鹿児島水産・沖園 恵太投手

「空気」を感じる力・奄美

 奄美は1点を争う緊迫した投手戦をものにして1986年秋以来28年ぶりのベスト8入りを果たした。

 4回、二死二塁から6番・吉永 貴大(3年)がライト前タイムリーを放って先制。その後も再三好機は作ったが、相手の好投手・沖園 恵太(2年)の前にあと一本が出ず、追加点が奪えなかった。先発の林 健斗(2年)は制球が安定し、緩急をうまく使って7回二死まで無安打投球。三塁を踏ませなかった。野手も初戦から3試合連続無失策で林を援護した。

 9回裏一死、スコアは1対0。勝ちを意識したのか、好投を続けていたエース林が四球を出した。マウンドに野手が集まる。 「ホテルに帰ったら何して遊ぶ?」 捕手の田代 竜己(3年)が野球とは関係ない話をした。 「あれでリラックスできました」と林。残る2人の打者をライトフライに打ち取り、目標に掲げたベスト8を最高のかたちで勝ち取った。

 「『空気を感じる力』を持ちなさいと言い続けてきました」 前園 昌一郎監督は言う。今がどういう場面なのか、自分の仕事は何か…グラウンドに流れる空気を感じて、自分の判断で動くことを選手に求めてきた。 9回の場面、マウンドに選手が集まったのは、監督が伝令を送ったのではなく、野手が自分たちの判断で自然と集まってできたものだった。緊迫した展開の中で、選手がそれをやってのけたことに、前園監督は成長を感じた。

奄美・林 健斗投手

 エース林の力投は見事の一言に尽きる。直球が低めに決まって、変化球でストライクが取れた分、相手打者に狙いを絞らせなかった。 センバツ出場の大島・白井 翔吾捕手(2年)とは朝日中時代にバッテリーを組んだ仲。大会中にメールのやり取りをしながら「NHK旗で再戦しよう」と誓い合った。ライバル大高と戦うためにも「この試合を落とすわけにはいかない」強い気持ちが心を支えた。

 何より「守備がよく守ってくれた」と林は感謝する。 雨上がりのぬかるんだグラウンド、読みにくい強風…ミスが出てもおかしくない展開の中で、誰1人ミスすることなく、守備の集中が最後まで切れなかった。 「初戦、2戦目はコールドで勝ったけど、油断しないことだけはずっと言い続けていました」。 四本 凌主将(3年)は胸を張った。

 この日は異動になった木元秀樹部長、大友隆太副部長がベンチに入れる最後の試合だった。「勝って2人を送り出そう」(前園監督)の気持ちも厳しい試合を戦い抜くバネになった。木元部長は、

「落ち着いてプレーができていた。心がぶれなくなった」と、たくましく成長した部員たちを誇らしげにたたえていた。

(文=政 純一郎)