一部が干上がり、地面がひび割れた中国・江西省南昌市の川/Thomas Peter/Reuters

(CNN)人間の存在によって世界の水循環のバランスが崩壊し、各地で水不足の被害増加に拍車がかかっている。「人類史上初」となるこうした事態は、経済や食糧生産、人々の生活に大混乱を引き起こすとみられる。新たな重大報告で明らかになった。

過去数十年間の破壊的な土地使用、誤った水管理が人間由来の気候危機と重なって、「前例のないストレス」を世界の水循環にもたらしているという。国際的なリーダーや専門家で構成する団体、「水の経済学に関するグローバル・コミッション」が16日、そうした内容の報告書を発表した。

水循環とは、水が地球上を移動する複雑なシステムを指す。水は湖や河川、植物などを通じて地上から蒸発し、大気へと上昇。巨大な水蒸気の雲となって長距離を移動する。その後冷却、凝結し最終的に雨や雪として地表に戻ってくる。

水循環の破壊は既に被害をもたらしている。30億人近くが水不足に直面し、穀物の生育が阻害され、地下水の枯渇で都市の沈下も進む。

緊急に措置を講じなければ、結果はさらに破滅的なものとなる。水危機は世界の食糧生産の50%超を脅かし、2050年までに各国の国内総生産(GDP)は平均8%低下するリスクを抱える。報告書によれば、低所得国での下げ幅は最大15%と一段と激しくなっている。

「水の経済学に関するグローバル・コミッション」の共同会長で報告書の著者でもあるヨハン・ロックストローム氏は、世界の水循環のバランス崩壊を「人類史上初」の事態と指摘。「あらゆる淡水の源である降水量はもはや当てにならない」と述べた。

水循環の崩壊は気候変動と「深く結びついている」と、報告書は結論する。

土壌や植物に含まれる水を意味する「グリーンウォーター」の安定的な供給は、植生を支える上で極めて重要だ。植物は温室効果を持つ二酸化炭素を内部にため込むことができる。ところが湿地や森林の破壊などで人間が悪影響を及ぼせば、植物の吸収する二酸化炭素量が減少し、地球温暖化に拍車がかかる。気候変動による高温は地形を乾燥させ、湿度が失われることで火災のリスクも高まる。

報告書の計算によれば、人々が「尊厳ある生活」を営むには最低でも1日平均約4000リットルの水が必要だという。これは国連が基本的に必要と定める50〜100リットルを大きく上回る。大半の地域では、現地の水源から供給できる量はこれを下回っている。

報告書の著者らは、世界各国の政府が水循環を「公共の利益」と認識し、問題解決に向けて集団的に取り組む必要があると訴える。各国は国境を隔てる湖や河川だけでなく、大気中を長距離移動する水を通じても相互に依存する関係にある。つまり一国の下す決定が、他国の降雨を阻害する可能性もある。

報告書は、「経済における水の根本的な再適応」が必要だと説く。具体的には水の価格を上げることによる浪費の抑制、水資源が圧迫されている地域で水を豊富に必要とする穀物を栽培する傾向に歯止めをかけることなどが挙げられる。データセンターのような大量の水を使用する施設についても、同様の措置が必要だという。

世界貿易機関(WTO)の事務局長で上記コミッションの共同会長、ゴズィ・オコンジョイウェアラ氏は「世界の水危機は悲劇だが、水の経済学を変革する好機でもある」と指摘。水に適正な価格を設定するのは重要で、それにより「水の希少性とそれがもたらす多大な恩恵を認識出来るようになる」と付け加えた。