「10年間で最も残業時間を減らした企業ランキング」 激務のはずでは...NHK、コンサル大手が上位の意外
2019年に働き方改革関連法が施行され、今年(2024年)で5年。柱である残業時間の削減は進んでいるのだろうか。
そんなななか、就職・転職のためのジョブマーケット・プラットフォーム「OpenWork」を運営するオープンワーク(東京都渋谷区)が2024年10月30日に発表した「10年間で最も残業時間を減らした企業ランキング」によると、意外な企業が上位にランクインした。
激務のイメージが強いコンサル会社と、日本放送協会(NHK)である。担当者に話を聞いた。
残業削減上位30社にコンサル6社、そしてNHKと経済産業省
OpenWorkは、社会人の会員ユーザーが自分の勤め先の企業や官公庁など職場の情報を投稿する国内最大規模のクチコミサイト。会員数は約680万人(2024年10月31日時点)という。企業の評価を「待遇面の満足度」「社員の士気」「風通しの良さ」「20代成長環境」などの8つの指標で評価している。
調査では、OpenWorkに投稿された会社評価レポート12万6848件を集計し、残業時間の企業ごとの推移に注目。2015年と2024年(1〜9月)の平均残業時間を比較し、「10年間で最も残業時間を減らした企業」を調べた。
その結果、1位にコンサル会社の船井総合研究所、2位にITコンサルティングファームのフューチャー、3位に世界最大級のコンサル会社デロイト トーマツ コンサルティング合同会社、4位に博報堂グループの総合制作事業の博報堂プロダクツ、5位に大樹生命保険。
6位に英国に本拠があるコンサル大手のPwCコンサルティング合同会社、7位にインターネットメディアのサーバーエージェント、8位に博報堂、9位にコンサル会社のアクセンチュア、10位に日本製鉄グループのシステムインテグレーターの日鉄ソリューションズとなった。【図表】。
激務のイメージが強いコンサル会社がトップ3を独占し、上位30社のうちに6社がランクインした。共通するのが、もともとの残業時間の長さだ。
1位の船井総研と2位のフューチャーは、2015年の平均残業時間は月100時間を超えていたが、ともに10年間で70時間以上削減とした。
もう1つ目立つのが、15位の日本放送協会(NHK)や、30位の経済産業省といった公的な組織のランクイン。残業削減に関しては率先して経済界をリードしていく立場にあるからだろうか。それぞれ、どうやって残業削減に成功したのか。
コンサル会社は個人の裁量で、出社、退社時間が自由
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なったオープンワーク広報担当者に話を聞いた。
――興味深いのは、激務と思われているコンサル会社が30社中6社もランクインしていることです。ズバリ、何が理由でしょうか。
担当者 ランクインしたコンサル会社に寄せられたクチコミからは、リモートワークの定着に加え、個人の裁量によって調整が可能であること、そして、企業として本気で長時間労働の是正や働き方改革に力を入れ、ワーク・ライフ・バランスを推進する動きがあることがうかがえました。主なクチコミを紹介します。
船井総合研究所「クライアントワークのため、お客様に合わせて動かざるを得ない点で調整はしにくい。チームリーダー以上になれば自分でスケジュールを決められるため、多少は調整しやすい。独り立ちしていない社員は、先輩の都合に合わせて動くためスケジュールを調整しにくい」(経営コンサルタント、女性)
フューチャー「最近ではリモートワークが進んでおり、柔軟性は高まっている。リーダー層だと家庭を持つ方も多いが、離席して家庭の用事を済ませつつ仕事をするといったことも可能になっており、比較的バランスはとりやすくなっている。労働時間の削減にも力を入れており、残業時間に関しては厳しく注意されることも多い。やることさえやっていれば、朝遅く起きて夜遅くまで仕事するも、朝早く起きて早い時間に退勤するも、個人の自由といった雰囲気」(ITコンサル、男性)
アクセンチュア「働き方の改革を推進するプロジェクトが進んでいることで、残業は申請ベースでしか行えない。このことから、スタッフレベルの従業員に関しては必要量以上の残業ができない」(アナリスト、女性)
デロイト トーマツ コンサルティング「入社当初は過渡期だったが、最近では残業をさせない(できない)仕組みづくりが功を奏し、ワーク・ライフ・バランスはかなり改善されたと思う」(コンサルタント、男性)
リモートワークの功罪は、オンとオフの切り替えが難しい
――リモートワークが進むことが残業時間の減少につながるわけですね。ただ最近は、社員同士のコミュニケーションを優先させるため出社を促す企業が増えています。その辺のバランスはどうなっていますか。
担当者 リモートワークに関しては、ポジティブとネガティブなクチコミが両方寄せられています。「働きやすさが向上した」という声がある一方、「通勤時間がないため、かえって働く時間が長くなる」「仕事とプライベートの切り替えが難しい人には疲れやすい」などの声が見られました。
PwCコンサルティング「リモートワークが浸透しており、多くのミーティングがオンラインで行われる。オフィスもフリーアドレス。プロジェクトによっては、ほとんど出社せずに勤務することが可能。また、コアタイムなしのフレックスを採用しているため、時間の調整がしやすい。特に現在子育て中の社員は恩恵を感じているのではないかと思う」(コンサルタント、女性)
三井住友信託銀行「在宅ワークが増えたが、出社しないと仕事ができない部署と、フルリモートでも仕事ができる部署があり、不平等感はある。上司が積極的に在宅勤務する部署だと部下も在宅勤務しやすいが、上司がそうでないと出社を促されることも聞いた。まだ会社としての制度はこれからだと感じる」(事務、女性)
日本アイ・ビー・エム「個人的な問題だが、昨今のリモート環境下ではついつい就業時間外でも仕事に手を付けてしまいがちで、プライベートとの線引きが難しくなっている。通勤時間がないのはラクである反面、切り替えの難しさにつながっている」(エンジニア、男性)
NHKの働き方改革、番組制作と報道でそれぞれの悩み
――ところで、公共放送のNHKはメディアの代表として、また経済産業省は経済界をリードする立場として、働き方改革を奨励していく立場ですが、それぞれどのように残業削減の努力・工夫をしているのでしょうか。
担当者 NHKに投稿されたクチコミからは、部署・職種によって働き方や働きやすさには違いがあることがうかがえました。一方、日本全体の傾向と同様に、働き方の改善に対する意識は向上していることが見てとれました。
NHK「ここ10年くらいで労働時間に対する意識が大きく変わってきた。ただし職種による意識の差はいまだに大きい。番組制作を担当するディレクターのセクションは、仕事のやりがいと長時間労働との板挟みに悩む職員が多い印象」(報道、男性)
NHK「法改正もあり、この5年ほどで大幅に改善されている。とはいえ、災害等が起きれば、ワーク・ライフ・バランスとも言っていられないので、普通の業界と比べると、プライベートは削られるかもしれない」(報道、男性)
NHK「最近ではかなり働き方改革が進み、無駄な残業はさせないような雰囲気ができている。育児や介護にも配慮してくれる空気があるので、仕事が繁忙期でなければ、ワーク・ライフ・バランスはとりやすい会社だと感じた」(ディレクター、男性)
経済産業省でもリモートワークをかなり進めていますが、民間と同様、ポジティブな面とネガティブな面が共存しているように見受けられます。
経済産業省「部署や上司にもよるかもしれませんが、柔軟にテレワークをすることができるため、プライベートとの両立はかなりしやすいと感じています。午前中のみのテレワークや帰宅後のテレワークも可能なので、子育てとの両立もしやすいです。今後より両立しやすい環境になっていくと思われます」(総合職、女性)
経済産業省「テレワーク環境がかなり整っているので、どこでも仕事ができてしまう分、プライベートとの区別がついていない人もチラホラ」(事務、男性、経済産業省)
――今回の調査で特に強調したいことはありますか。
担当者 ランクイン企業に寄せられたクチコミからは、働き方改革やリモートワークの定着が、残業時間の削減に一定の影響を与えたことがうかがえました。しかし、自宅で働くことで仕事とプライベートの境界が曖昧になる現状や課題も見てとることができました。
手前味噌ではありますが、働く人のリアルな声や本音が集まるクチコミは組織改善のヒントになり得るのではないかと感じました。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)