『奇麗な、悪』ポスター ©2024 チームオクヤマ

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 瀧内公美が主演、奥山和由が監督を務める映画『奇麗な、悪』が、2025年2月21日よりテアトル新宿ほかにて全国順次公開されることが決定した。

参考:映画プロデューサー・奥山和由が語る深作欣二、北野武、そして日本映画の現在

 本作は、芥川賞作家・中村文則の短編小説『火』(河出文庫『銃』収録)が原作。ある人の道を踏み外した悲惨な半生を独白する女の姿を描く。

 ひとりの女が街の人混みのなかを歩く、まるで糸の切れた風船のように。生きることすら危うさを感じるその女は一件の館にたどり着く。女は思い出す、以前に何回か訪ね診てもらった精神科医院だ。人の気配はないがドアは開く。静けさが待ち受けている。医師は今でもどこかにいるのか。女は部屋の空洞に吸い込まれるように中に入っていく。そして以前と同じ様に患者が座るリクライニングチェアに身を横たえる。目の前にあるピエロの人形に見つめられているようだ。「火の、、、火の話から始めることにします」。幼少の頃、カーテンに放った火て起こった事件から話し始める。そして、、、「今日は、全部話す」と。

 主人公の「女」を、長塚京三と共演する映画『敵』や浅野忠信と共演する海外合作映画『レイブンズ』の公開が控える瀧内が演じ、ひとり芝居に初挑戦。劇映画では『RAMPO』以来30年ぶりの監督作となる奥山がメガホンを取った。

 スタッフには、撮影監督にNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などの戸田義久、美術に部谷京子、録音に『ミッドナイトスワン』などの伊藤裕規、音響効果に『PERFECT DAYS』などの大塚智子が名を連ねた。さらに衣装のミハイル・ギニス・アオヤマ(ギリシャ)をはじめ、編集の陳詩婷(台湾)、ヘアメイクの董氷(中国)と国際色豊かなチームとなっている。

 また、劇中に登場する大きな絵画は、後藤又兵衛の『真実』という原画。描く画家が絵に収まってしまい、それを逆に見つめる裸婦という逆転の構図になっており、精神科医と主人公の関係を象徴するかのような絵となっている。後藤は海外で高い評価を得ており、彼の絵の熱心なコレクターとしてハリー・ベラフォンテ、エルヴィス・プレスリー、フランク・シナトラなどが知られている。

 そして、ピエロの口笛のメロディーは、芸術文化功労賞受賞者であり国際口笛大会(IWC)での優勝歴を持つ加藤万里奈が担当した。

 原作者の中村、主演の瀧内、そして奥山監督からはコメントも到着した。

コメント中村文則(原作)映画は、小説よりもどこか「前」を向いている印象がある。瀧内さんによる、奥に芯の見える主人公像もそうだった。この映画はこのように完成したことで、「火」の主人公を救ったのかもしれない。あらゆる文化が平均化していく中で、このような作品が日本映画にあることが、嬉しい。

瀧内公美(主演)2022年6月28日、とっても不思議な映画の企画が届きました。ひとりの女性が延々と喋り続けている。果たしてこれは映画として成立するのか?突飛な企画過ぎるけど、ひとり芝居の経験がない私は挑戦してみたいと思いました。そしてこの女性はこれだけ喋り続けているけれど、このひとが“言わないこと”、“言えないこと”ってなんだろう? を探し続けることとなりました。奥山監督をはじめ、スタッフの皆さんと大勝負に出たこの作品をどう受け取ってくださるのか楽しみにしています。

奥山和由(監督)20世紀を代表する映画監督、イングマール・ベルイマンは晩年『A SPIRITUAL MATTER』という女優の一人語りの脚本を仕上げ、映画化を熱望した。にも関わらず、あまりにも突飛なコンセプト故に出資者が見つからず実現出来なかった。自分の才能はかの巨匠の足元にも遥かに及ばないが、最後にそのような映画を作りたいと思ったベルイマンの想いは相似形のものとして痛いほど理解できる。幸運なことに自分は中村文則の魅惑的言葉と瀧内公美の演技力に恵まれ、実現出来た。さらに撮影監督の戸田義久さん、口笛奏者の加藤万里奈さん始め才能豊かなスタッフ方々が集まってくれた。本当に幸せな映画だと思う。そして我が映画人生の最後にこのような我儘を許してくれた全ての方々に心底感謝している。(文=リアルサウンド編集部)