延岡学園vs弘前学院聖愛
玉野光南、沖縄尚学を破った溌剌とした弘前学院聖愛の姿が見られなかった。
延岡学園の先発・奈須 怜斗(3年・右左・178/80)が溌剌とした野球をさせなかったと言ったほうがいい。1イニング目を見たときはこれほど好投するとは思わなかった。体を横に振ってスリークォーターから投げる投手にありがちな体の開き、さらに投げにいくときのステップの狭さがあり、ボールが高めに抜けてくる懸念があったからだ。ゲーム中盤にいつその抜け球が現れるか、実は意地悪く見ていたが、最後までその悪癖は見られなかった。
指先の感覚いいのか背筋が強いのか、低めストレートにベース近くでのひと伸びがあり、これを最初は外角中心、中盤以降は内角にもすばずば投げ込み、弘前学院聖愛に連打を許さなかった。
攻撃陣で注目したのはバントである。WBC(ワールドベースボールクラシック)のとき「バントは精神を委縮させる」、逆に「鼓舞するのが盗塁」と指摘したが、延岡学園の攻撃を見て精神を鼓舞するバントもあると考えさせられた。 具体的に言うと、延岡学園各打者がバントを敢行したときの一塁到達タイムが速い。
3回/松元 聖也→3.85秒 5回/奈須 怜斗→4.39秒 6回/奈須 怜斗→4.69秒 8回/梶原 翔斗→3.76秒 ※安打 松元 聖也→4.36秒
このレベルの一塁到達タイムで走られれば守るほうのプレッシャーは尋常ではない。このバントで象徴される走塁が延岡学園はすぐれていた。たとえば打者走者が安打を放ったとき、走塁間のスキを突いて二進するケースが目立った。
3回/左前打を放った梶原がホーム返球(二塁走者は三塁に止まったが)の間に二進 6回/中前打を放った坂元 亮伍がホーム返球の間に二進 8回には中前打を放った岩重 章仁が二進を狙って憤死する場面もあったが、気づいただけで2回ある。走塁で受けたプレッシャーが精神的な疲弊につながり、5、6回の4失点(合計8失点)につながったと私は思っている。
個人を見ると、プロ注目の岩重 章仁(3年・右翼手・右右・183/83がやはりよかった。5、8回にそれぞれ打点つきのタイムリーを放っているが、その特徴は高いグリップ位置からのダウンスイング。初戦の自由ケ丘戦で放った第4打席の三塁打が最も顕著な例で、上から出たバットがボールの下に入ることによって強烈な逆スピンがかかり、打球に伸びが加わるという理屈。この試合では第2打席のセンターフライにその特徴がよく現れていた。
弘前学院聖愛の4番成田 拓也(3年・中堅手・左左・177/78)もよかった。滞空の長い一本足でタイミングを取り、フルスイングの体勢が出来上がっているというのが最大の長所だ。5回には梶原の浅いフライをダッシュして好捕しているように守備もいい。
成田とクリーンアップを組む3番一戸 将(3年・投手→一塁手・左左・174/83)は投手で頑張った。青森大会でも2番目に投球回数が多かったように、“急造投手”ではない。ストレートは130キロ台中盤が多く、いわゆる本格派ではない。持ち味は変化球を交えた緩急の攻めで、とくによかったのが縦に割れるカーブとスライダー。これを右左に関係なく打者の内角に投じる攻撃性が際立った。0対1の5回無死二塁になった場面で主戦の小野 憲生(3年・右右・182/72)にマウンドを譲ったが、もう少し投げさせてもよかったのではないかと思う。
いろいろなところで書かれているが聖愛のベンチ入りメンバー18人の出身中学は全員、青森である(それも津軽地方出身がほとんど)。これまで八戸学院光星(旧光星学院)や青森山田が県外出身者を数多く入学させ、一部のマスコミや識者の眉をしかめさせてきたが、そういう逆風が弘前学院聖愛にはない。というより、圧倒的な県内の声援を受ける最大要因になっている。八戸学院光星、青森山田を交えた三つ巴がこれからの青森の呼び物になるかもしれない。
(文=小関 順二)