運賃箱は気づかぬうちに進化している。写真はレシップの薄型運賃箱

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「チャリン、チャリン」という小銭を入れたときの音が好きだったバスの運賃箱。昔からあるおなじみの機械だが、気づかないうちにいろいろ変化しているようだ。そこで、運賃箱を作っている会社、レシップにその変化と背景を聞いてみることにした。

まず、誰でも気づくのは「ICカード」に対応したこと。電車の改札機がもうとっくに対応しているので、バスにそれがあること自体なんの不思議もない。自然な時代の流れである。惜しむらくは、「チャリン」という音がそのぶんあまり聴かれなくなったこと。本当に残念だ……。

「1990年代には磁気カードが普及していましたが、徐々にICカードへと代替が進み、それに伴って、ICカードを処理できる運賃箱も増加しました。2013年3月には、交通系ICカードの全国相互利用サービスが始まり、ICカードの普及による乗客の利便性はいっそう高まっています」

そう、確かに便利なので、乗る前に小銭があるか確かめなくてもよくなって……。それでも、たまにこだわりであえて小銭で払うこともしたりする今日このごろではあるが。

もうひとつ、意外に気づかないのが「薄型化」だ。言われてみれば運賃箱ってかなりゴツイものという印象だったが、いつの間にかすっかりスリムになっている。これはどうして?

「バリアフリーの対応として、乗客の通路幅を広く確保するためです。車椅子の方やベビーカーを利用する方が乗り降りしやすいように配慮し、運賃箱の幅ができる限り薄くなるように設計しています」

そうだったのか! ノンステップバスの普及と並行するかのように、運賃箱も人にやさしくなっているわけ。さすがサービス大国、日本である。こんな気づきにくいところで、利便性を図っているとは。

さらに、利用しているだけでは絶対気づかないであろう変化がある。それは「紙幣循環機能」の搭載だ。
「釣り銭切れを防止するための機能です。例えば、1万円を両替するとき、釣り銭用の1000円札を排出しますが、そのストックがなくなると、釣り銭切れが発生していました。そこで、紙幣循環機能を搭載することで、両替に使用された1000円札を運賃箱内で循環して再利用させることができ、釣り銭切れの抑制につながっているのです」

おお、これは賢い。運転手さんが財布からお札を出す手間が軽減されるわけ。千円札で払うのって今まで遠慮していたが、かえってつり銭切れ抑止に貢献しているともいえるわけだ。運賃箱って本当によく工夫されている。感心、感心。

「運賃箱は、全国のバスすべてに同じものが搭載されているわけではなく、バス事業者ごとに異なっています。観光客が多い、通勤客が多いといったそれぞれの地域に適した機能を搭載し、乗務員が使用しやすいようカスタマイズしています」

みなさんの地元のバス、観光先のバスなどで運賃箱、ちょっとチェックしてみたら何かおもしろい発見があるかもしれない。
(羽石竜示)