マンジャロは「医薬品」のため、自己判断による使用は副作用の可能性もあり非常に危険(Ushico / PIXTA)

写真拡大

インフルエンサー・ゆいぴす氏の発言をきっかけに、糖尿病治療薬「マンジャロ」の不適切な利用や広告・宣伝のあり方が改めて注目を集めている。

マンジャロは本来、2型糖尿病の治療薬だ。しかし食欲を抑える作用があることから、近年は「痩せ薬」として利用が広がり、個人間での売買なども問題となっている。

そうしたなか、ゆいぴす氏はYouTube番組内で「マンジャロ打ちな?」「1か月で5kg痩せた」などと発言し、批判を浴びた。オンラインマンジャロ処方サービスのアンバサダー就任も予定されていたことから、SNS上では広告塔としての責任を問う声も上がっている。

処方医薬品の広告塔となったモデルやタレント、インフルエンサーは、広告や宣伝に問題があった場合、どこまで法的責任を負うのか。(ライター・倉本菜生)

体験談もNG? 医薬品広告の厳しい規制

騒動の発端となったのは、YouTube番組「LAST CALL」での一幕だ。同番組は「国内最大キャバ嬢オーディション番組」をうたっており、ゆいぴす氏は審査員として出演していた。

5月26日の配信回にて、ゆいぴす氏はオーディション挑戦者に対し「マンジャロ打ちな?」と発言。併せて「マンジャロ打って5kg痩せてから売れた」など、自身の体験談も語っている。

さらに番組内では、実業家の溝口勇児氏が出資するオンラインマンジャロ処方サービス「diet beauty」が紹介され、ゆいぴす氏が同サービスの「公式アンバサダー」に就任予定であることも明かされた。

これに対しSNS上では、「糖尿病治療薬を安易にダイエット目的で推奨している」「薬機法上の問題があるのではないか」などの批判が相次いだ。ゆいぴす氏はその後、謝罪するとともにアンバサダー就任を辞退。インフルエンサー活動の全面休止も発表している。

では、マンジャロのような処方医薬品について、「痩せる」といった体験談を交えながら美容・ダイエット目的で宣伝することには、どのような法的問題があるのだろうか。

医療分野の法律に詳しい杉山大介弁護士は、「美容目的での処方」と「広告・宣伝」は分けて考える必要があると話す。

「前提として、医師が診察し、処方箋を出して薬を提供する仕組みであれば、マンジャロを処方すること自体は直ちに違法ではありません。

ただ問題となるのは、広告や宣伝の仕方です。医薬品や医療サービスは人体に直接影響を及ぼすため、一般の商品以上に慎重な情報発信が求められます。

広告にも厳しいルールが設けられており、医薬品の販売に関しては薬機法(医薬品医療機器等法)、医療サービスの提供については医療法による広告規制を受けます」

たとえば薬機法では、医薬品などの広告について「虚偽・誇大広告の禁止」(66条)、「特定疾病用医薬品などの広告制限」(67条)、「承認前医薬品などの広告禁止」(68条)などを定めていて、虚偽・誇大広告の禁止の中で、使用者の体験談を広告に利用することも含まれていると解されている。また医療分野では、利用者の体験談を広告に用いることも認められていない。

「医薬品などでは『私はこれで○kg痩せました』などの個人の感想を広告に利用することは、法律上許されません。個人の主観的な意見には医学的な根拠がないため、利用者に効果を期待させたり、誤解を与えたりするおそれがあるからです」(杉山弁護士)

「私はただのアンバサダー」広告塔にも責任はある?

今回の騒動では、ゆいぴす氏が炎上後、「私は医者でもないですよ。ただのアンバサダー(広告モデル)なんですが」と投稿したことも話題となった。「広告塔」という立場で商品を紹介しただけでも、法的責任は問われるのだろうか。

「一般的な商品やサービスであれば、景品表示法上、広告の内容について責任を負うのは主に広告主(事業者)です。一方、薬機法や医療法の広告規制は、『何人も』を適用対象としています。たとえ宣伝を依頼されただけのインフルエンサーであっても、不適切な情報を発信すれば責任を問われます」

近年はSNSで企業の商品を紹介する「PR案件」が一般的になった。芸能人やインフルエンサーだけでなく、一般人がモニターとして広告を担うケースも珍しくない。

杉山弁護士は、SNSで商品を紹介する際は「何を紹介するか」だけでなく、「どのような表現で紹介するか」にも注意が必要だと指摘する。

「たとえば、ただの食品であっても、『若返り効果がある』『食べると元気百倍』などと効能をうたって宣伝すれば、医薬品的な効能を標ぼうする広告とみなされることがあります。実際に医薬品でなくとも、効能や効果をうたえば薬機法の規制対象となりうるのです」

「本来なら裏通りでひっそりやるような商売」

今回の騒動について杉山弁護士は、「医薬品を美容目的で販売すること自体、大手を振ってやるようなことではない」と私見を述べる。

「オンラインでマンジャロを処方するビジネスは以前から存在していました。しかし、そもそも糖尿病の治療に用いられる薬です。美容目的の処方は、副作用などとの関係から望ましいものではありません。

本来なら裏通りでひっそりやるような商売を、華々しく打ち出してやる感覚には、底が抜けてしまったと感じますね。『普通ならやらない』という一線を越えてしまう人が、どの業界でも増えているように思います」

行政もマンジャロの不適切な使用や流通への警戒を強めている。6月2日には大阪府警が、マンジャロを無許可で販売・保管したなどとして、男女3人を書類送検した。これを受け、上野賢一郎厚生労働大臣は5日の記者会見で、「マンジャロ等の糖尿病薬の個人間売買については、現在、SNS等で広がりつつある状況と認識している」と述べ、「マンジャロを個人間で売買することは違法です」と明言。

さらに6月10日には、製造販売元の日本イーライリリーも声明を公表し、マンジャロの不適切使用および流通について「関連当局や関連学会、警察等と緊密に連携し、情報共有や注意喚起、および適正使用推進のための情報提供活動を行っております」と強い懸念を示している。

行政や製造販売元が警鐘を鳴らす一方で、SNSやYouTubeではマンジャロをダイエット目的で紹介する投稿が後を絶たない。使用する側だけでなく、「紹介する側」にも法的リスクがおよぶ可能性があることは、改めて認識しておきたい。

■倉本菜生
1991年福岡生まれ、京都在住。龍谷大学大学院にて修士号(文学)を取得。専門は日本法制史。フリーライターとして社会問題を追いながら、近代日本の精神医学や監獄に関する法制度について研究を続ける。主な執筆媒体は『日刊SPA!』『現代ビジネス』など。精神疾患や虐待、不登校、孤独死などの問題に関心が高い。 X:@0ElectricSheep0/Instagram:@0electricsheep0