ベネズエラに１対１で引き分けたという結果だけを見れば、８月15日のキリンチャレンジカップは物足りなさを残す。

　ただ、ベネズエラは弱小国ではない。現在進行中のワールドカップ南米予選では、２勝２分け２敗で５位につける。ホームでアルゼンチンを１対０で下すなど、手堅い守備で強豪に食い下がっているのだ。

　今回の来日メンバーは、主力を半分以上欠いた１・５軍クラスである。バスク出身でスペインの年代別代表経験のあるＤＦアモレビエタや、今季からルビン・カザン（ロシア）へ移籍したＦＷホセ・サロモン・ロンドンら、少なく見積もっても７人の海外組が欠場している。

　その一方で、日本戦のスタメンのうち９人がヨーロッパでプレーする。セサル・ファリアス監督が若年層から鍛え上げてきたチームは、世代交代をはかりながら着実にステップアップしているのだ。得点シーン以外に三つは決定機を逃した日本が、勝利を取りこぼすのも避けられなかっただろう。わずか２人でカウンターを成立させた同点弾は、圧倒的なスピードと高い個人戦術の融合によるものだった。

　ゲームの注目は、日本の最終ラインに集まっていた。９月11日のイラク戦に出場できない今野と栗原に代わって、吉田のパートナーを誰が務めるのか、である。

　ザックことザッケローニ監督は伊野波を先発させ、後半からは水本をテストした。どちらもアピールとしてはいまひとつで、センターバックのキャスティングは持ち越された。

　個人的に気になったのは、残り15分からの戦いぶりだ。ザックは前田に代えて中村憲を投入し、本田を１トップに起用したのである。

　ボールを確実に収められる意味で、本田の１トップは悪くない。試合後のザックは「基本的にトップ下で起用するつもりだが、チームが疲労していて前線でキープできる選手が必要だった」と話し、緊急避難的な措置であることを強調した。

　違う思惑も見え隠れする。日本の２列目は、かつてないほどに人材豊富だ。ザックが招集している選手だけでも、途中出場した中村憲だけでなく、清武、宮市、藤本淳、大津、原口ら、タイプの異なる選手がズラリと並ぶ。４−２−３−１のシステムなら、永井も候補者に加えられる。

　２列目の充実ぶりをピッチ上へ反映させようとすると、最前線でプレーできる本田を１トップへ置くオプションが浮上してくる。ベネズエラ戦の残り15分は、そのためのテストだったのではないかと思うのだ。
　
　１トップにはハーフナー・マイクという選択肢もあるが、彼は６月シリーズの３試合で一度も起用されなかった。オランダから合流したこの日も、ウォーミングアップをするだけで終えている。ハーフナー・マイクへのザックの期待値は、急速に萎んでいると考えていい。

　最後に先発した２月のウズベキスタン戦で、ハーフナー・マイクが「前線のキープ役」を果たせなかったのは事実だ。自らターンすることも、ＤＦのファウルを誘うこともできず、クサビに入ってもＤＦに押し戻されるばかりだったのである。

　いずれにせよ、ザックの選手起用は硬直化しているとの印象を抱かせる。ハーフナー・マイクだけでなく宮市も、トレーニングだけの時間を過ごしている。　宮市の投入で、どのような化学変化がもたらされるのか。彼と周囲のコンビネーションは、どこまで構築されているのか。そうした興味深い疑問への答えは、またしても次戦へ持ち越されてしまった。

　経験豊富なザックのことである。ワールドカップ本大会から逆算して、チーム作りを進めているのだろう。最終予選を戦っている現在は、何よりもスタメンのコンビネーションを熟成させたいと考えているに違いない。

　ベネズエラ戦はほぼ２か月ぶりのゲームだったことで、できるだけ長くレギュラーにプレーさせたいとの意図もあったはずだ。

　だが、かくも人材に恵まれていながら、攻撃のオプションがいまだ確立途上なのは気になる。ザックに率いられたチームは、間もなく結成から２年を迎える。