人生で経験したトラウマが晩年の身体的な痛みや孤独感に影響しているという研究結果
心的外傷(トラウマ)は人生にさまざまな影響を及ぼすことがわかっており、過去の研究では幼少期のトラウマが成人の健康や経済状況に関連していることがわかっています。新たな研究では、人生で経験したトラウマが人生の終末期の痛みやうつ病、孤独などに関連していることが報告されました。
The prevalence of lifetime trauma and association with physical and psychosocial health among adults at the end of life - Duchowny - Journal of the American Geriatrics Society - Wiley Online Library
Trauma Takes Its Toll at the End of Life | UC San Francisco
https://www.ucsf.edu/news/2024/10/428576/trauma-takes-its-toll-end-life
Childhood trauma can cause physical pain in late life - Earth.com
https://www.earth.com/news/childhood-trauma-can-cause-physical-pain-in-late-life/
カリフォルニア大学サンフランシスコ校とミシガン大学の研究チームは、50歳以上のアメリカ人約2万人を追跡したHealth and Retirement Study(HRS)のデータを使用して、トラウマが人生の終末期に及ぼす影響を分析しました。今回の研究には、追跡期間中に死亡した約6500人のデータが用いられました。
被験者は追跡期間中に、11項目にわたるトラウマ的な出来事の経験や心理社会的健康についてのアンケートに回答し、平均で78歳に亡くなるまで隔年でインタビューに答えました。また、死後は委任状を持つ家族や友人に聞き取り調査を行い、晩年の健康状態などについての情報が収集されたとのこと。
分析の結果、被験者の5人に2人が幼少期に「警察とのトラブル」や「家族による薬物・アルコールの乱用」といったトラウマを経験していることが判明。また、幼少期にトラウマとなる可能性が最も高いのは「留年」であることもわかりました。
成人期に経験するトラウマとして最も一般的だったのは、「自分が命に関わる病気になる」「配偶者や子どもが命に関わる病気になる」の2つでした。これらと比較すると、「子どもの死」「パートナーが薬物中毒になる」「自然災害に遭う」「武装した戦闘に参加する」といったトラウマを経験した人は少数派だったとのこと。総合すると、参加者の80%以上が生涯で少なくとも1回のトラウマを経験し、3人に1人が3回以上のトラウマを経験していたそうです。
「トラウマの経験がない」と報告した参加者のうち、終末期に中〜重度の痛みを経験する割合は46%、孤独感を覚えている割合は12%でした。これに対し「5回以上トラウマを経験した」と報告した参加者では、終末期に中〜重度の痛みを経験する割合が60%、孤独感を覚えている割合が22%とそれぞれ高くなりました。
終末期にうつ病になる割合も「トラウマの経験がない」参加者では24%にとどまった一方、「5回以上トラウマを経験した」参加者では40%に達しました。また、特に「親による身体的虐待」を幼少期に経験した参加者では、終末期の痛み、孤独感、うつ病と強く関連していることもわかったと報告されています。
論文の共著者であるカリフォルニア大学サンフランシスコ校のアシュウィン・コトワル氏は、「今回の結果から、私たち医療従事者はトラウマのレンズを通して患者のニーズを見るべきだということがわかります。人生の終わり近くで、人々は『全面的な痛み』を経験するかもしれません。それは精神的・心理的な痛みだけではなく、物理的な原因による痛みでもあります。生涯にわたるトラウマが、その痛みの全体的な経験を形作るのかもしれません。心理学者や牧師、ソーシャルワーカーとつながることが、痛みを和らげる最も効果的な方法かもしれません」と述べました。