誤解を恐れずに言えば、感動はなかった。
心を動かされたのは間違いない。だが、とてつもない困難を乗り越え、そのうえで世界の頂点に立った昨夏の女子ワールドカップとは、明らかに種類の異なるゲームである。

　アメリカは強かった。パワーと技術と闘志のありったけを、ゲームの序盤からぶつけてきた。ロイドが奪ったふたつのゴールは、男子並みの力強さと迫力に満ちていた。

　少なくとも前半は０対０で折り返したいというのが、なでしこジャパンのプランだった。実際のゲームは、思い描いた展開からかけ離れようとしている。恐怖がじわじわと背筋を這い上がってもおかしくない。

　ところが、なでしこも負けてはいないのだ。アメリカに機先を制されたものの、すぐに攻勢に転じた。ビハインドを背負った衝撃を引きずらないメンタリティが、ゲームを引き締まったものにした。

　いくつもの「if」が成り立つ。
　大儀見のヘッドが、バーに弾かれなかったら。宮間の左足シュートが、またしてもバーに嫌われなければ。明らかなハンドが見逃されなかったら。後半終了間際の岩渕の一撃が決まっていれば……。

　とはいえ、幸運に恵まれるシーンもあった。
　あわやオウンゴールというシーンを、ポストが救ってくれた。「悲運」のひと言で括るのは、だから少し無理がある。

　決定機を逃した悔しさや、主審の判定に対するストレスは、勝利へのエネルギーや相手を打ち負かす反発力にもなる。必ずしも悪いことばかりではない。

　ともあれ、見応えの詰まった攻防だったのは間違いない。どちらのチームも詭計や奇計に頼らず、正面からぶつかり合った。

　ドイツ・ワールドカップの優勝を伝える報道では、彼女たちの戦う姿勢が大きくクローズアップされた。だが、最後まで諦めないのは大前提であり、ひたむきにボールを追いかけるのもまた当然である。勝利を得るために奮闘するのはもちろん、技術、戦術、創造力を融合させ、それらが理想的なバランスで調和していたのが、今回のなでしこジャパンだった。

　アメリカを下すのは、依然として難しい。だが、力は接近している。互角以上の攻防を繰り広げることができる。ワールドカップ後の進歩を示した意味でも、今回の銀メダルは素晴らしい。アメリカという強国をついに、本当に射程圏内へとらえたことが、僕のなかでは接戦を演じた感動を上回った。

　なでしこが誇らしいのは、ファウルの少なさにある。決勝戦の被ファウル「８」は、アメリカのちょうど半分だ。大会通算でも「31」で、８強以上のチームではもっとも少ない。

　そうかといって、フィジカル的な弱さや精神的な気後れは感じさせないのだ。競り合いでは激しく身体をぶつけ合い、全身で相手を止めにかかった。

　佐々木監督の勇退は濃厚で、澤も代表から退くことになりそうだ。史上初のメダルを獲得したロンドン五輪は、なでしこジャパンにとって大きな区切りとなる。

　それでも、チームの土台は受け継がれていくだろう。いくつもの「if」が胸に刻まれ、残された選手たちの成長を促してくれる。