９月６日のＵＡＥ戦は、最終ラインのキャスティングに注目が集まった。今野と栗原が出場停止のセンターバックに、誰を当てはめるのか、である。

　８月のベネズエラ戦に続いて、ザックは伊野波と水本を半分ずつ使った。ピッチ上でポジティブな印象を残したのは、どちらかと言えば水本だろう。

　伊野波が出場した前半は、最終ラインの距離感が悪かった。ボランチとの距離感も一定しなかった。全体が間延びした時間帯も短くない。攻守ともに連動性を欠いたしわ寄せが、彼と駒野の最終ライン左サイドに集中したところはあった。
　
　水本がそつのないプレーを披露できたのは、攻守において前半からの改善がはかられたことと無関係でない。その意味では、どちらも決定的なアピールはできていないことになる。

　伊野波個人のプレーで気になったのは、前半終了間際の42分である。
　左タッチライン際で駒野がボールを奪いきれず、相手選手がフリーで持ち出してくる。カバーした伊野波はスライディングを仕掛けたが、ボールを奪うことはできなかった。

　こうした局面でのスライディングは、ＤＦにとって最終手段である。ボールを奪えば拍手が降り注ぐが、ストップできなければ致命的なピンチを招きかねない。このシーンでも左サイドからゴール前へクロスを入れられ、あやうく先制点を許すところだった。

　ザックことアルベルト・ザッケローニは、序列を重んじる監督だ。痛みを抱える右膝の状態に問題がなれば、９月11日のイラク戦は伊野波が出場するはずだ。左サイドバックに長友が復帰してくれば、最終ラインの距離感も改善されるだろう。

　あとは、伊野波自身がプレーと判断の精度を上げていくことである。ＵＡＥ戦でも散見された小さなミスも、最終予選では致命傷となる。
　
　内田のいない右サイドバックはどうか。
　ＵＡＥ戦では酒井宏が先発し、彼の交代後は駒野が右へシフトした。酒井宏が左足首を痛めたことを踏まえ、なおかつここ最近の好調ぶりから判断すると、駒野のスタメン起用が妥当だ。

　ベネズエラ戦に続いてＵＡＥ戦でもアシストを決めた駒野は、所属するジュビロでもコンスタントに得点に絡んでいる。バイオリズムが上がっている状態だ。

　もうひとつのポイントは１トップである。
　ほぼ７か月ぶりに出場したハーフナー・マイクは、ＵＡＥから幸運な決勝ゴールを奪取した。彼自身にとって大きな意味を持つ一発で、ザックにしてもＵＡＥ戦で得たポジティブな材料だろう。

　ただ、連動性という意味では不満が残る。ザックは１トップに「深さ」を求めており、中盤の構成に頻繁に関わらなくてもいい。それにしても、ハーフナーはパスを受ける回数が少ない。チームのパスワークに、うまく顔を出せていないのだ。クサビ役となって攻撃に流れをもたらし、チームが相手ゴールへ迫ったシーンは限定的だった。

　本田、香川、清武といった選手がボールを引き出せるのも、ハーフナーが深さを保ってＤＦをひき付けているからだ、と考えることはできる。中央からサイドへフリーランニングすることで、本田らにスペースを提供する動きもあった。だとしても、攻撃への関わりが少ない。

　そう考えると、イラク戦では前田の起用が濃厚だ。ハーフナーに比べて周囲との連動におけるアドバンテージは大きく、それこそが攻撃の生命線である以上、前田のスタメン出場は現実的な選択だ。磐田で見せてきた駒野とのホットラインも生かせる。
ワールドカップ予選突入後は前田、李、ハーフナーが１トップを務めてきたが、誰もが絶対的存在に至っていない。その一方で、２列目の選手層は充実度を強めている。保有戦力の有効活用という視点に立つと、本田の１トップ──実質的なゼロトップは、捨てがたいオプションに思えてならない。