駒大苫小牧vs東海大四

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歓喜の駒大苫小牧ナイン

名勝負の先に涙と涙・・・

勝負の瞬間(とき)は延長12回裏。

一死から振り逃げで出した走者を二塁に送った駒大苫小牧。打席は左打者の7番安田 大将(1年)。マウンドには初回から投げ続けてきた東海大四エースの西嶋 亮太(2年)。

ストライク、ストライク、ファウル、ファウル、ボール、ファウルと6球を投じる。粘る安田と、どこを勝負球にするかを練る西嶋。7球目、西嶋はこの打席の安田に対して初めて決め球であるスライダーを選択した。もちろん、キャッチャー・上野純輝(2年)のサインに頷いてのものだった。しかしリリースの瞬間、「ちょっと甘く入ったかな」と感じたという。

安田はこの球にバットを出す。放たれた打球はフラフラとレフト線へ上がった。

レフトの大河内航(2年)が懸命に走るが、追いつけそうにない。「ファウルになってくれ」と願うフィールドの西嶋と東海大四ナイン。「切れないでくれ」と念じる安田と駒大苫小牧ベンチ。

打球は双方の願いを交錯しながら、勝負を分けるラインぎりぎりのフェアグラウンドにポトリと落ちた。二死でスタートを切っていた、走者の新山敬太(2年)がヘッドスライディングでホームを踏む。2時間24分の壮絶な耐え凌ぎ合いが終わった。

「素直にうれしいです。ベンチから、先輩達の思いが伝わってきた」とお立ち台に上がって涙で顔をくしゃくしゃにした安田。一方の西嶋は、「1球の怖さ」と応援団への挨拶後に泣き崩れた。

東海大四・西嶋亮太は涙に暮れる

ゲームは0対0の耐え合いの展開で、両チームとも連打が出なかった。特に西嶋は後半になるほど直球と変化球のキレが増し、駒大苫小牧は走者を出すことも容易ではなかった。6回二死から11回途中まで15人連続で打ち取られている。

11回裏二死から、2番伊藤 優希(2年)がヒットを放ち、盗塁を決めて久々に得点圏に走者がいる状況になった。だが、西嶋の気持ちはぶれない。3番上西翔大(2年)を3ボールとしながら、見逃し三振に切った。誰もが、『今日の西嶋は打ち崩されない』と感じる気迫のこもったピッチング。

そんな中で、12回に振り逃げという形で新山が出塁した。次の6番釜谷泰葵(2年)は、一死ながら送りバント。打順が左打者の7番安田と8番田丸郷祐(2年)に巡る中で、佐々木孝介監督は、「ここが勝負」と走者を進める選択をした。

マウンドの西嶋は、「最悪、四球で8番(田丸)勝負になっても構わないから厳しく攻めろ」とベンチからの指示を受け、安田との勝負に挑んでいる。決め球であるスライダーを追いこんでも簡単に使わなかったのは、取っておきの時に使うためだ。

だが、ファウルを重ねる中で打席の安田は、「どこかでスライダーが必ず来る」と頭に入れていた。だからこそ、西嶋にとってとっておきの場面だった7球目のスライダーを見逃さず、バットに当てることができた。逆に連打を浴びる訳ではなく、振り逃げの走者から、たった1本のヒットに泣いた西嶋。しかもクリーンヒットではないという形で・・・打った安田、打たれた西嶋の双方が流した涙。意味は違うが、極限状態の勝負の先に流した涙という点では同じである。

そして、「ここまで勝ってきても、ここで負けてしまっては何の意味もない。必ず(円山で)リベンジをしたい」と最後に語った西嶋。「ここまできたら優勝」と誓った安田。

勝負後の涙の先に、再び分かれ道があるように感じる二人の姿があった。

(文=編集部)