ミシェル・プラティニがいなかったら、僕はサッカーを好きになっていなかったかもしれない。

サッカー専門誌が“ナポレオン”や“将軍”の代名詞で紹介したフランス代表の背番号10は、ユニフォームの裾をいつも出していた。ストッキングも下げていた。

会長としてＵＥＦＡを取り仕切るいまでは考えられないほどスリムな体型に、ちょっと不良っぽい──当時の雰囲気を表わすには、こんな古くさい表現がちょうどいい──着こなしが良く似合っていた。スパイクはマラドーナの影響で『ＰＵＭＡ』を愛用していたが、ユニフォームの着こなしは文句なしにプラティニを真似していた。

だからというわけではないけれど、主審が選手に「ユニフォームを入れなさい」と促すのが、どうにも受け入れ難かった。そこにどんな意味があるのか、僕にはさっぱり理解できなかったのである。

着こなしは人それぞれでいい。それも大切な個性だ。暑いときや疲れたときは、何となくユニフォームを出したいものである。それだけで、気持ちが軽くなったりするものだ。

それなのに、「全員が同じように着なさい」と、Ｊリーグは指導をしてきた。選手にも観客にも没個性を押しつけているような気がして、個人的には首を傾げるばかりだった。

子どもというのは、色々なところに憧れのきっかけを見つける。そこからサッカーに興味を持ち、好きになるのに……。

今年から、ルールが変わった。Ｊリーグ側の指導方針が変わった、と言うべきか。とにもかくにも、ユニフォームをパンツに入れなくてもいいことになった。

３月３日のゼロックス杯では、レイソルにユニフォームの裾を出す選手が多かった。風に揺れるユニフォームが、僕には気持ち良さそうに見えた。

もちろん、パンツにきちんと入れている選手もいる。選手やポジションによって、着こなしにもこだわりがある。サッカー観戦の小さな楽しみが、ひとつ増えている。