自民党の石破茂幹事長が、「戦争に行かない人は、死刑にする」と発言――参院選も後半にさしかかる中、新聞の報道をきっかけに、こんな情報が飛び交い始めた。

徴兵逃れには死刑か懲役300年という話、本当に怖い。選挙でねじれがなくなったら一体どうなるのか?」
徴兵されて戦死したくない若者は選挙に行って自民党を潰すしかないよ」

などと、一部有権者は蜂の巣を突いたような騒ぎだ。実は、石破幹事長はそんな短絡的な発言はしていない。どうしてこんな話になったのか。

7年以下の懲役・禁錮では甘すぎると主張

発端となったのは、東京新聞の2013年7月15日付朝刊だ。

「石破自民幹事長もくろむ『軍法会議』」
「平和憲法に真っ向背反」

連載「こちら特報部」のコーナーへ、いかにも軍靴の音が聞こえそうなおどろおどろしい見出しとともに掲載されたのは、石破幹事長の顔写真だ。

記事は、テレビ番組「週刊BS-TBS編集部」で4月21日放映された石破幹事長のインタビューをいわば蒸し返す形で構成されている。石破幹事長はその中で、「国防軍に『審判所』という現行憲法では禁じられている軍法会議(軍事法廷)」の設置を強く主張、「死刑」「懲役300年」など不穏な単語を連発させたという。

実際に、問題のVTRを見てみよう。石破幹事長は自民党の代表者として、自民の改憲草案を、いつもの口調で解説していく。そして話題は「9条」にさしかかった。石破幹事長は憲法への自衛隊(国防軍)の明記を改めて強調した上で、改憲後の具体的な変更点として、「軍事裁判所的なもの」(自民草案では「審判所」)を設置すると解説する。

ここから、問題の箇所だ。まずは、現状について、自衛隊員が一般法によって裁かれていることに触れ、その罰則が甘すぎると主張する。

「今の自衛隊員の方々が、『私はそんな命令は聞きたくないのであります。私は今日を限りに自衛隊員を辞めるのであります』といわれたら、ああそうですか、という話になるのですよ。『私はそのような命令にはとてもではないが従えないのであります』といったら、目一杯行って懲役7年なんです(編注:自衛隊法の刑罰の上限は『7年以下の懲役・禁錮』)」

「死刑になるくらいなら出撃しようということに…」

続けて、「これは気をつけて物を言わなければいけないんだけど」と前置きし、

「人間ってやっぱり死にたくないし、ケガもしたくないし、『国家の独立を守るためだ! 出動せよ!』というときに、『でも行くと死ぬかもしれないし、行きたくないな』という人はいない、という保証はどこにもない」

と、自衛隊にもいざとなると「出撃拒否」が起こる可能性があると話す。そしてこうした事態を防ぎ、自衛隊の規律を維持するためには、軍法会議設置による命令違反への厳罰化が必要だと説く。

「だからそのときに、それに『従え! それに従わなければその国における最高刑である』――死刑がある国は死刑、無期懲役なら無期懲役、懲役300年なら300年(と決まっていれば)――『そんな目に遭うくらいだったらば、出動命令に従おう』という(ようになる)」

確かに石破幹事長は、軍事法廷の設置と、その最高刑として死刑もありうる、との見解を示している。ただし一部の人々が誤解しているように、これは「兵役拒否=死刑」という話ではない。すでに自衛隊(国防軍)に入った人のみが対象だ。

ちなみに石破幹事長は、2010年のブログで、自衛隊がいずれも「複雑かつ精密なコンピューターの塊のような装備・システムで運用されて」いることなどを理由に、「玉石混交」の人材を集める徴兵制にははっきり反対を明言している。

「敵前逃亡」は米陸軍では「最高で死刑」

また軍隊を持つ大半の諸外国では、なんらかの形で軍法会議を設置している国が大半で、罰として死刑など刑法上の最高刑を科している国は少なくない。

防衛省防衛研究所の奥平穣治氏が記すところによれば、たとえば「敵前逃亡」は米陸軍では「最高で死刑」、「命令拒否・不服従」や「部隊不法指揮」「秘密漏洩」なども戦時中は死刑の対象となりうる(ただし適用例は第二次大戦以来ない)。英、独など死刑制度が廃止されている国でも、石破幹事長の言うようにそれ相応の厳しい刑罰が設けられており、それと比べれば、日本の自衛隊の刑罰は「全般的に、主要国の軍(刑)法より軽い傾向がある」という(「防衛司法制度検討の現代的意義」より、2011年1月)。「軍法会議」の設置には賛否両論があるが、石破幹事長の発言はこうした議論を踏まえたもののようだ。