ビルの間の夕日を撮影。左が画像処理ソフト「Photomatix Pro 3.2」(仏HDRsoft社)体験版を使って作成したHDR画像、右がノーマルなデジタル画像。

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モノクロ――写真の基本ともいうべきものでデジタルが画質の点で苦戦していることが、「モノクロ写真でデジタルとアナログ比較」で分かった。その原因のひとつは、デジカメではネガフィルムのような広いラチチュード(露光範囲)の写真を撮れないこと。ゆえに、コントラストの強い被写体などをうまく撮りきれないのだ。そこで、画像処理ソフトを使ってそのような被写体でも満足のいく画質のデジタル画像をつくってみようと思う。

それはすでに写真愛好家やプロカメラマンの間では周知となっている画像処理ソフト「Photomatix Pro 3.2」(仏HDRsoft社)で、デジタル画像が持っているダイナミックレンジを大幅に広げる(HDR=ハイダイナミックレンジ)ことができるという特徴を持つ。ダイナミックレンジというのは簡単に言うと、フィルムのラチチュードと同様に明暗差の再現範囲のこと。これを広げられれば、ネガフィルムのように、あるいはそれ以上のモノクロ写真ができるはず。

使い方としては、まずデジカメで露出(明るさ)の異なる画像を数枚撮影する。それら画像を同ソフトに取り込んで「HDRイメージを生成」のボタンを押す。すると、「トーンマッピング」というウィンドウの中に合成画像が現れる。つまり、数枚の画像を合成することでそれぞれが持つ露出が一枚の画像に反映されるというわけ。同ウィンドウで合成画像の明るさやトーンなどを調整した後、ダイナミックレンジの広い画像が出来上がる。

同ソフト体験版で、実際につくった写真を見てもらいたい。最初の写真はビルの間から見える夕日を撮影したもの。完全に逆光状態で、夕日に露出を合わせるとビルが黒くつぶれ、逆にビルに合わせると夕日が白くなり過ぎて消えてしまう。なので、デジタル一眼レフに搭載されているAEB(Auto Exposure Bracketing) 機能で、露出の異なる画像を3枚(適正露出、-2段補正、+2段補正)撮影。それらを使って「HDRイメージを生成」してみた。

出来上がったHDR画像はカラーなので、グレースケールにして完成。最初に掲げた写真を見ての通り、ビルと夕日がともにしっかり写りこんでいるのがわかるだろう。ビルはもっと明るくもできたのだが、そうすると逆光の写真の雰囲気や、夕日を浴びている感じが弱まるのでこの程度の明るさに留めた。ちなみに隣のノーマルなデジタル画像を見てもらいたい。カメラはビルに露出を合わせることを優先した結果、夕日が白とびしてしまっている。これが逆光での通常のデジタル画像なのである。

参考までにその他の画像(+2段補正、-2段補正)もつぎに挙げておいた。左は建物はすべてくっきり写っているが、夕空がどこにもない。右は美しい夕空が写っている分、建物が真っ黒だ(これはこれで見ようによってはいい写真かも)。

逆光だけでなく、順光でも同ソフトを使うといい写真になる。3番目の写真は池に並ぶボートを撮影したもの。HDR画像のほうが空が濃く、ハイライトの階調がしっかり出ているのが分かる。この結果も、ダイナミックレンジを広げたおかげだ。

以上、見てきたようにHDR画像でモノクロ写真をつくれば、デジタルの問題点が解決され、ベターなものになる。ただ、「銀塩写真と比べてどうか」という問いについての答えは保留しておく(まだ比較したことがないので。機会があればやってみようと思う)。

もうすぐ春。暖かくなり、花が咲き始めたら写真を撮りに出かけたくなるだろう。そのときは、是非HDR画像をお試しあれ。
(羽石竜示)