豊田市・みよし市の2つの自治体が選挙区の愛知11区。約38万3000人の有権者がいます。注目されるのは、「トヨタ系労組票の行方」です。

トヨタの本社や工場など、自動車関連の企業などが数多く集まる「企業城下町」豊田市とみよし市が選挙区の「愛知11区」。関連産業で働く有権者も多いエリアです。

過去の選挙でも、「トヨタ系の労働組合」が影響力を示してきました。

1969年の選挙から、トヨタグループの労働組合内から擁立したいわゆる「組織内候補」が当選を重ねてきました。

2003年からは組織内から擁立された古本伸一郎氏が6回連続で小選挙区を制し、民主系の候補が強い選挙区でしたが、その「歴史」に異変が起きたのは3年前。

「私、古本伸一郎はこの度の総選挙に出馬しません。良質な保守が政策を競う2大政党を夢見たが、叶いませんでした」(元衆議院議員 古本伸一郎氏)

前回の衆院選直前に、古本氏が立候補を断念。約50年にわたり続いてきた「組織内候補」擁立の流れに終止符が打たれました。

今回の衆院選、愛知11区からは次の3人が立候補しています。

自民・前 八木哲也氏(77)

トヨタ系労組の「組織内候補」不出馬により、前回は「小選挙区」で圧勝した自民党の前職・八木哲也氏。5回目の当選を目指します。

先月の自民党総裁選で、八木氏は石破新総理の推薦人に名を連ねていました。

「石破総理を支えてきて、僕としてはこれが正しかったという証明になった」(自民・前 八木哲也氏)

動き出したばかりの「石破政権」。しかし地元で感じるのは、自民党の古くからの「体質」に対する批判の声だといいます。

「裏金というと語弊ありますが、収支報告書の不記載ですが私はその対象でないことは事実。あちらに行ってもこちらに行っても、『しっかりしろよ』と言われることはあるので、議員ひとりひとりが身を引き締めなければいけないと思う」(八木氏)

公示前の週末、地元の祭りに顔を出した八木氏。賑わう神社の境内で思いをはせるのは、ふるさとと国の未来です。

「東京一極集中を是正しろと言われているが、豊田市の中でも町の中に一極集中。地方自治体の中で一極集中をどのように対応するかが国につながっていく」(八木氏)

八木氏は、地元の問題を解決できなければ東京一極集中の解消にはつながらないと訴えます。

国民・新 丹野みどり氏(51)

地元に伝わる「木遣り唄」。保存会の集いに訪れたのは、国民民主の新人・丹野みどり氏です。

かつてトヨタ系労組が支持してきた「民主系」からの立候補ですが、丹野氏はこれまで名古屋のテレビ局でアナウンサーとして活動。労働組合出身ではない「組織外候補」です。

トヨタグループの労組からも推薦を受けていますが、陣営からは「労組の全面支援」について懸念の声も聞かれます。

「ふるちゃん(古本氏)の時のように組合員がたくさん応援に来ることはない。地域でどれだけいろんな人が支えてくれる組織を作って活動するか、それが本来の議員の後援会のあり方だと思っている」(丹野氏の後援会長 東正元さん)

「この2年間50カ所以上、のべ800人以上の方にご参加いただき、おしゃべり会を各地の交流館でやってきました。何よりもの成果は、皆様との出会い」(国民・新 丹野みどり氏)

「組織外候補」だからこそ、地域とのつながりをより重視してきたと丹野氏は訴えます。

「長年ニュースキャスターをやっているが、20年間ニュースの中身は変わらないし、政治とカネの問題自体も全然解決しない。いろんな方が生きやすい社会につながると思っているので、女性が働きやすい環境、女性が生きやすい環境を議員として届けていきたいと思っている」(丹野氏)

共産・新 植田和男氏(75)

「政治にはやらないといけないことがたくさんあります。第一に物価高で苦しんでいる皆さんの生活を少しでも助けること。ところが今の自民党政権、そういうことには冷たい」(共産・新 植田和男氏)

共産党の新人・植田和男氏は「物価高対策」を第一の政策に掲げます。子どものころの自身の経験が、今の政治信条につながっているといいます。

「父親が大阪で鉄工所を経営していて、朝鮮戦争の時に特需があり、借金をしてたくさん機械を入れて、これからというときに特需がなくなり、借金だけが残って、倒産した。夜逃げみたいに。朝起きたら親父とお袋がいなかった。幼い妹を連れて」(植田氏)

その後、両親らが名古屋にいることがわかり、再び一緒に暮らすことができたと話します。

「大変な極貧というような生活から始まった。『自分たちが十分勉強してなかったから、世間にだまされた』みたいなことをよく母親が言っていた。だから子どもだけはちゃんと勉強させたいと」(植田氏)

大学在学中に、共産党に入党した植田氏。消費税の引き下げや、職場の労働環境の改善を推し進めていきたいと訴えます。

「愛知11区はトヨタの街。働く人がたくさんいる。働き方というか働かされ方の改善を政治の力でやっていく。日本経済を支える土台にもなるし、今の生活を改善するためにも必要だと思うので訴えていきたい」(植田氏)

トヨタグループの労働組合の「全ト」元会長の東さんによりますと、「組織内候補」と「組織外候補」の違いは「組合員による支援活動に濃淡がある」とのことです。

選挙運動の8割以上を組合の中で行う「組織内候補」と比べ、「組織外候補」の場合、選挙区内の地域を回る演説会や街頭演説の割合がはるかに大きいとのことです。

労組としての支援・推薦という動きはあるものの、組合員の投票先は「自由」です。

労組系の候補が出馬しなかった前回の衆院選で八木氏に数多く集まった票が今回、丹野氏や植田氏にどの程度流れるのかが勝敗の行方を左右するとみられます。