最初に言っておくと、僕はこの時期にオプションを試す意義はあると思っている。
今回のキリンカップは、5月30日の集合から6月7日のチェコ戦まで、9日間にわたって選手を拘束できた。二つのテストマッチを消化できるのはもちろんだが、トレーニングを7回行なうことができた。

その一方で、8月10日の韓国戦は、FIFAの区分けでフレンドリーマッチである。今回のようなオフィシャルマッチに比べて、選手を拘束できる時間は短い。海外組を招集しても、彼ら全員が揃うのは2日前の8月8日だろう。トレーニングは2回しかできない。

札幌を舞台とする韓国戦は、9月上旬に開幕するW杯3次予選前の最後のテストマッチだ。勝利によってネガティブなイメージを洗い流し、勢いをつかみたい一戦である。W杯3次予選へ向けてオプションを試すには、時間的に遅いという判断もある。

そう考えると、何か新しいものを試すには、キリンカップのタイミングしかなかったと言うことができる。ペルー戦で明らかになった課題を練習で落とし込み、チェコ戦でもう一度トライするという流れも妥当だ。

オプションの必要性については、改めて論じるまでもない。「同じことをやっているだけでは、相手に研究されてくる。また、成長もない」というザックの言葉は、そのまま受け止めることができる。少なくともアジアにおいて、我々は研究される立場にある。

海外組がいつでもトップフォームで代表に戻ってくる、という確約もない。所属クラブで出場機会に恵まれない選手が、新シーズンは出てくるかもしれない。ケガだって想定内である。システムも選手層も、厚みを求めることにためらいはないはずだ。

そのうえでチェコ戦を振り返ると、最初に頭をもたげるのは消化不良の四文字だろうか。
「ペルー戦に比べれば良くなっている。ここ数日間の練習で、ここまでできるのはたやすいことではない」とザックは試合後の会見で語り、「今日の選手の出来には、とても、とても満足している」と言い添えた。

ペルー戦よりシュート数が増え、コンビネーションによる決定機もわずかだが作れたことを踏まえれば、「良くなった」と言えないことはない。ただ、システムの特性を引き出せたかを問えば、答えは「NO」になる。判断基準となるのは「4の両翼」である。

内田と長友の敵陣でのボールタッチ数を調べると、前半は10回と14回、後半は15回と14回である。この数字がどのような意味を持つのか。ペルー戦の前半に「4の両翼」を担った、西と安田と比較してみる。西は12回、安田は10回である。数字としては、ほぼ変わらない。少なくともデータにおいて、ペルー戦からの劇的な改善は読み取れないのだ。　

前半の内田は4本のクロスを供給したが、フィニッシュにつながるものはなかった。数的不利の局面に立たされることの多かった長友は、タテへの突破をことごとく封じられてしまった。前半の彼があげたクロスと言えば、ショートコーナーからファーポスト際の吉田を狙った37分のシーンだけである。

後半は状況が改善され、長友は1対1の仕掛けからタテへ抜け出し、内田もアーリークロスやカットインなどのバリエーションを見せられるようになる。とはいえ、日本のコンビネーションが上向いたことからではなく、チェコの活動量が低下したことによるもの、と理解すべきである。後半はショートカウンターを浴びせられるようになったのも、チェコが間延びしていたことに理由を求められる。

個人的に気になったのは、「前への選択肢の少なさ」である。とりわけ前半が特徴的だったのだが、ボール保持者がパスコースを見つけられないのだ。ボールを呼び込もうとする味方選手ではなく、受け手になろうとする選手に忍び寄る相手が気になり、前への推進力が削がれていた。3−4−3の陣形を維持するあまりに、流動性や連動性が低下していたのである。

試合後のザックは伊野波と吉田の名前をあげ、「ビルドアップに積極的に参加してくれた」と評価した。ならば、3バックの両サイドに、ザックはどれぐらいビルドアップに関わってほしいと考えているのか。長谷部と遠藤のダブルボランチも含めて、攻撃の組み立てに関わるプレーヤーがどこへパスを出していたのかを調べ、そこから3−4−3の改善点を浮き彫りにしていきたいと思う。

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