試合終了から３０分以上が経ち、ようやく今夜の主役に声がかかった。すっかり間延びしてしまった空気が引き締まり、カリファスタジアムに歓喜が駆け抜けていく。キャプテンの長谷部を先頭に舞台へ上がった選手とスタッフに、小さなレプリカのカップが手渡される。全員に行きわたったところで、長谷部が中央へ誘われた。

段取りが悪いばかりにひどく時間のかかったセレモニーが、ついにクライマックスを迎える。史上４度目にして歴代最多となるカップを、27歳のキャプテンは高々と掲げた──。

今大会の勝因として、もっともふさわしいものは何だろうか。

試合のたびの困難が列をなして訪れ、そのたびに必要な結果をつかむことができたのは、選手同士の精神的なつながりがあったからこそである。先発出場する選手には、チームを代表して戦う責任感があった。ベンチスタートの選手は、先発の11人と同じ気持ちで戦っていた。同時に、代表としての誇りをチーム全体で共有していた。

負けたときのエクスキューズを見つけるのは簡単だった。他チームに比べて圧倒的に準備期間が短く、海外組の多くは試合勘への不安を抱え、国内組はシーズン終了直後の疲労感に苛まれていた。コンディションが万全な選手を探すほうが難しかった。

大会が開幕すると、主審の判定に悩まされる。足を引っ張られたと言ってもいい。試合を重ねるごとに試合勘は磨かれていくが、その代わりに疲労が蓄積していった。

そうした負の要素を言い訳にしない雰囲気は、開幕当初からチームを貫いていた。最後まで揺るがなかった。そうでなければ、ベンチスタートの選手がここまで価値ある仕事をするはずがない。誰もが心身ともに準備を怠らなかったからであり、それはつまり、チームがしっかりとした準備を促す空気に包まれていたからだ。

準々決勝で伊野波、準決勝で細貝、ファイナルで李忠成と控え選手が立て続けにゴールをあげたのは、過去３度の優勝との特徴的な違いである。

５年後、10年後に今大会を振り返ったとき、我々はどの試合を真っ先に思い浮かべるだろうか。あるいは、どのゴールがもっとも印象深く刻まれただろうか。おそらくはそれぞれに印象が違うはずだ。ＭＶＰを獲得した本田のゴールやアシストが、大会を象徴するシーンにはならない気がする。

それでも勝利したのは、「一体感」があったからに他ならない。これまで「一体感」を象徴してきた04年大会のチームにも、決して劣らない結束があった。

しかし、である。長谷部を筆頭とする主力選手の多くは、南アフリカW杯でチームのまとまりの重要性を再認識している。互いの長所を引き出し、足りないところを補うのは、彼らにとって当然のことなのだ。国際大会に臨む際のベースと言っていい。

だから、一体感だけで大会を総括するのは物足りない。現状維持を潔しとせず、さらなる高みを目ざすそれぞれの意志が、大きなうねりとなってチームを押し上げていったと思う。２０１４年のブラジルW杯から逆算したときに、今大会での優勝はチームと個人のために必要なものだったのだろう。

守備を出発点とした南アフリカでの戦いから、日本らしいサッカーを構築するための確かな第一歩を刻むために。目前の戦いに集中しつつも、彼らの視線は一歩先の未来を捉えていたのだ。「アジアカップは頂点じゃないので」という長谷部の言葉が、いまはとても頼もしい。

試合のディティールを詰めていけば、当然ながら課題はある。それも、ひとつやふたつではない。今大会の戦いが浮かんできた論点については、次回の更新分から触れていきたい。

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