【萩原 文博】なぜ日本は電気自動車の「電費」がイマイチなのか、その納得の理由

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カタログスペックではわからない電費性能

筆者は、年間約150台以上のクルマに試乗する機会がある。世代交代となるフルモデルチェンジだけでなく、外観のデザインを変更し商品性を向上させたマイナーチェンジ。そして装備を変更した一部改良など試乗車が用意された軽自動車から数千万円の超高級車までとなる。

試乗するタイミングは、発表後すぐの時もあれば、メディア露出が落ち着いたタイミングを見計らって行う時もあり様々だ。特に電気自動車(以下)BEVの場合は後者のケースが多い。その理由は走行性能や乗り心地のチェックだけでなく、急速充電器使用時の充電量や実電費を調べるためである。

エンジン搭載車であれば、燃料を給油する時間や量など気にすることはない。しかしBEVの場合は、急速充電器を使用した際の充電量が車種によって異なるからだ。もちろん急速充電器の性能差もあるが、これはカタログなどには書かれていないが、車両側で上限が制御されてしまうことがあるのだ。先日試乗した車種は最近、スタンダードになりつつある90kWhの急速充電器を使って充電しても、30分で約35kWhしか入らなかった。車両の返却時に確認すると、その車種は上限が73kWhであることを教えてくれた。こういった事例は実際に急速充電器を使用しないとわからないことなのだ。こういう事例もBEVに対する不信感を生むことになっているのかもしれない。

新車のインプレッションは、ハンドリングや加速性能といった走行性能や乗り心地。そして燃費性能を中心にチェックする。さらにBEVの場合は、その車種の急速充電の性能も確認する必要があると思っている。なぜなら、BEVの電費性能はガソリン車の燃費性能以上にシビアな問題だから。

日本だからこその電費の悪さ

2024年、日本の夏は非常に暑かった。そんな真夏にBEVを試乗する機会があったが、エアコンの設定をかなり低く設定したこともあり、電費は非常に悪かった。また電池の特性ゆえに、気温が高いことだけでなく、雪が降るような寒さにも影響を受けやすい。四季があり、気温の変化が大きい日本はBEVにとっては苛酷な条件と言える。これも日本でBEVが普及しない理由の1つと言えるだろう。

最も、BEVの普及を阻んでいると思われるのが、住居の形態だ。筆者は集合住宅に住んでいるが、都市部は圧倒的に集合住宅に住んでいる人が多いため、自宅に充電施設を設置できない。BEVのメリットは駐車中に充電し、乗るときはいつでも充電量100%の走行可能距離で出掛けられることだ。

これは、自宅に充電器を設置できる環境でないとその恩恵を受けられない。

またBEVは出掛けた先で急速充電器を使用してもバッテリーの充電量は100%にならず、走行可能距離は短くなってしまう。したがって、旅行などに出掛ける際には、普通充電器が設置されているホテルを選ぶという工夫がBEVでの快適な旅行には必要となる。したがって急速充電器の普及も大切だが、200V 6kWhの普通充電器の充実もBEV普及のキーとなると考えている。

充電器の問題も

自動車専門メディアで良く目にするコンテンツの1つが、エンジン車による燃費テストだ。ガソリン価格が高騰すると、こういった企画はユーザーのクルマ購入の際に参考となる。しかしBEVによる電費テストというのはあまり見かけたことがない。その理由は、各車のバッテリーの充電量を100%に揃えるというハードルが予想以上に高いからだ。

エンジン車の場合、同じガソリンスタンドで燃料満タンにすれば同じ条件になるが、BEVの場合は同じ場所に普通充電器が設置されていないとイコールコンディションにならない。現状、普通充電器が設置されている駐車場というのは少ない。しかし、偶然筆者の自宅の近くにある時間貸しの駐車場に、3台の200V 6kWhの普通充電器が実証実験として設置された。しかも駐車場代を支払えば、充電料金は現在のところ無料。

元々、自宅の立体駐車場はボディサイズに加えて車両重量に制限があるため、現在販売されているBEVのほとんどが入庫することができない。したがって試乗する際には、時間貸しの駐車場を利用する。この実証実験のおかげで、停めている間に充電が100%でき、まるで自宅に充電器があるような感覚が味わえ、BEVのメリットを感じられるようになった。

そこで思いついたのが今回の企画だ。カタログスペック上のWLTCモードの満充電時の走行可能距離が同じ640kmの日産アリアB92WDとBYD シール2WDの電費テストを行うというもの。

走行ルートは、普通充電器のある千駄ヶ谷駐車場をスタートし、首都高速外苑ランプから中央道を経由し、東富士五湖道路の須走ICまでの高速セクション。須走ICからは一般道で御殿場を抜けて、箱根にある芦ノ湖スカイラインを経由し、箱根新道で一気に小田原まで下るワインディングセクション。

小田原からは西湘バイパスを経由し、海沿いの国道134号線で鎌倉を通り、横浜横須賀道路の朝比奈ICまで走行する郊外路セクション。そして朝比奈ICから首都高東神奈川ICまで走行する2度目の高速セクションという約250kmのルートを設定した。

テスト車両

今回のテストに使用したのは、車両本体価格738万2100円の日産アリアB9 2WD。そして528万円のBYDシールRWD。

各車のスペックは、日産アリアB9 2WDのボディサイズは全長4,595mm×全幅1,850mm×全高1,665mm(プロパイロット2.0装着車)、車両重量は2,060kg、モーターは最高出力242ps、最大トルク300Nmを発生、駆動用バッテリー容量は91kWhとなっている。

対してBYDシールRWDのボディサイズは全長4,800mm×全幅1,875mm×全高1,460mm、車両重量2,100kg、モーターは最高出力312ps、最大トルク360Nmを発生。駆動用バッテリー容量は82.56kwhだ。

WLTCモードでの満充電時の走行可能距離は640kmと同じだが、スペックを見ると、バッテリー容量は日産アリアB9 2WDのほうが大きく、モーター出力はBYDシールRWDのほうが高い。ボディサイズはSUVのアリアに対して、セダンタイプのシールと異なるが、車両重量は40kgもシールのほうが重くなっている。これはシールが搭載しているブレードバッテリーの重量の影響と言える。

万全の状態で実走

アリア、シール共に前夜から普通充電で充電を行いバッテリー量100%でスタートできるように準備した。スタート時メーターを確認するとシールは100%で走行可能距離が640kmと表示しているが、アリアは100%にもかかわらず463kmの表示。これは前回走行したで電費データーに基づいて走行可能距離を表しているのだ。

アリアのほうがホスピタリティは高いように感じるが、個人的な意見としてはシールのほうがBEVとしての表示としては正しいと思う。それはフル充電したのにこれしか走らないの?という感覚を持ってしまうからだ。さきほども書いたが、BEVの電費は非常にシビア。走り方で走行可能距離は大きく変わってしまう。

それならばシールのように100%充電時は走行可能距離MAXの値を表示し、減っていったほうがドライバーとしては、心にゆとりが持てるのではないだろうか。

都心から河口湖に向かう中央道はダラダラとした上り坂が続く区間だ。約90km走行し、途中の谷村PAで計測すると、アリアの残りのバッテリー量は83%。走行可能距離は404km。対して、シールは85%、547kmとなっている

続いて箱根でも高い場所にある芦ノ湖スカイラインで計測を行う。アリアの残りのバッテリー量は69%。走行可能距離は340km。対してシールは70%、走行可能距離は451km。上り坂の多いワインディングセクションで残りのバッテリー量は1%となりほぼ互角の様相だ。

箱根から小田原まで一気に降り、平坦な西湘バイパスを通り江の島付近で再び計測を行う。アリアの残りのバッテリー量は64%。走行可能距離は371km。シールは66%、422kmとなった。前回の計測ポイントから58km走行したにも関わらず、バッテリー量の減りが少ないのは、箱根から小田原に下るときにエネルギーを回生したからだ。

その時アリアをドライブしていたが、箱根新道の頂上から最終地点に降りるまでに約90kmも走行可能距離が伸びた。エネルギーの回生はBEVの特徴であるが、以前乗ったモデルよりもこの回生の性能が格段に進化していることを実感した。

結果

最後の高速セクションを走行して、ゴール地点である横浜にある日産本社に到着。ここでは同じ性能の急速充電器を使用して各車の充電性能のチェックも行う。まず電費テストの結果だが、アリアはバッテリーの残量は56%。走行可能距離は332km。満充電時の走行可能距離は約588.5kmとなり、カタログ燃費の91.9%という達成率となっている。

対して、シールのバッテリー容量は58%。走行可能距離は374kmで、満充電時の走行可能距離は約629kmと98.2%となった。

今回の電費テストの結果をみると、ボディサイズの違いによる空力性能の差があるとはいえ、シールのほうがエネルギーマネージメントにおいて優位があることがわかった。テスト中は両車ともにエアコンの設定温度を25度に設定したが、シールはエアコンをオンにしても走行距離に変動は見られなかったからだ。電費にシビアなBEVだからこそ、上手なエネルギーマネージメントが求められる。その点でバッテリーメーカーがルーツであるBYDは一日の長があると言える。

最後に急速充電器で30分充電した結果だが、アリアは93%まで充電でき、33.9kWh充電できた。

対してシールは94%、34.6kWhで、充電性能もシールが若干リードするという結果となった。

日産アリアとBYDシールは、SUVセダンというボディタイプ以上に、同じ2WDとはいえ、前輪駆動のアリアと後輪駆動のシールでは全く走行フィールは異なったので、この点で比較するのはナンセンスだ。しかし、様々なシーンを走行した電費テストは興味深い結果となった。これを見て、日産アリアB9 2WDとBYDシールRWDの約200万円差を考えた時に、今後の低価格BEVにおけるBYDに優位性がある言えるだろう。

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