打球が走者に当たってもアウトにならない?問題のプレーはどのように起きたのか
フェア地域に飛んだフェアボール(打球)が走者に当たると、ルール上、アウトになる(野球規則5.09)。昨年6月25日の中日VSヤクルトで、中日の一塁走者・細川成也が福永裕基の二塁正面への打球を避けきれずに蹴飛ばしてしまい、守備妨害でアウトになった珍プレーも記憶に新しい。だが、その一方で、打球が走者に当たってもアウトにならない場合もあり、野球のルールはなかなか奥が深い。
打球が走者に当たったのに、アウトにならなかったケースとして知られるのが、1958年10月11日の日本シリーズ、巨人VS西鉄第1戦で起きたプレーだ。
3-1とリードした巨人は、7回にも長嶋茂雄の右越え2ランでリードを広げたあと、藤尾茂も左前安打で続き、無死一塁。そして、次打者・川上哲治が強い当たりの投ゴロを放つ。これを河村久文がグラブではじいてしまい、軌道を変えた打球は、二塁ベースの右横へ。直後、二塁に向かっていた藤尾は、勢い余ってボールを蹴飛ばしてしまった。
通常なら守備妨害でアウトになるところだが、前出の野球規則5.09では、アウトになるのは「野手(投手を含む)に触れていないフェアボールが、フェア地域で走者に触れた場合」で、このケースでは、すでに河村がボールに触れていたので、藤尾はセーフ、川上に一塁内野安打が記録された。
無死一、二塁とチャンスを広げ、勢いづいた巨人は、その後、岩本堯の二塁打など3長短打で4点を追加。一挙6得点で試合を決めた。
◆2001年「横浜VS広島」で起きた珍場面
これとは逆に、すでに投手が触れた打球が走者に当たったにもかかわらず、アウトを宣告される珍場面が見られたのが、2001年4月12日の横浜VS広島だ。
2-1とリードの横浜は7回一死一塁、石井琢朗が佐々岡真司のグラブをはじく打球を放つ。直後、軌道を変えた打球は二塁ベースの2、3メートル手前で、一塁走者・石井義人に当たった。
すでに佐々岡が打球に触れていたので、通常ならアウトにはならないはずだった。ところが、横浜にとって不運だったのは、セカンド・木村拓也がすぐ後方で捕球態勢に入り、待ち構えていたことだった。野球規則7.09(走者が打球処理中の野手を妨害)が適用され、石井義は守備妨害でアウトになった。
もし石井義がうまく避けていたら、二塁はセーフになっていたか、それともアウトだったかは、“神のみぞ知る”だが、“痛恨のプレー”で追加点のチャンスを潰した横浜は、直後の8回に5点を失い、終盤の猛反撃も及ばず、6-7で惜敗。まさに試合の流れを変えた守備妨害だった。
◆守備妨害がサヨナラ勝ちの“呼び水”になったケースも
打球が走者に当たり、守備妨害でアウトになったことが回りまわって、ラッキーなサヨナラ勝ちが転がり込んできたのが、2015年の西武だ。
6月11日の広島戦、4-4で迎えた9回裏、西武は代打・大崎雄太朗の右前安打と栗山巧の四球で一死一、二塁とサヨナラのチャンス。
だが、次打者・浅村栄斗は、ショート・田中広輔のほぼ正面にゲッツーコースのゴロ。せっかくのチャンスも水の泡と消え、延長戦突入と思われたが、ここからまさかのどんでん返しのドラマが幕を開ける。
この日1軍に昇格したばかりの二塁走者・田代将太郎(大崎の代走)が、田中の前を通過しようとした際に、右足に打球を当ててしまったのだ。「ゴロの上を飛んで避けようとしたが、人工芝で打球がポンポンと加速して跳ねたので、避けられなかった……」(田代)。
田代は守備妨害でアウトになったが、打球が当たった時点でボールデッドになったため、結果的に併殺でスリーアウトチェンジという最悪の事態を回避することができた。
佐々木昌信球審は「(打球の)目の前で止まったり、サッカーのように蹴飛ばしたり、悪質なケースは、審判団の判断で1度に2つアウトが宣告されることもある。今日は故意に当たったとは認められなかった」と説明した。
浅村には内野安打が記録され、二死一、二塁から試合再開。田代のチョンボにアシストされる形で思いがけずチャンス継続となった西武は、中村剛也の四球で満塁としたあと、エルネスト・メヒアが中田廉から中前にサヨナラ打を放ち、劇的勝利を収めた。
大喜びの西武ナインは、打のヒーロー・メヒアそっちのけで、「お立ち台は田代だろ!」「マーシー、ナイス当たり屋!」と田代にエールを贈っていた。
2020年のルール改正では、これまで内野手の後方に転がった打球がフェア地域で走者に当たった場合はアウトにならなかったのが(故意に当たった場合を除く)、内野手(投手は除く)がトンネルなどのミスを犯して後方に転がった場合などを除き、野手の間を抜けた打球が走者に当たった場合は、原則としてアウトに変更された。
田代のような結果オーライのケースもあるが、走者が打球に当たっても、あまりいいことはなさそうなので、走塁の際にはくれぐれも打球の行方にご用心を!
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)
3-1とリードした巨人は、7回にも長嶋茂雄の右越え2ランでリードを広げたあと、藤尾茂も左前安打で続き、無死一塁。そして、次打者・川上哲治が強い当たりの投ゴロを放つ。これを河村久文がグラブではじいてしまい、軌道を変えた打球は、二塁ベースの右横へ。直後、二塁に向かっていた藤尾は、勢い余ってボールを蹴飛ばしてしまった。
通常なら守備妨害でアウトになるところだが、前出の野球規則5.09では、アウトになるのは「野手(投手を含む)に触れていないフェアボールが、フェア地域で走者に触れた場合」で、このケースでは、すでに河村がボールに触れていたので、藤尾はセーフ、川上に一塁内野安打が記録された。
無死一、二塁とチャンスを広げ、勢いづいた巨人は、その後、岩本堯の二塁打など3長短打で4点を追加。一挙6得点で試合を決めた。
◆2001年「横浜VS広島」で起きた珍場面
これとは逆に、すでに投手が触れた打球が走者に当たったにもかかわらず、アウトを宣告される珍場面が見られたのが、2001年4月12日の横浜VS広島だ。
2-1とリードの横浜は7回一死一塁、石井琢朗が佐々岡真司のグラブをはじく打球を放つ。直後、軌道を変えた打球は二塁ベースの2、3メートル手前で、一塁走者・石井義人に当たった。
すでに佐々岡が打球に触れていたので、通常ならアウトにはならないはずだった。ところが、横浜にとって不運だったのは、セカンド・木村拓也がすぐ後方で捕球態勢に入り、待ち構えていたことだった。野球規則7.09(走者が打球処理中の野手を妨害)が適用され、石井義は守備妨害でアウトになった。
もし石井義がうまく避けていたら、二塁はセーフになっていたか、それともアウトだったかは、“神のみぞ知る”だが、“痛恨のプレー”で追加点のチャンスを潰した横浜は、直後の8回に5点を失い、終盤の猛反撃も及ばず、6-7で惜敗。まさに試合の流れを変えた守備妨害だった。
◆守備妨害がサヨナラ勝ちの“呼び水”になったケースも
打球が走者に当たり、守備妨害でアウトになったことが回りまわって、ラッキーなサヨナラ勝ちが転がり込んできたのが、2015年の西武だ。
6月11日の広島戦、4-4で迎えた9回裏、西武は代打・大崎雄太朗の右前安打と栗山巧の四球で一死一、二塁とサヨナラのチャンス。
だが、次打者・浅村栄斗は、ショート・田中広輔のほぼ正面にゲッツーコースのゴロ。せっかくのチャンスも水の泡と消え、延長戦突入と思われたが、ここからまさかのどんでん返しのドラマが幕を開ける。
この日1軍に昇格したばかりの二塁走者・田代将太郎(大崎の代走)が、田中の前を通過しようとした際に、右足に打球を当ててしまったのだ。「ゴロの上を飛んで避けようとしたが、人工芝で打球がポンポンと加速して跳ねたので、避けられなかった……」(田代)。
田代は守備妨害でアウトになったが、打球が当たった時点でボールデッドになったため、結果的に併殺でスリーアウトチェンジという最悪の事態を回避することができた。
佐々木昌信球審は「(打球の)目の前で止まったり、サッカーのように蹴飛ばしたり、悪質なケースは、審判団の判断で1度に2つアウトが宣告されることもある。今日は故意に当たったとは認められなかった」と説明した。
浅村には内野安打が記録され、二死一、二塁から試合再開。田代のチョンボにアシストされる形で思いがけずチャンス継続となった西武は、中村剛也の四球で満塁としたあと、エルネスト・メヒアが中田廉から中前にサヨナラ打を放ち、劇的勝利を収めた。
大喜びの西武ナインは、打のヒーロー・メヒアそっちのけで、「お立ち台は田代だろ!」「マーシー、ナイス当たり屋!」と田代にエールを贈っていた。
2020年のルール改正では、これまで内野手の後方に転がった打球がフェア地域で走者に当たった場合はアウトにならなかったのが(故意に当たった場合を除く)、内野手(投手は除く)がトンネルなどのミスを犯して後方に転がった場合などを除き、野手の間を抜けた打球が走者に当たった場合は、原則としてアウトに変更された。
田代のような結果オーライのケースもあるが、走者が打球に当たっても、あまりいいことはなさそうなので、走塁の際にはくれぐれも打球の行方にご用心を!
文=久保田龍雄(くぼた・たつお)