国道の中には、なぜそんなルートになったんだと思うような路線がある。

【画像】 “酷道”の魅力が詰まっている… 静岡−岐阜間に存在する“ヤバい国道”を写真で一気に見る

 例えば、首都圏を環状に走る国道16号は、横浜市西区を起点に東京都八王子市、さいたま市、千葉市などを経由し、東京湾の海上区間を経て、最終的に起点と全く同じ場所に戻って来る。起点と終点が同じ国道は全国に2本のみ。道路が分断されている海上区間を抱えてもいる。かなり特殊な国道だ。

 とはいえ、多くの方は国道の起点と終点なんて気にもしていないと思う。なんなら国道の番号や、国道であることすら知らずに道路を利用している方も多いだろう。道路は道路であり、利用されることにこそ意味があるので、それで何も問題はない。

 むしろ、どんな道路なのか気にしたり、じっくり観察しながら利用している人は、一部のマニアぐらいだろう。しかし、道路に注目することで、見えていたのに見ていなかったことに気づかされたり、面白い発見に遭遇することもある。

国道257号をひたすら北上していくと…

 今回紹介するのは国道257号。静岡県浜松市を起点に岐阜県高山市を終点とする延長225キロ余りの国道だ。起点である浜松市から北上し、県境を越えて愛知県新城市に入る。さらに岐阜県下呂市を経由し、高山市で国道158号とぶつかるところで終点となる。一貫して山間部を北上している印象を受ける国道だ。

 そんな国道257号が実に面白い。なぜか。実際に起点から走ってみることにしよう。

 静岡から愛知を経て岐阜県に入るまで、山間部ながら2車線を維持しており、特に変わった印象はない。そのまま下呂市内で馬瀬川に沿って走っていると……センターラインが消えた。さらに“大型車通行不能”の看板が現れ、少しワクワクしてくる。


この先、道が酷くなることを予告している

 国道なのに対向車とすれ違えないような道路になると、胸が躍ってしまうのは、私だけだろうか。

 国道といえば日本で最上級の道路であり、整備が行き届いた立派な道路をイメージする人が多いだろう。しかし、そのイメージとは裏腹に、道幅が狭く、舗装は剥がれ、路面には無数の落石が転がっているような国道も存在している。私はそのギャップに惹かれ、過酷な状態の国道を求めて全国を巡っている。そして、そのような国道のことを、親しみを込めて“酷道”と呼んでいる。

酷道化した国道257号

 国道257号が酷道化したところで、前方に見えてきたのがトンネルだ。幅員が狭く、車1台分の幅しかない。坑口もレンガや石積みで固められておらず、掘ったままの歪な形で、表面にコンクリートが吹き付けられているだけだ。

 しかし、心躍る酷道区間はあっという間に終わってしまい、センターラインが復活する。

 道の駅パスカル清見付近で国道472号と合流し、2つの国道の重複区間となる。この先は“せせらぎ街道”と呼ばれる区間だ。正式には“飛騨美濃せせらぎ街道”といい、岐阜県内の郡上八幡と高山市清見町の64キロ間の道路を指す。

 複数の国道及び県道により構成され、四季折々の風景が楽しめる。全線2車線で走りやすいことや、2010年に通行料金が無料化されたこともあり、人気のドライブコースになっている。東海地区の方なら、ご存知の人も多いだろう。

 そんな、せせらぎ街道を走っていると、国道257、472号の重複区間にもかかわらず、突然、県道73号に変わってしまう。

 道路脇には、国道であることを示す逆三角形の国道標識が立っているが、そのすぐ先には六角形の県道標識が見えているのだ。

 この道は国道なのか県道なのか……とても不思議な光景だ。

 謎を解明するヒントは、国道標識のすぐ後ろにある。

え、これが国道…?

 細い道が左に分岐している。この左折する細い道こそが、国道本線なのだ。大多数の人は何も気にせず直進しているが、実は国道は左折している。このポイントを境に、せせらぎ街道は国道から県道に切り替わっているというわけだ。

 私は国道を進む目的なので、当然左折する。すると、いきなり驚くほど道幅が狭くなった。路面の状態も酷く、舗装が剥がれかけている。

 本格的な酷道となり、私としては嬉しい限り。だが、一般的には走りにくい道路なのだろう。

 酷道は長くは続かず、1キロほど走ったところで行き止まりになってしまった。

 道は行き止まりになった。といっても、ここは国道の終点ではない。この国道には、道が繋がっていない不通区間が存在するのだ。国道は山によって東西に分断されており、直線距離にしておよそ3キロの距離に道路が存在しない。国道257号を全て巡るためには、不通区間の反対側にも行かなければならないわけだ。

 周辺に迂回路はなく、車で北へ大きく回り込むしかない。地図上では3キロしかない距離を1時間半かけて60キロ走り、ようやく反対側に着いた。道路の重要さを身をもって経験した思いだ。

 迂回してきた国道158号を離れ、国道257、472号を走り、分断区間の末端部に向かう。実はこの国道158号との交差点こそが、国道257号の終点だ。

 ここからは終点から逆行する形で走る。この先が通行止と分かっていてわざわざ突っ込んでいく車は、釣り人か道路マニアぐらいだろう。

 国道257、472号に入るや否や、すぐに対向車とすれ違うのも困難な狭隘路となった。道路脇には「国道257号 4km先 車両通行不能」と書かれた看板が立っている。少なくとも、この先4キロは酷道が楽しめそうだ。

 その先では、国道のすぐ脇に迫力満点の“魚帰りの滝”もあった。これは期待できそうだ。

悪路→快走路→悪路→快走路…酷道257号が歪な道路になってしまったワケ

 1キロほど走ったところで東海北陸道の下をくぐるのだが、その前後の区間のみ、なぜか突然センターラインが復活し、快走路となった。

 そうかと思うと今度は一気に道幅が減少。再び本格的な酷道になる。

 道幅は乗用車1台分しかなく、路面はボロボロ、ガードレールは存在せず、ハンドル操作を誤れば川に転落してしまう。まさに典型的な酷道だ。

 その先でも、わずかな区間が2車線道路になった。かと思えば、またまた酷道になってしまう。なぜこんな歪な造りになっているのか。それは、国道の分断区間を解消するため、かつてバイパスを建設する計画があったからだ。

 1999年に不通区間を含む延長7.5キロの三尾河バイパスが事業化されたものの、2011年に事業休止となり、現在に至っている。その名残が、随所に残っているというわけだ。

 名残は部分的に改良された2車線の道路だけではない。川を渡る部分で左右を見渡すと、立派な橋台が見える。橋を支える橋台のみが造られ、現在に至るまで橋は架けられていない格好だ。部分的に改良された2車線道路はセンターラインが消えかけ、立派な橋台は草に覆われつつあり、夢の跡を感じさせる。

 終点から4キロほど走ったところで、酷道は突然終わる。国道の先にも道は続いているが、舗装されておらず、林道と表記されている。酷道区間の距離は短いが、分断区間やその前後には、十分に楽しめる要素があった。迂回に要する距離と時間も含めて、その過酷さを楽しみたい酷道だ。

 実際に酷道をドライブするにはリスクも伴うため万人にはお勧めしにくいが、季節の風を感じながら、たまには酷道をドライブしてみるのも楽しいだろう。ドライブしなくても、せせらぎ街道の知られざる事実や未完成の三尾河バイパスなど、道に興味を持てばそれだけで人生の楽しみが増えるかもしれない。

撮影=鹿取茂雄

(鹿取 茂雄)