チームを救ったのは、キャプテンの機知に富んだプレーだった。早い時間帯に先制すればゴールラッシュも有り得るが、朝鮮民主主義人民共和国 (北朝鮮) に粘られると難しいゲームになる…… 9月2日に行われたブラジルW杯アジア3次予選の開幕戦は、想定されたシナリオをなぞるように進んでいた。

「自分たちのチャンスは、ないに等しいと思っていた」と鄭大世が振り返ったように、序盤からイニシアチブを握ったのは日本である。だが、フィニッシュに至るシーンをなかなか作り出せない。前半の日本は5本のシュートを放っているが、ペナルティエリア内から記録したのは、李忠成のバックヘッドのみだった。4バックと5人のMFがブロックを築いてくる北朝鮮の守備陣に、決定的な亀裂を生じさせることはできなかった。

ここで試合に大きな影響を及ぼしたのが、キャプテンマークを巻いた長谷部だった。タテに速くて鋭く、それでいてパワフルなドリブルで、右サイドから何度も北朝鮮の守備陣を切り裂いていく。

「ベタ引きになるとどんどん出てこられるので、身体の向きが良くないときには高い位置からもプレッシャーをかけていこうとした」とは北朝鮮の左ボランチを務めた安英学だが、前半は日本のMF陣を自らの視野に置いていた彼も、最終ラインのカバーに奔走せざるを得なくなる。日本の背番号17がもたらす脅威が、北朝鮮から積極的な守備を奪っていったのだ。

長谷部の変化はデータからも明らかだ。中盤でボールをさばきながらクサビのパスを狙い、サイドバックの攻撃参加も促していた前半は、敵陣でのボールタッチ数が15回だった。チームで7番目の数字である。しかし後半は、香川、遠藤に次ぐ28回まで増やしていくのだ。

後半ロスタイムに立て続けにつかんだコーナーキックでも、長谷部はショートコーナーを使う機転を働かせている。「直接上げても、なかなか競り勝てていなかった。ショートコーナーはたくさんやろうと、試合前から話していた」と振り返るが、ほんの一瞬のロスさえ惜しまれるあの時間帯で、試合前のプランを遂行した冷静さは見事という他ない。

本田はケガで欠場したが、日本には長谷部がいた。我々のチームは偉大なるキャプテンに支えられていることを、9月2日の北朝鮮戦は知らしめたのである。

【北朝鮮戦のボールタッチ数】

●前半
1. 遠藤 = 57（自陣32、敵陣25)
2. 長谷部 = 41 (26、15)
3. 駒野 = 40 (15、25)
4. 内田 = 39 (15、24)
5. 香川 = 38 (7、31)
6. 柏木 = 28 (8、20)
7. 今野 = 28 (26、2)
8. 岡崎 = 26 (8、18)
9. 吉田 = 24 (19、5)
10. 李 = 15 (1、14)

●後半
1. 遠藤 = 53 (自陣24、敵陣29)
2. 長谷部 = 46 (18、28)
3. 香川 = 41 (4、37)
4. 駒野 = 35 (16、19)
5. 内田 = 32 (9、23)
6. 吉田 = 26 (21、5)
7. 清武 = 25 (5、20)
8. 今野 = 24 (18、6)
9. 岡崎 = 23 (2、21)
10. 柏木 = 9 (3、6) ※60分に清武と交代
11. ハーフナー・マイク = 6 (0、6)
12. 李 = 5 (0、5) ※70分にハーフナー・マイクと交代

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