あまちゃん ぶらばん 〜公式版 吹奏楽「あまちゃん」曲集〜
作曲  大友良英 /編曲  菊池幸夫/ 監修 大友良英、江藤直子
指揮 下一史/ 演奏  東京佼成ウインドオーケストラ

ビクターエンターテインメントより発売中

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「あまちゃん」も8月3日土曜日で108回の煩悩超え。
18週(103〜108回)「おら、地元に帰ろう!?」はいろんな人たちの欲望渦巻く展開に じぇじぇじぇ でありましたし、「薄汚ねえシンデレラ」や「プロダクトA」、「樹液じゃねえ おれは人間だもの」から「悲しみが止まらない」がかかるところなどなどのギャグにも久々に爆笑しました。


第1のじぇじぇじぇ 春子(小泉今日子)VS鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)

 週明け月曜103回、いきなり、アキ(能年玲奈)のクビをめぐって、春子と鈴鹿が激しい舌戦を繰り広げました。15分間の放送時間のうち10分間にも及んだ春子と鈴鹿のやりとりは、「熱気がすごく」(水口談)「なんであんなにぎすぎす」(種市談)していて、四十路女の業の深さに震えおののくばかり。

飲むお酒の種類から闘いははじまっているのだってことを知りました。あと言葉尻を執拗に責めるのもこわいですね。

春子にしてみたら、鈴鹿には影武者という泥水飲まされてきたのだから、かたくなな気持ちになるのも無理はないですよね。でもどう考えても、自分は夢を果たせてないのに対して目の前の鈴鹿は有名女優。こんな明らかに歩の悪い状況でも一歩も引かない春子は頼もしい。女として、人として、見習いたいです。


第2のじぇじぇじぇ  鈴鹿ひろ美と夏(宮本信子)が似てる!?

103回で派手な口喧嘩を繰り広げられた春子と鈴鹿でしたが、火曜104回では「天野さんをクビにするなら私も(女優を)辞めます」と言い出します。
そして、アキと春子は鈴鹿のことを「夏ばっぱに似てる」と感じるのです。思いきりの良さみたいな部分に同じ精神を感じたのでしょう。
北三陸と東京とを相似関係にして、GMTの合宿所と漁業組合、勉さん(塩見三省)と水口(松田龍平)、ユイ(橋本愛)とアキなどを似た感じのものを増やすことで、地方と東京の差異を失くそうとしている感じがします。なんといっても「場所じゃなくて人」(BY春子)ですからね。

似てるといえば、ヤング春子の有村架純は、クドカン先生脚本のドラマ「マンハッタンラブストーリー」(03年)の小泉今日子(タクシー運転手で尾美としのりの同僚役)がオシャレしているときの顔になんだか似ているのです。メイクの感じが近いのかな。


第3のじぇじぇじぇ  天野家三人が団結!!! ひとりっ子万歳

最近、正宗(尾美としのり)好きには嬉しいエピソードが続いておりますが、土曜108回ではついに、社長・春子と所属タレント・アキと専属運転手・正宗で芸能事務所スリーJプロダクションという、宇多田ヒカルのU3ミュージックのもじりなのかと思わせる事務所を設立します。

親子3人の団結エピでは、その前の火曜104回で、ひとりっ子の団結を見せる場面が出色の出来でした。
「根っからひとりっ子だよねえ」と春子が正宗の性格をからかうと「君だってひとりっ子じゃないか」と正宗が反論、そこにアキも「おらもひとりっ子だべ」と加わり、「ここにはひとりっ子しかいない」と認識、「ひとりっ子どうしなかよくやるべ」と決意します。
それが土曜のスリーJプロダクション設立へとつながっていくのです。
三人が事務所設立するとき、手前に、アキが生まれたときの家族写真が映っているところもほんわかしました。

朝ドラには「ふたりっ子」もありました(96年、大石静脚本)が、「ひとりっ子」も重要な気がしています。
本田圭佑の「個」じゃないですけど、みんな「ひとり」。ひとりひとりの固有性を大事にするってことですよね。47都道府県の固有性ともつながります。


第4のじぇじぇじぇ  宿命の対決 春子VS太巻(古田新太)

「どうしてぼくの邪魔ばっかりするんだ君は」
「どこまで器が小さいの」
宿敵春子と太巻の対決は金曜107回。
ようやくデビューできるかと思ったGMTですが、デビュー曲「地元に帰ろう」の声が宇宙人みたいな機械音になっていて、ひとりひとりの個性が損なわれていたことに春子が激怒します。

商売に対するシビアな考えを、関西出身の俳優・古田新太が大阪弁でまくしたてるのは関西視聴率対策でしょうか。
ちなみに「地元に帰ろう」がいまのメロディに落ち着く前に、太巻がデスメタルバージョンを振り付けしながら考えていましたが、古田はもともとヘヴィメタ、ハードロック好き。太巻は最初は、ダンサーをやっていた設定ですが、趣味はヘヴィメタという設定もあるのかもしれないですね。


第5のじぇじぇじぇ 2010年の設定に2011年の曲がかかった?

火曜103回、上京してきた春子がアキたちのレッスンに立ち合う場面で、流れた唄は元気ロケッツの「Touch me」。これの初出が2011年の3月で、ドラマはまだ2010年の設定だったことから(元気ロケッツの水口哲也は自身のTwitter @Mizuguchitterで水口という登場人物のことや「Touch me」の初出について言及しています)、「あまちゃん」パラレルワールド説が濃厚になってきております。
ねじれ国会は終了しましたが「あまちゃん」の時空のねじれは止まりません。ヤング春子とアキの夢の邂逅でねじれた時空はいよいよ「ねらわれ」?「ねばられ」?「ねじられ」?「ねぎられ」?「ねだられ」?(6週より)ていくのでしょうか。

「Touch me」の映像は無限にどんどんつながっていくイメージ。これが「あまちゃん」のタイトルバックとリンクするような気もするんです。いろんなものが連なって続いていく感じが。線路は続くよどこまでも的な。
で、そのイメージは「あまちゃん」でいうと琥珀なんですよねえ。
土曜108回で勉さんが「おらが死んでも琥珀はおまえを待っている。8千500年前からおまえのこと待ってるぞ」と水口に言いますが、悠久の時間の中、いろんな物質を取り入れて大地の中で眠る化石。
「あまちゃん」に音楽、映画、ドラマ、笑い、演劇などなど様々なジャンルの要素が重層的に取入れられていることと同じなのです。
そして、その作品が、CDだったり写真集だったり、今までの朝ドラになかった新しい商品化にもつながっていく。ドラマってだいたいノベライズやガイドブックくらいしか関連商品は出ませんが、「あまちゃん」みたいにドラマから遊びがどんどん生まれていくドラマって豊かな作品だと思います。
関連商品が音楽もののほうが多くノベライズがないところが新鮮ですが、そもそもクドカン先生の脚本作品のノベライズは今まで作られていません。あってもシナリオ集だけなのです。
と、「あまちゃん」を新しいと持ち上げまくっていますが、前述の「ふたりっ子」ではヒロインの少女時代を演じた三倉茉奈佳奈が劇中歌「二千一夜のミュウ」のCDを出したり、登場人物演歌歌手・オーロラ輝子(河合美智子)が紅白に出場したりしているんですよね。そして、阪神淡路大震災のことも描いているのです。「あまちゃん」の今後を考える上で「ふたりっ子」が参考になりそうです。

そうそう、土曜108回で水口琢磨の昔、ベーシストだったというヒストリーが語られたとき、松田龍平が矢沢あいの人気漫画を原作にした実写映画「NANA」の一作目でベーシスト本城蓮を演じていたことを思い出しました(このキャラは最初ベース、のちにギターなんですけどね)。
「NANA」は同じ名前をもつ少女ふたりの恋とサクセス物語。アキとユイの関係とちょっと重なります。しかも音楽業界の話だし。
クドカン先生、このあたりまで研究しているとしたら彼の知識量は凄まじすぎます。

「ふつうにやってふつうに売れるもん作りなさいよ」という春子のセリフには全国のクリエーターたちの心に突き刺さりましたが、「あまちゃん」は「ふつうに作ったふつうに売れるもん」だろうか。面白いもの作りたくてひたむきにやっていたらふつうじゃないものが誕生したのでしょうね。
 
18週で好きだった場面は、アキが純喫茶アイドルのコースターをくるっと回すところ。地元で海女をやるというユイの話を聞いて、自分と親友の立場が逆転したと感じながらくるっと。このくるっとに深いものを感じてしまいました。これは演出の井上剛さんによるものでしょうか。

19週は「おらのハート、再点火」。女の子が大好きな恋とサクセスの恋部分が再びフィーチャーされちゃうようです。
GMT のレッスンのとき北の海女や海女カフェのTシャツを着ている地元意識の強いアキが好きなんだけども、これからアキはどうなるのか!(木俣冬)

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