若手歌舞伎役者、坂東巳之助・坂東新悟のブログのイラストがちょっと変だ

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映画『清須会議』(三谷幸喜監督)への出演をはじめ、活躍の場を広げている坂東巳之助さんと、渋谷・コクーン歌舞伎 第十四弾『三人吉三』で十三郎役を好演した坂東新悟さん。大注目の若手歌舞伎役者の2人は、歌舞伎の新しい世界観を伝えるイベント「歌舞伎いまじナイト」を7月15日に開催。難しいイメージのある歌舞伎だが、お二人のブログに書かれている文章の内容やイラストが変わっているということで一部ファンの間で話題となっている。せっかくなので、謎の多い若手歌舞伎役者の生活などについて伺ってきた。

▲坂東巳之助さん(左)、坂東新悟さん

──歌舞伎役者というのは、どのような日常を過ごされていますか?
坂東巳之助さん(以後、巳之助さん)「休日に限っていうと、寝ていますね。お昼の12時くらいから、そろそろ起きないと1日に申し訳ないなあと思いつつも二度寝、三度寝して、最終的に起きるのは午後の1時半くらい」
坂東新悟さん(以後、新悟さん)「まったく一緒です……あれ? ちょっと待ってください。これだと“歌舞伎役者はぐうたら”って思われてしまいませんかね(笑)」
巳之助さん「我々だけはということで(笑)」

歌舞伎の舞台では、夫婦や恋人カップルを演じることもあるという巳之助さんと新悟さん。プライベートでも仲がいいという2人は息がぴったりで、取材はお二人の軽妙な掛け合いでスタートした。歌舞伎役者の日常は稽古が忙しく、十分な睡眠がとれていないのだろうか?
巳之助さん「全然。前日に夜の12時とかに寝ていても起きないですよ」
新悟さん「巳之助さんは、10時間以上寝てきた後でも、楽屋で『すごく眠い』って言っています。僕は単純に夜更かしなんですけど……」
巳之助さん「やっぱ、寝ているうちに体力を使っているんでしょうね。休むために眠るんだけど、眠ることで疲れてさらに眠っちゃう……。そう考えると永遠に眠れるな」
新悟さん「すると、しまいには何になっちゃうんですか?」
巳之助さん「即身仏(笑)」

──休みはどれくらいありますか?
巳之助さん「歌舞伎の興行は基本、25日間。そういう意味では、休みをもらうときは、25日間連続して休みですね。その期間は完全に休みというわけではなく、雑誌などの取材のお仕事を受けたりとか、お稽古だったりとかがありますが、まあ、ほぼ1カ月ぶっとおしで飛び石連休という感じですね」
新悟「とはいえ、12カ月の中、だいたい10カ月は舞台に出ています。1年中でずっぱりということもありますよ」

一般的な社会人とは異なり、連休になることが多いようだ。我々の大型連休時のように、海外などの旅行へ行くことも多いのだろうか?
──まとまった休みのときは、旅行とかに行くんですか?
巳之助さん「僕は、全然行かないんですよね。新悟ちゃんはどう?」
新悟さん「僕も行かないですね。まだ若手なのでお稽古事がいっぱいあるので、結局はなかなかその時間はとれないですね」
巳之助さん「確かに。まあ行こうと思えば、2泊3日くらいの旅行なら行けるんだけど、僕が休みでも、歌舞伎界の友達が休みかといったらそうではないことの方が多いし、プライベートでいうと、いかんせん友達が少ないもんでね……」
新悟さん「プライベートの友達は基本的に土日しか休みがないので、休みが合わないですよね」
巳之助さん「今24歳なのですが、 この年になると同世代の友達は就職してバラバラの仕事についていて、時間が合わないので、たまに予定合わせてご飯を食べに行くぐらい。結果的に1人休みになってしまっちゃうんですよね。でも、新悟ちゃんは普段は地元の友達とファミレスで遊んでいるんでしょ? で、ファミレスで集まって何してんだっけ?」
新悟さん「トランプとか……」
巳之助さん「ほんと、この子の友達とかって1回もあったことないんだけど、話を聞いているとどうも、いつまでたっても中学生みたいな遊びをしているんですよね(笑)」
新悟さん「あと、ゲームボーイアドバンスをみんなで……」
巳之助さん「3DSじゃないの? ゲームをやっているという行為だけじゃなくて、何でゲーム機自体も中学生で止まっているんだよ!」

──歌舞伎役者というお仕事は、体力的にもきついと思うのですが、休みの日に体作りとかはしているんですか?
新悟さん「僕は最近、ジムに行っています」
巳之助さん「え、なに? どうしたの? これ以上痩せようっていうの? 棒になっちゃうよ」
新悟さん「踊りとかやっていて、この体ではこの先厳しくなるだろうから、ちょっと鍛えなきゃいけないなと。暇のときこれまでだったら寝ていたところをジムに行くようになりましたね」
巳之助さん「僕はしないですね。稽古をきちんとやっていれば体は自然と作られると思っています。まとまった休みの後半に、感覚を取り戻すという意味で稽古したりはしますけど……」
新悟さん「きっとそれが正しいのでしょうね」

●お二人は最近、歌舞伎役者らしからぬ(?)内容のブログでも話題を集めつつある。
──ブログで巳之助さんの絵を見ましたが、いろいろな意味ですごいですね。

新悟さん「落書き帳みたいなのを見せてもらったんですけど、まじですごい!と思うのと同時に、全部見終わったときには、病院に連れていったほうがいいのかもと(笑)」
巳之助さん「自信作は『草原で遊ぶ草』かな」
新悟さん「あと、名前で顔を描くやつもすごい」
巳之助さん「へのへのもへじ的なやつで、中村梅枝さんはすぐに描けるよ。ほら、ば・い・し」

新悟さん「よくできてる! さっきのと違って(笑)」

●新悟さんの絵もすごい。

巳之助さん「この絵は、色々な意味ですごい(笑)」

(この後、お二人が、お互いの似顔絵を描くことに)
新悟さん「巳之助さんは、才能に裏付けされた変わった絵なんだけど、僕のはどうしようもなくて」

互いの顔を確認しながら、描く2人。あっという間に、巳之助さんによる新悟さんの似顔絵が完成した。棒のような線の体がついた似顔絵(笑)

巳之助さん「はい。このへん濃いですよ」
新悟さん「そんなんじゃないです(笑)」

巳之助さん「(新悟さんの絵を見て)ひどいな(笑)。うそだろ」
新悟さん「怒らないでくださいね。悪気があるわけではなく、ただヘタなだけですから…」
巳之助さん「これもうオレじゃなくて、マガジンで連載してた『もう、しませんから!』のキャラじゃん!」

──お互いの絵の感想は?
巳之助さん「ごいすー、どいひー」
新悟さん「いや、本当にあの……自分の絵がひどすぎて……もうあの……巳之助さんを参考にさせていただき、これからがんばって絵を上達させたいと思います」

まるでボケとツッコミがころころと入れ替わる漫才を見ているかのよう。こうしてインタビューをしていると、歌舞伎役者ということを忘れてしまいそうになる。

●最後は歌舞伎役者としての顔に

とはいえ、これはお二人の一面に過ぎない。歌舞伎への向き合い方は真摯である。
──歌舞伎役者にとって必要な要素を3つあげるとしたら何ですか?
新悟さん「努力、友情、勝利……」
巳之助さん「集英社かよ! 何だろうな、でも努力は間違いないよね」
新悟さん「真面目な話、“人の話を聞く耳”ですかね。先輩役者さんなどいろいろな方からいただいた言葉を、きちんと自分のものにしていく」
巳之助さん「それはそうだね。あと、自分のことを好きじゃないとダメですね。役者という仕事は、ある時は自分をかっこよく、またある時はかわいく、気持ち悪くなど役に合わせてお客様に見せる必要がある。そのためには、自分と向き合うことが必須になります。自分と向きあうってことは、究極的には『好き』か『嫌い』か。自分を好きであることで、うまく演じ分けることができると思います」
新悟さん「そうですね。言い換えると、自分を把握するってことですね」
巳之助さん「最後は、歌舞伎や役者の仕事が好きでいること。歌舞伎という文化や先輩方への尊敬とか畏敬の念とは別に、単純に好き、楽しいって思えることですかね」

──最後に、「歌舞伎は難しい」という印象がありますが?
巳之助さん「意外と簡単だよ! と言いたいけど、言えないところもあります」
新悟さん「ものによります。歌舞伎って一口にいっても、いろいろな作品があります。そこが歌舞伎のおもしろさ。もう数百年やってきて、その時代その時代で評判をとったものが現代にも残っているわけです。いわば傑作選。それが歌舞伎です」
巳之助さん「新作もありますが、繰り返し上演されているが多いです。これは、常日頃思っていることなんだけど、全然一曲も知らない人のワンマンライブにいきなりいかないですよね? 行っても踊れないし、ノれないし、楽しくない。それと一緒で、歌舞伎は、何となくでいいので事前にストーリーを把握しておくだけで楽しめると思います。歌舞伎にはストーリーのおもしろさだけではなく、ビジュアル面や役者の個性、歌舞伎特有の演出技法など、たくさんの魅力があります」

──「役者の個性」という面でいうと、お二人のブログを見ておくと、出演されている歌舞伎がより楽しめるということですね?
巳之助さん「それだと、楽しみ方のベクトルが変わってきちゃうから(笑)。我々のブログは異質なので……」
新悟さん「歌舞伎の内容はまったくないですから(笑)」

常に楽しませることを忘れず、ざっくばらんにインタビューに答えてくれた。これまで歌舞伎役者には、世俗から一歩離れたところにいる人という印象を勝手に抱いていたが見事に覆された。考えてみれば、歌舞伎は僕らと同じ人間が創り、演じ、それを楽しんできたもの。楽しめないわけがない。「歌舞伎が見たい!」という想いが自然とわいてきた。
(取材・文/稲垣章 撮影/今井健太)

●坂東巳之助さんのブログ「日々是Show人」
●坂東新悟さんのブログ「坂東新悟のしんごろく」
●坂東巳之助・坂東新悟の「歌舞伎いまじナイト」
7月15日(火曜) 東京カルチャーカルチャー(お台場)
18時開場、19時開演(〜21時終演予定)