ブラジルW杯まで197日
『ザックジャパンの完成度』
連載◆第26回:本田圭佑

 11月の欧州遠征では、世界トップレベルのオランダとベルギーと対戦した日本代表。オランダ戦を2−2で引き分けて、ベルギー戦を3−2で勝利したあと、本田圭佑は、今回の遠征についてこう総括した。

「結果もうれしいですけど、内容も悪くなかった。2試合とも自分たちのサッカーがやれたというか、いいところがいくつか出た。それが、次につながる収穫だったと思います」

 そして、こう続けた。

「ただ、課題が残ったので、それを無視することはできない。何が良かったのか、何が悪かったのか、これから冷静に分析したいと思います」

 オランダ戦では相手に2点のリードを許しながらもドローで終え、ベルギー戦は鮮やかな逆転勝ちを演じた。2戦を通して本田が感じた、いいところと悪いところ、そして課題とはいったい何だったのだろうか――。

 浮き彫りになった課題のひとつは、ディフェンス面だ。オランダ戦を終えたあと、本田はこう話していた。

「オランダ戦は、前半に1点返せたから良かったけど、2失点したときは(チームが)結構厳しい状況に陥った。W杯本番で2失点したら簡単には追いつけないと思うし、(日本は)だいたい大事な試合では先制されているイメ−ジがあるから、ここを乗り越えるようにならないと(W杯で上に行くのは)厳しいかなと思います」

 日本代表は、コンフェデレーションズカップ(6月)のブラジル戦から10月のベラルーシ戦まで8試合をこなして(欧州組が参加していない7月の東アジアカップは除く)、6試合で先制されている。その戦績は、1勝5敗である。ゆえに今回も、試合の立ち上がりは特に気を使って、相手に先に点を与えないよう、かなり意識していたはずだった。にもかかわらず、オランダ戦でも、安易なミスから先制点を献上してしまった。

 さらに、オランダ戦に続いてベルギー戦でも、GK川島永嗣の不用意な飛び出しと、DF酒井高徳の緩慢なカバーというミスが重なって失点。相手に先制点を与えてしまった。同じ失敗を繰り返した戦いぶりに、本田は「無視できない」と、ベルギー戦後にも改めて危機感を露わにしたのだろう。

「いいリズムの時間帯は、(10月の)セルビア戦(0−2)、ベラルーシ戦(0−1)のときもあったんです。でも、悪い時間帯のとき、相手のリズムになったときに簡単にやられてしまう。本当はそこで、いかに失点しないで我慢できるかどうか。それが重要。今回もそう。(オランダ戦の)2点目は、ロッベンのゴールでしたけど、その前のファンデルファールトが胸でトラップしてサイドチェンジした瞬間、やられる雰囲気がありましたからね。その、やられる雰囲気でやられるというのは、負けるチームなんです。負けるチームは、そういうものなんです」

 オランダ戦では、スカウティングでロッベンの得意な得点パターンを誰もが把握していた。それなのに、簡単にゴールを決められた。そういうところにも、本田は"チームの弱さ"を感じたのかもしれない。しかし、世界トップレベルの選手は、事前に映像で確認していたとしても、それをはるかに越えたプレイをしてくることがある。

「そこは(世界レベルに)慣れていくしかないんですよ。ただ、慣れたくても、Jリーグでプレイしている選手は普段からそういう選手たちと対峙しているわけではないので、それはイメージするしかない。ここで、オランダとベルギーとやって、そこで体感したことをJリーグに戻ってどう還元して、自分自身でどう意識づけしいくか。試合の中で、日本人の選手を止めているだけで普通に満足しちゃいけないと思うし、常に高い意識を持って、自分にプラスアルファーの課題を設けてステップアップしていくことが必要だと思います」

 一方、攻撃面についてはどう見ているのか。本田は一定の評価を与えながらも、自らのゴールをはじめ、チーム全体の攻撃に関して、満足した表情を見せることはなかった。

「高い位置からプレスがかかったときは、いい攻撃ができたかなと思います。オランダ戦の1点目(大迫勇也のゴール)は、入らない雰囲気のところで点が入った。サッカーはそういうものでもあるんで、だからオランダ戦は引き分けに持っていけたと思うんです。

 ただ今回、ショートカウンターとショートパスのつなぎから点がとれたけど、それだけだと(世界と戦うには)厳しくなってくる。(オランダ戦の)自分が決めた2点目で言えば、あれはたまたま(相手に)迫力のあるDFがいなかったから、2、3本(パスが)つながって、チャンスっぽくなった。でも、あそこでブラジルのダビド・ルイス(DF)やチアゴ・シウバ(DF)がいたら止めてくると思うんです。そこまでの素晴らしいパスワークを、完全に"無"にしてしまう感じで、個の力で止めてくる。『止めてしまえば、何の問題もないでしょう』という個人戦術がブラジルや強豪国にはある。(自分たちは)常にそういう相手をイメージして、(ボールを)つながないといけない。

(オランダ戦の)後半、自分らはイケイケになっていたけど、あれはヤットさん(遠藤保仁)が入って、短いパス、長いパスを使い分けることができるようになったから。(攻撃の幅が広がった)その点は良かったと思いますが、あとは個々の精度でしょうね。そこはもっと高めないといけない」

 オランダとベルギーという強豪相手に1勝1分けの勝ち点4。W杯本番を想定すれば、グループリーグ突破の確率はかなり高まったように見える。日本代表の今後を考えるうえで、その結果は本田にとってプラス要素ではなかったのだろうか。

「(今回の)ベルギー戦は、僕らは(オランダ戦から)中2日の試合で、相手は僕らよりも余裕がある状況だった。W杯でもこういうことはあるだろうし、(そうした日程になれば)自分たちの動きにも問題が出るかもしれない。そんな中、(ベルギー相手に)どれだけ臨機応変にやれるかが大事だった。アウェーの、あの緊張感の中で、2失点したという反省点はあるものの、3点目を許さないという、ギリギリの(勝つ)サッカーができたのは、いい経験になったと思います」

 それでも、本田の表情が晴れることはなかった。唯一、声が明るくなったのは、今回チャンスをもらって活躍した、大迫や山口螢らの名前が挙がったときだった。

「いいですね、みんな、能力が高いです。FWのレギュラー争いが激しくなってきましたし、当然ながら中盤もそうだし、僕にいたっても同様で、安泰なポジションはないと思っている。しっかり結果を出し続けた選手が試合に出られる。代表は、そういう存在であり続けられたらいいと思います」

 昨年10月の欧州遠征で、フランス(1−0)とブラジル(0−4)と戦ったあと、本田は「来年(2013年)は、さらに個を伸ばすこと」を強調していた。その一年が終わり、今回の2試合の結果を受けて、本田はブラジルW杯までに何をすべきだと考えているのだろうか。

「今回思ったのは、やはり"個"の重要性ですね。そこは揺るがない。試合をやっていて、毎回、そう思います。W杯まで、所属クラブに戻って、チームとして、個人として、それぞれの課題に取り組むというだけです。W杯では、日本は背負うものが何もないチャレンジャー。(各国に)なめられた状態で行くくらいがちょうどいいんですけど、(香川)真司や(長友)佑都がビッグクラブでやっているんでね、(日本の実力が)バレバレになっている。まあでも、(日本は)まだまだそんなに評価されていない。(W杯では)そうやってなめているやつらを、ひとりひとりぶっ潰していくだけです」

 もしかすると、チームも、個人も、本田が思い描いていたほどの成長は、この一年間では得られなかったかもしれない。だが、今年最後の欧州遠征では、チームがひとつになって、可能性を見出せる試合ができた。それは、本田の言う「W杯での勝算」を高めるうえで、貴重なサンプルになったはずである。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun