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福島大学は9月18日、パーキンエルマージャパン、日本原子力研究開発機構(JAEA)、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の協力を得て、放射性物質の1つである原子番号38の質量数90の放射性同位体「ストロンチウム90(90Sr)」の新しい分析手法を開発したと発表した。

成果は、福島大の高貝慶隆 准教授、パーキンエルマージャパンの古川真氏、JAEAの亀尾裕氏、JAMSTECの鈴木勝彦氏らの共同研究チームによるもの。研究の詳細な内容は、9月14日付けでイギリス王立化学会の学術論文誌オンライン版に掲載された。

90Srは中性子数が52を数えるストロンチウムの放射性同位体で、半減期は約28.8年、ウランやプルトニウムなどの核分裂生成物として高レベルの放射性廃棄物に含まれ、福島第一原子力発電所の事故によりセシウム134(134Cs)、同137(137Cs)などと共に漏洩した放射性物質の1つだ。134Csの半減期が約2年であることから、30年強の半減期を持つ137Csと共に、その影響が懸念されている。

90Srはベータ線のみを出す放射性核種であるため、放射性セシウムなどのガンマ線を出す放射性核種と異なり、その分析には複雑な作業と2週間から1箇月におよぶ長時間にわたる化学処理および熟練の技術が必要なのが課題とされていた。

そこで研究チームは今回、分析機器の「高周波誘導結合プラズマ-質量分析装置(ICP-MS)」(画像1)を基軸として90Sr分析に特化した分析装置「カスケード濃縮分離内蔵型ICP-QMSシステム」(画像2)を開発したのである。

なお本来ICP-MSは、微量元素の測定を行う分析機器として環境分析や材料・半導体、地質学などの幅広い業界で使用されている精密分析機器の1つである。そのため、原発事故に伴う放射性物質の測定には分析感度が十分ではなく、またジルコニウム90やイットリウム90、酸化ゲルマニウムなど90Srと同じ重さ(質量数)の核種や化合物、つまり「同重体」を90Srと区別することができないという欠点があった。

それを、装置内の測定元素が通過する2箇所に、「オンライン濃縮分離機能」と「リアクション機能」のストロンチウム認識機能を備えることで、段階的にストロンチウムだけが集まるシステムを構築して解決したのである(画像3・4)。

測定に必要な装置稼働時間は約15分であり、土壌試料などの固体試料の分解操作を含めたすべての作業工程を含めても8検体で3時間(=1検体当たり約20分)と、これまでとは比較にならない短時間で作業を終えられるのが特徴だ。10mLの試料導入時における検出下限値(S/N=3)は、土壌濃度で約5Bq/kg(重量濃度換算:0.9pg/kg)、溶液濃度で約3Bq/L(0.5ppq)であった。迅速性で、現状のスクリーニング法としての利用が期待できるという。

また今回の分析法は、非密封放射性物質としての管理が必要な放射性ストロンチム標準溶液を使用することなく分析できるため、緊急時において一般の環境分析機関でも測定することが可能だ。さらに全自動で分析するため、試料分解液を注入後、化学処理で測定者が被ばくすることがないなどのメリットも有する。

ただし分析感度に関しては従来法の方が優れているため、低濃度レベルの分析に関しては今回の分析はあまり向かない。しかし今回の分析法は、すでに説明したように迅速性に優れており、用途によっては有効な手段となり得るとする。特に、多検体の試料を処理しなければならない福島第一原発の事故のような緊急時に対応することができるため、90Sr分析ツールの選択肢が増え、分析ニーズに応じた二者択一的に活用できることが考えられるという。

(デイビー日高)