また、急激に悪化すると「急性尿閉(尿がほとんど出なくなる状態)」に陥り、「腎機能障害」を発生する危険性が高くなる。
 「前立腺がんと前立腺肥大症の症状が似かよっているのは事実です。しかし、前立腺がんは前立腺の外側に位置する外腺に発症しやすく、一方の前立腺肥大症は尿道を取り巻く内腺に多く発症します。どちらも腫瘍には変わりありませんが、決定的な違いは、肥大症は良性の腫瘍なのに対し、前立腺がんは悪性の腫瘍ということ。この違いは、他の部位に転移するかしないかで判断することになります。従って、肥大症は頻尿や排尿障害などの症状が起こりますが、放っておいても生命の危機に陥ることはありませんが、前立腺がんは周囲の骨盤や脊椎、リンパ節に転移するので放っておくと死に至ります」(前出・内浦医博)

 一般に悪性腫瘍のことをがんと呼ぶが、種類は様々。前立腺がんも同様で、日本ではWHO(世界保健機構)が提唱しているがん細胞の増え方や悪性度で分類し、次の三つに分けている。
 (1)高分化型腺がん=正常よりもやや小さい腺管が規則的に並んでいるもので、正常な前立腺細胞がんに近いがんのため、悪性度は軽度。
 (2)中分化型腺がん=腺管の配置が不規則で、一部に腺管融合が見られるがん。悪性度は中程度。
 (3)低分化型腺がん=腺管がほとんど確認できないほど、がん細胞がびっしり詰まった状態で、悪性度は最も高い。

 以上のような前立腺がん、あるいは前立腺肥大症などの病気から、我々はどうしたら身を守ることができるか。
 東京多摩総合医療センターの総合内科担当医はこう語る。
 「原因は未解明な部分がありますが、肉や乳製品など欧米風の食生活をする人に罹患者が多いようです。高脂肪の食事はリスクが高く、特に乳製品の摂り過ぎは前立腺がんや卵巣がんのリスクが高いといわれます。また、若年例では家族性の前立腺がんが存在し、血縁に前立腺がんがある場合、罹患率が上がることが知られています。もう一つは、驚かれるかもしれませんが、サドル(自転車やオートバイ、乗馬などの腰を乗せる台)が前立腺を刺激するため、乗馬、自転車に乗る人に患者が多いということです。予防のためには、60歳を過ぎたら人間ドックなどでPSAという血液検査を受けることをお勧めします。食生活は減塩し肉などを減らし、新鮮な野菜、果物、トマトなどの緑黄色野菜を食べるようにしましょう」

 また、別な医療関係者は、前立腺がんになりやすいタイプの人として、次の点を指摘している。
 「セックスやオナニーも予防効果があるとされていますが、逆に射精する機会が少ない男性は注意が必要です。ただ、手術や薬物治療を行うと射精障害が発生することも知っておきたい。外科手術では4〜8割の確率で起き、主に精液が膀胱に逆流する“逆行性射精”と呼ばれ、不妊の原因になるともいわれます。ただ、尿と一緒に排出されるので健康には支障ありません。日常生活と性生活の質をはかりにかけて折り合っていくことが大事です」

 ともあれ、前立腺の病気を甘くみることはできない。