高血糖と同じぐらい、いやもっと恐ろしいかもしれない状態があります(画像:Yotsuba/PIXTA)

医療機関専門のサプリメントメーカーを創業して18年になる田村忠司氏がこのたび「サプリメントの正体〔新版〕」を上梓した。サプリメント業界の裏側、本当に飲む価値のあるサプリ、飲んではいけないサプリを明快に語り、発売直後から大きな反響を得ている。

栄養療法に取り組む医師・歯科医師・医療従事者に向けたセミナーを全国で開催し、そのわかりやすさ、栄養療法の知識の深さで多くの医師から絶大な信頼を得ている田村氏が「血糖値で本当に気にしなくてはいけないことは何か」について語る。

「高血糖よりも怖いこと」とは?

「血糖値が高いから糖尿病が心配だ」


「そんな甘いものを食べたら血糖値が上がるよ」

「血糖値」を気にする人は多いと思います。特に40代以上になると血糖値を心配する方が増加します。

しかしその多くは「単純に血糖値が高いこと」を気にしているのではないでしょうか。

血糖値は血液中のブドウ糖の濃さのことです。身近なところでは、健康診断などで測った空腹時の血糖値を覚えておいででしょう。

確かに血糖値が高いと糖尿病のリスクが高まります。糖尿病になって高血糖状態が続くと、全身の血管にダメージを与えてしまいます。高い濃度のブドウ糖がタンパク質を変質させてしまうのです。

糖尿病の合併症として知られる神経障害、網膜症、腎症は、いずれも血管が傷つけられることによって起こるものです。また脳梗塞や心筋梗塞が起こるリスクも高まります。

ただ、これはよく知られている話なのでご存じの方も多いと思います。

しかし実は高血糖と同じぐらい、いやもっと恐ろしいかもしれない状態があります。それが「血糖値の急激な低下」や「血糖値が安定していない」状態です。

血糖値は血中のブドウ糖の濃さだと述べましたが、私たちの全身の細胞はこのブドウ糖を主なエネルギー源として生きています。特に赤血球はブドウ糖だけをエネルギー源にしています。

「キレる上司」の体の中で起こっていること

ですから体にとって血糖値が低くなるのは一大事です。

たとえば仕事が忙しくてお昼を抜いてしまったようなとき。何も食べない時間が続いて血糖値が低下すると、体は血糖値を上げようとして血糖値を上げるホルモンを分泌します。たとえば成長ホルモン、グルカゴン、甲状腺ホルモン、アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールなどです(ほかにもいろいろあります)。

これらのホルモンの働きで、肝臓にたまっているグリコーゲンがブドウ糖に分解され、血中に放出されることで血糖値が上がります。

中でもアドレナリンとノルアドレナリン、コルチゾールの作用は強力です。これらはしっかり血糖値を上げてくれるのですが、同時に私たちにとって困った作用も引き起こしてしまいます。頭痛、食欲不振、吐き気、冷や汗、緊張感、イライラ、手や体の震え、不安・恐怖感、頻尿などです。

こうした症状は「血糖値が下がっているぞ」というアラームとして起こっているものなのですが、多くの人はこれを血糖値と結び付けて考えません。「どうも不調だ」「何かイライラする」などととらえてしまうのです。あるいは本人も自覚のないままに、人を怒鳴り散らしたり、ムスッとして不機嫌になっていたりします。

「すぐキレる上司」「人の話を聞けない部下」、あるいは「いつもイライラしているあの人」は実は「血糖値を上げようとアドレナリンを出している」状態なのかもしれません。

血糖値の低下は食事の間隔が空いたときだけでなく、糖質の多い食事をしてしばらくした後にも起こります。血糖値が高くなるとインスリンが分泌され、その働きで血糖が細胞に取り込まれ、血糖値が下がります。

糖質をたくさん食べるとインスリンもたくさん出て、血糖値は上がった後に急激に下がります。

たとえば空腹時に甘いものを大量に食べると、ガーッと血糖値が上がってしばらくするとガーッと下がるというような状態が起こります。

まさに「血糖値の乱高下」です。これは体にもメンタルにも大きな負担をかけてしまいます。

全身の細胞はブドウ糖を主なエネルギー源としていると言いましたが、多くの細胞はブドウ糖以外にも、脂質やアミノ酸もエネルギー源として使うことができます。しかし「赤血球」はブドウ糖だけをエネルギー源としています。赤血球が生きていくためにはブドウ糖が絶対に必要です。

ご存じのように赤血球は全身に酸素を運ぶ重要な働きをしています。赤血球が働けない状態になったら生命の危機です。血糖値の低下に対して様々なホルモンが分泌されるのは、そうした事態を避けるためなのです。

血糖を安定させるには

私たちは高血糖ばかりを気にするのではなく、血糖を安定させ、血糖値の急激な低下を避けることにも気を配る必要があるのです。

筋肉がしっかり付いている方の場合は、タンパク質をブドウ糖に変換すること(糖新生)によって血糖値が維持されるのですが、そうでない方の場合は、食事のとり方を工夫することで、血糖値の安定を図りましょう。

血糖値を安定させる工夫は、血糖値が下がる前に糖質を含む「補食」を食べることです。

誰にでもおすすめできるのは「小さめのおにぎり」です。他にもバナナなどの果物や、スープなどもよいでしょう。

ポイントは2つあり、ひとつは糖質を一気に食べすぎないこと。糖質を摂り過ぎると血糖値が急上昇してしまいます。すると、すでにお伝えしたようにインスリンが多量に分泌され、血糖値が急激に低下してしまいます。「食後、居眠りをしてしまう」「ランチの後、眠くなって仕事にならない」「夕方イライラしてしまう」という人は血糖値の乱高下が起きている可能性があります。

もうひとつのポイントは「補食はお腹が空く前」に食べることです。お腹が空いたと感じたときはすでに血糖値が下がった状態です。そうなる前に食べることで血糖値を安定させることができるのです。お腹が空く前に食べれば、補食は少量で満足できます。

もしご自分に「ランチ前や夕方にイライラして怒りっぽくなる」「血糖値の乱高下が起こっている気がする」という自覚がある方はぜひ「補食」を試してみてください。

「安易な糖質制限」が引き起こす恐ろしいこと

少し前に糖質の摂取を抑える「糖質制限(糖質オフ)ダイエット」がもてはやされました。今現在も実行されている方がいらっしゃるかもしれません。一概に糖質制限がよくないとは言えませんが、糖質制限が合う方と合わない方がいることは知っておいてください。

すでに述べたように私たちの全身の細胞の主なエネルギー源は血液中のブドウ糖です。血糖値が維持できないと、エネルギーが生産できなくなってしまうため、体は次なる策として脂質をエネルギーに変えます。体内の脂質(体脂肪)を血液で運んで体の各組織に取り込み、細胞内でエネルギーを作るのです。

「体脂肪が減るならば結構なことじゃないか」と思われるかもしれませんが、これは糖質をエネルギーに変えるより大きな手間がかかります。また脂質をエネルギーに変換するには糖質も必要なので、体内の糖質がなくなってしまうと脂質をエネルギーに変換する効率も低下します。

そこで体は第3の作戦を実行します。体を構成しているタンパク質を分解してアミノ酸からブドウ糖を作り出すことで血糖を維持するのです。

つまり体内に「ある程度」の糖質がないと、大事な筋肉がどんどんやせ細ってしまうことになるのです。タンパク質は私たちの体を支える土台となっている大事な栄養素ですから、それを取り崩すのは体にとって大変な負担です。

適量の糖質を摂ることで、血糖値を一定に保つことがいかに大事か、おわかりいただけたでしょうか。

「糖質制限ダイエット」でやせるという話はよく聞きますが、「糖質制限をしてもいい人」と「してはいけない人」がいます。

詳しくは「サプリメントの正体」をご参照いただきたいのですが、合わない人が安易に行うと体調を崩す恐れがあります。糖質制限ダイエットは誰にでも向いている方法、おすすめできる方法ではないのです。

(田村 忠司 : 日本一サプリメントを真面目に考える男)