「プライベートについてもみんなにわかってほしくなった」と語る島田珠代さん(撮影:尾形文繁)

吉本新喜劇の看板女優として活躍する島田珠代(54)さんが、初めてのエッセイ本『悲しみは笑い飛ばせ! 島田珠代の幸福論』を刊行した。そこでは、芸人としてのこれまでの歩みに加えて、2度の離婚、夫をがんで亡くしたこと、最愛の娘と長年別居を余儀なくされたことなど、彼女の壮絶な人生経験が赤裸々に語られている。

舞台上で明るく華やかな姿を見せる裏で、人知れず苦悩を抱えていた彼女が、この本を通して伝えたかったこととは?

舞台以外の場所では器用じゃない

――このようなプライベートな話を書くことに抵抗はなかったですか?

あんまり生活感がないような芸風だったので、所帯じみたことを書いたら芸に響くかな、とも思ったんですけど、子供と離れていた時期は本当につらくて。仕事の前に気持ちを毎回グッと上げるのが大変だったので、これを言わずにはおられへんなっていうか、みんなにわかってほしくなったっていうところもありました。今は娘とも一緒に暮らしていますし、幸せやからこういうことも言えるのかなと思いますね。

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――本を書くことで、改めてご自分の人生を振り返ってみたお気持ちは?

いろいろしんどかったなと思います。私、新喜劇という舞台の中だけではうまいことやらせてもらってるんですけど、それ以外のところではそんなに器用じゃないので、振り返ってみたら失敗ばかりで、落ち込んでばかりでした。

――最近では『かまいたちの机上の空論城』『相席食堂』などのテレビ出演でも話題になっていましたね。

私、割と1人の作業の方が好きなんです。どっちの企画も好きなようにやらせてもらえたから、それがうまいことはまったっていう感じです。

『相席食堂』では、真夏の嵐山の山奥でロケをしていて、関節も外れそうになって、汗も何リットル出たやろ、って感じで。舞台と同じで、とにかく一生懸命やるっていうことだけを心がけていました。そういうのってお客さんには絶対に伝わると思うので。


思わず涙ぐむ場面も(撮影:尾形文繁)

――舞台にもそういう気持ちで臨まれているんですね。

舞台では今でも毎回緊張してますね。いつも本番前は舞台袖で三角座りして下向いて考えごとをしているので、「珠代ちゃん、暗いな」ってよく言われるんですけど、それにはちゃんと理由があって。私は一回一回、本番にやることを頭の中でシミュレーションしているんです。

いつも同じようなギャグをやっているんですけど、シミュレーションしないと自分でも新鮮味がなくなって、面白くなくなるんです。繰り返し同じことを考えることで、自分の中でリセットされて、同じ流れの中で新しく違う動きを入れられたりもする。だから、私の中では必要な作業なんですよね。

泣いているとき東野幸治にかけられた言葉

――珠代さんは学生の頃から、友達の前でギャグやモノマネをやるような明るいキャラクターだったそうですが、二丁目劇場のオーディションに受かってプロとして活動するようになってから、意識ががらっと変わったそうですね。

そうですね。学校では何クラスも回って、一発ギャグや先生のモノマネをしたら、絶対に大爆笑が来てたんです。でも、プロになって劇場に立ったら現実を見せられて、もっとネタを考えないといけないと思って、どんどん余裕がなくなってきたんですよね。友達からも気を使われて、遊びにも誘ってもらえなくなったりして。

そんなときに、二丁目劇場でネタを思い出せなくて頭が真っ白になる事件が起こるんです。舞台上で何も言葉が出てこなくなって黙っていたら、女子高生のお客さんたちが「がんばって!」って応援してくれて、それが余計につらくて。

舞台を下りてセットの隅っこに入り込んで泣いていたら、先輩の亀山房代さんに声をかけてもらって。「私は1人ではネタができないけど、珠代ちゃんはネタをやる根性があるんだから、そんなことで泣いたらあかん」って励まされて。

その後で2人でしゃべっているのを見ていた東野(幸治)さんも寄ってきて、「これからもっと広いところに行くねんから、こんな狭い土俵で泣いたらあかんで」って言ってくださって。そのときに、ああ、芸人の世界っていいなあ、と思いました。


「同じようなギャグをやる場合でも、一回一回、本番前にシミュレーションをすることで面白くなる」と語る島田珠代さん(撮影:尾形文繁)

――そんな二丁目劇場での経験を経て、吉本新喜劇に入ることになり、そこでもまた苦労をしたそうですね。

二丁目劇場のお客さんは若い女の子ばっかりだったんですけど、新喜劇をやっているなんばグランド花月は、子供からおじいちゃん、おばあちゃんまで幅広い客層だったので、二丁目でやっていたようなことをやっても全然ウケなかったんです。

でも、とにかく最初に芽を出しておかないと意味ないと思って、自分なりに前に出ようとするんですけど、古株の方からは「ああいう目立ち方はやめろ!」って言われて、ハンガーを投げられたりしたこともありました。

今までの新喜劇では、三枚目の女優さんが壁にバーンってぶつけられたら、そのまま終わっていたんです。でも、私はそこで何も言わないのは悔しいから、「優しいのね」って一言付けるようにしたんです。

これからは男の人だけが笑いを取る時代ではないと思っていたので、その一言で反撃しているみたいな感じで。なるべくかわいらしく言うようにしていました。

容姿イジリについて思うこと

――新喜劇では三枚目キャラとして活躍されていますが、最近の「容姿イジリで笑いを取るのは良くない」という風潮についてはどう思われていますか?

それね、よく聞かれるんですけど、私は三枚目というのに人生捧げてきてるので、私に聞かないで、っていうのがあります。それでずっとご飯食べてきているし、いま幸せやから。そういうマシーンだと思っているので、舞台の上で不細工って言われても、怒ったりするというのは全然ないです。

どちらかというと「かわいいね」とか言われた瞬間に、ああ、芸人としては終わった、と思っていたので。そう言われたら嫌な気はしないですけど、キャーって走って出ていきたくなっちゃいます。私のことをかわいいねって言ってくれる人は、世界に1人だけでいいんです。それ以外は要らない。


「舞台の上で不細工って言われても、怒ったりするというのは全然ない」と語る島田珠代さん(撮影:尾形文繁)

――珠代さんのギャグは、下ネタ的なものが多い印象がありますが、下ネタにはこだわりがあるんでしょうか?

いや、特にないです。私の場合、父も母も良い大学を出ていて、ちゃんとしてるんですよね。その血を引いてるから、きっと何をやっても品が悪くはならないんじゃないかな、っていうのを信じてます。

あと、動きで笑かすとなると、どうしても終着駅がそっちになってしまうんですよね。そうじゃないと落ちないような気がしてしまって。

でも、それは私の勉強不足なところで。下北沢の「ザ・スズナリ」みたいなところできちんとしたコメディをやりたいという夢があって。お尻とかおっぱいとかじゃなくても笑いが取れる技術を学んでいきたいです。

舞台を下りたらただのがらんどう

――本の中では、プライベートで珠代さんが経験したご苦労についても書かれていますが、やはり一番つらかったのは娘さんと離れて暮らしていた時期でしょうか。

そうですね、つらかったです。あの頃はもう自分がない、みたいな感じでしたね。舞台をやっているときだけが自分で、舞台を下りたらただのがらんどう、みたいな。だから舞台をやっていてよかったなと思いました。愛する対象がお客さんしかいなかったので、がむしゃらにお客さんを喜ばせたい、という気持ちがありました。

そんな自分が自分じゃないみたいな状態のときに、今のパートナーと会ったんです。バーでたまたま隣に座って話をしたときに、ふわっと私を包み込んでくれるようなオーラを感じて。そこからご飯に行ったりするようになりました。


「『がむしゃらにお客さんを喜ばせたい』という気持ちで自分を保っていた」と語る島田珠代さん(撮影:尾形文繁)

――娘さんとも一緒に暮らすようになって、最初はすれ違いも多かったようですが、今は良い状態になってるんですよね。

すごく良い状態です。中2のときにバーンと娘の不満が爆発して、部屋に閉じこもってしまったんです。つらかったですね。私はずっと仕事を一番にしてきた人間なんですけど、あのときだけは、芸事を捨てたら娘と仲良くなれるんだったら、捨てられるな、と思いましたから。そのときに、ああ、私は人間なんだ、と気付かされました。

娘が大きくなったときに……

――娘さんと暮らすようになってからは、お仕事も順調ですか。


そう言えるほどどっしりはしてないですけど、ありがたいことにいろいろ挑戦させてもらっています。常に緊張はしているし、怖いなあという気持ちはあります。

ただ、離れて暮らしていたときから考えていたのは、娘が大きくなったときに、お前の母ちゃんはこんなことやってるのかって、いじめられたり、からかわれたりしないかな、という気持ちがあって。

そうならないために、私、もっと強くならなきゃ、と思ったんですね。あそこの母ちゃんは突き抜けてるから、もうあいつにちょっかい出すのやめとこうぜ、って。そのぐらいにならないと娘を守れんわ、と思って、ライオンが牙を剥くみたいに、ワーッてなってました。

この前、キンタロー。ともそういう話をしてました。あそこも娘が2人いるから、ああだこうだ言われないように強くいなきゃね、って励まし合ってました。

(ラリー遠田 : 作家・ライター、お笑い評論家)