今日も重なってます。

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先日、「熱川バナナワニ園にレッサーパンダが多い理由」について書いたが、もう一つ驚くのは、ワニがどいつもこいつもただただ重なり合って寝ていること。
正確に言うと、寝ているのか起きているのかわからないが、口をパカーッとあけたまま、ともすれば巨大な石のオブジェじゃないかと思うほど微動だにしないのだ。

あまりに平和すぎる光景だが、ワニって、もともとこんなにも動きがないものなのだろうか。
熱川バナナワニ園・広報担当の木田裕巳さんに聞いたところ、衝撃的なお話があった。

「ワニは4月から遅い個体の場合は8月に卵を生み落し、70〜80日前後に生まれるものが多いんですが、生まれてから展示までは2〜3年くらいを要します。なぜかというと、生まれたばかりの頃はワニの生来もった性格で、人間がそばによると口をカッと開けて威嚇したり、攻撃を仕掛けてくるからです」

あんなにもボケーッとしているワニたちが、生まれたばかりの頃には攻撃性があるなんて思えない! 
「自然界にいると、外敵がいないときはあんな感じかもしれませんが、人間を見るとワニが恐怖やストレスを感じます。すると、柵にぶつかるなど自傷行為を行ったり、後ずさりしたり、飛びかかったりするんです」

ワニは卵から孵化したばかりの頃は、15センチ〜30センチ程度。最初は飼育員に襲いかかろうとするが、次第に「ご飯をくれる」「寝床を掃除してくれる」「僕らワニたちより強い」などとわかってくると、威嚇攻撃などが収まるそう。
「さらに、慣れてきて、人間が自分に危害も加えない、でも、エサもくれないってことがわかると、あんな感じに入園した人間がそばを通っても我関せずといった態度に見えるんです」

ちなみに、口をパカーッとあけているのは、ずいぶん呑気にアクビでもしているように見えるが、体温調節のため。ワニは変温動物で14℃〜33℃でしか生きられず、体表を堅い凹凸のある角質の鱗板(りんばん)に覆われていて、体温調整しにくいことから、体温が高いと感じると口をあけて熱を放出するのだそうだ。もちろん、水の中(水温26〜28℃)に入って調整する場合も一つの手段であるとのこと。

「他にワニの特徴と言えば、テリトリー意識が強いことです。たとえば、同じくらいの大きさ、同じ種類のワニを、従来ワニが飼育されている飼育スペースに何の対策も取らずにただ直接入れると、先住者に攻撃されてしまいます。混在させる必要が生じた場合は、可能な限り、新たに同居するワニをケージに入れ、先住者の飼育スペースの中にそのケージを置いて、半年くらい『お見合い』させます。そして、『見たことのある顔』として認識させた後に、ケージの扉を開放して初めて混在の状態となるんですが、それでも小さな争いごとはあるんですよ」

では、重なり合っているのはなぜ?
「重なり合っているのは、ボス以外ですね。ボスとその他には主従関係があり、ボスに重なって寝るなどの態度をとれるのは、奥さんだけです。重なり合うもの同士から外れているのは、強すぎるか、弱すぎるかのどちらか。たいていエサをもらえる場所の近くで単独でひなたぼっこしているのがボスです。またボスから重なり合おうとすると、下になったワニたちはその状態から早く逃れようともします」

現在、熱川バナナワニ園で飼育しているワニは、17種140頭。寿命は、自然界だと30年くらいだが、人間の手のもとで飼育されると、70年くらい、人間にすると100歳くらいまで生きるものがあるそうだ。

単にボーッとしているように見えて、実はデリケートで、約3年もの「研修期間」を経て人間にお披露目されているワニたち。そう思うと、なんだか愛おしくなってきます。
(田幸和歌子)