戸次重幸とミムラ。見栄っ張りの男と不思議ちゃん夫婦を演じる。

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【連続企画】 岡田惠和×堤幸彦「スタンド・バイ・ユー〜家庭内再婚〜」とは何か?
2015年1月、新春早々、幕を明ける「スタンド・バイ・ユー」は、「最後から二番目の恋」などで人気の脚本家・岡田惠和と「SPEC」「トリック」などで人気の演出家・堤幸彦の豪華な組み合わせの演劇。
「家庭内再婚」という結婚生活への新しい提言をする意欲作の全貌に、出演者のひとり・戸次重幸の稽古の実感から迫ります!

2組の夫婦に迫る離婚の危機と再生を描く「スタンド・バイ・ユー」で、戸次重幸が演じるのは、見栄っ張りの夫・藤沢英明。ちょっと変わり者の妻・ハルカ(ミムラ)に不満を抱えていたところ、元カノ・愛子(真飛聖)と再会して、焼け木杭に火がついてしまう。
それが、ハルカと、愛子の夫・誠治(勝村政信)にバレて大騒ぎ。そんな場面の稽古で、エネルギッシュに稽古場中を飛び回り、声を張り上げ続ける戸次。40歳を超えた今、アンチエイジングの必要性について語ってくれた。
前編はコチラ

──映像系の岡田惠和さんと堤幸彦監督とによる舞台とはどんなものになるのか想像できませんでしたが、戸次さんのお話で少しわかってきました。いろいろ趣向が凝らされた舞台のようですね。
戸次「あと、生演奏もあるんですよ。ピアノとクラリネットの。これがまたすごいんです。舞台は生なので、日によって台詞のテンポが違ったり、動きが違ったりするじゃないですか。例えば、ある台詞を昨日は右を見て言っていたけれど、今日は左を向いて言っているなんてことがありますよね。そんな状況で、ピアノ演奏の荻野清子さんは、役者の芝居を見ながら『ここだ!』ってところで音楽を入れてくるんですよ。『アジャパー』っていう台詞があるんですけど(笑)、それを荻野さんは『戸次さんはどのタイミングで言います?』って聴かれたんです。『アジャパー』の前に間を作るか、間髪入れずに『アジャパー』を言うかどっちですか?と。僕としては、まだ芝居が固まっていないので、ちょっとわからないですと言ってしまったのですが、荻野さんにしてみたら大問題なんですよね。僕が間尺をとる、とらないで、そのシーンの音楽の入り方が変わってくるから。音楽によってお客さんの印象も変わってくるでしょう。そうなると、ある意味、サブ演出みたいなものです、荻野さんが。舞台に立てば芝居は役者のものってよく言われるじゃないですか。でも、荻野さんがいる限り、役者は演出されている感じがします。演奏の仕方で、影響されるんですよ、芝居が。『そうだな、町田、諦めろ』っていう台詞があって、ピアノが入る前は「そうだな、町田、諦めろ」(テンポ早く)と言っていたのですが、荻野さんがずいぶんメロウな曲をゆっくりしたタッチで弾くので、芝居も変わりました。『そうだな、町田、諦めろ』(ゆったり溜めた感じ)というふうに(笑)。とても面白い経験ですね」
──それこそ、前編で話していらした、演出が自分じゃないと意外な面白さが出る、ということに近い気がします。では、今回、いつも戸次さんを見てる人にも新たな戸次さんを見ることができますか?
「見せられるといいと思っていますけどね。僕の2015年の目標は“現状維持”なんですけど、これは、前向きな言葉なんですよ」
──安定志向じゃなくて?
戸次「すごい前向きです。役者の世界とは、去年と同じことをしていたら、去年ほどのお仕事が頂けない世界なので、現状維持するためには去年より頑張らないといけないんです。今までやったことのないことに挑戦してみるなど、成長という変化がないと現状意地すらできない。でも、どんどん年を取っていくんですよ。僕も40歳過ぎて、どんどん老化してきているにも関わらず(笑)、現状維持しないといけない。ということは、頑張るしかないんですよ」
──落ちていくけど、落とさないってことですね。
戸次「女性の皺と同じですよ」
──アンチエイジングですね。
戸次「アンチエイジングですよ。女性も、若い時より頑張らないと、若い時の美しさを維持できないでしょう。それとまったく一緒なところがあると思います」
──いいお話ですが、なんでそんな話になったのでしょうか(笑)。
「なんかね、気になるんですよ。昔動けたものが動けなくなるっていうのがね」
──まだ早すぎませんか(笑)。
「いや、ほんとそうですよ。ほんとそうです。この間、サッカーのPK──止まっているボールを蹴っただけで肉離れを起したんですよ。若い頃だったらありえないじゃないですか。止まってるボールを蹴ってですよ。それで肉離れになるほど、体はどんどん衰えていくんですよ! 今回共演する勝村政信さんともその話をして、『自転車で今、稽古場に通われているそうですが、やっぱり、体作りのためですか?』と訊いたところ、『僕もサッカーをやってるけれど、昔はしないことをやっていかないと体力の維持すらできないから』と勝村さんもおっしゃっていて、『そうっすよねえ』って(笑)」
──今回、おふたりとも出ずっぱりですごく動きまわるからですね。稽古を見ていておふたりともエネルギッシュな感じがしましたよ。
戸次「それもね、昔だったら難なくできたことを、今は、昔よりもがんばってやっているんですよ(笑)」
──白鳥が水面下でばたばたしているけど、見た目は優雅みたいな。
戸次「そうです。スネ夫でないといけないですから」
──スネ夫?
戸次「影で勉強して、人には『全然勉強してないよ』って言うのが、僕の中のスネ夫のイメージなんです(笑)」
──俳優とは、みんなスネ夫であると(笑)。
戸次「『がんばってます』とか『こういうことをしています』と言って、結果できてなかったらかっこ悪いじゃないですか。だから、がんばってると言わないほうが楽なんです。まあ、今、おれ、言っちゃってますけどね(笑)」
──できないとは言わない。がんばってるとは言わない。ものすごいかっこいですね。
「いやあ、どうなんでしょうねえ・・・(苦笑)」
──戸次さんは体を鍛えていらっしゃるから、余計に、体に対して敏感なのでしょうね。
戸次「如実にわかります、新陳代謝衰えているなあって」
──舞台だとよけいにわかっちゃいますからね。気をつけて見たいと思います。
戸次「すごいプレッシャーになりましたね、それ(笑)」
──さて「家庭内再婚」という言葉をどう思いますか?
戸次「『家庭内離婚』でなく『家庭内再婚』であるということに、お客さんには期待してほしい要素ですね。つまり『家庭内再婚』っていうことは今、離婚状態ってことですよね。そこからどう再婚していくのか、非常に前向きというか希望いっぱいのお芝居になっているというふうに予測してほしいですね。誤解をおそれずに言うなら、結婚して10年くらい経てば、家庭内離婚しているご夫婦は多いと思うんですよ。もう恋人ではないし、今さらドキドキすることはないだろうから。つきあった当初は、相手の前でおならなんてしなかったのが、10年も経てば、おならもするようになるでしょう。ま、それはいいことだと思いますが。悪い意味で空気になってしまうことがあると思うんですね。なんて、わからないですよ、僕は未婚なんで(笑)。そういった人たちがもう一度、相手を見つめ直すきっかけになるようなお芝居になっていると思います。相手のダメなことばかりを羅列するのではなくて、いいところをみつけていこうと思わせる、非常に愛と希望にあふれたお芝居ですので、ぜひ、みなさん、ご覧ください。既婚者も未婚者も、女性側の立場からも男性側の立場からも、つまり老若男女が楽しめる作品、それが『スタンド・バイ・ユー』でございます。ええ、絶対に損はさせません!」

(木俣冬)